小学生
「またですか」
うんざりそうにそう言ったのは荒木だ。
自粛警察事件が再び起きたのだ。しかも、これで五件目である。
しかも、いずれも他府県ナンバーの車のドライバーに絡んで、騒動を起こした男たちには当時の記憶が無いと言うのだ。
「ここのところ、この手の事件はなぜだか俺たちに回って来る」
不満そうに言ったのは高橋だ。
「それはそれなりの理由があるんですよ」
「加納、それはどう言う意味だ?」
「いいですか、先輩。
この事件はどう考えても不自然なんです。
人の移動の自粛が叫ばれている中、見つけた他府県ナンバーの車の運転手に絡んだ男たち、みな記憶が無いなんてありえませんよ。
しかもですよ。人はそれぞれですが、そんな中の多くの人たちは性格的にも、社会的立場的にもそんな人に絡むような人ではない。
と言う事はですよ。これは誰かが人を操っている。
そんな能力を持つ者の仕業って事ですよ」
「あの矢代のように特別な異能を持っていると言う事か?」
「と思います」
「それがどうして俺たちに回って来るんだ?」
「それはあり難いです」
口を挟んできた荒木に高橋と加納が、なんで? と言う表情で目を向けた。
「あっ、いえ。なんでもないです」
「加納、どうしてだ?」
「私たちはその専任になったみたいですよ」
「はぁぁぁ?」
「先輩、諦めてこの力の謎に取り組みましょう」
「だとして、この事件、何か掴んでいるのか?」
高橋の言葉に加納はにんまりと微笑んだ。
「分かっている事はですよ。先輩」
そう言うと加納はタブレットを差し出した。
そこに映し出されているのは5つの×印が記された地図。
「この×の印が今回発生した事件現場です」
「かなり狭い領域だな」
「しかもですよ、ここに事件の発生時間を表示させると」
そう言って、加納がタブレットを操作した。
「ほら、時間が13時から16時までに限られているでしょ」
「待て、待て。
もう少し地図を縮小して周辺の情報を見せてくれないか?」
高橋の言葉に加納がにんまりと微笑んだ。
「先輩、気づきましたね」
「どう言うことなんですか?」
荒木のその言葉を無視して、加納が地図を縮小した。
「これか?」
高橋がタブレットの地図上に現れた一点を差した。
「おそらく」
加納がそう答えて、言葉を続けた。
「この小学校から事件が発生した5つの場所はつながっているんです。
おそらく通学路。この事件を引き起こしている異能の持ち主は、この小学校の児童で、学校からの帰り道に事件を起こしている。
そして、その児童の家は一番学校から遠い三番目の事件が発生した場所より向こうにある」
「なるほど。
子供じみた融通の利かない正義感だと思っていましたけど、本当に犯人は子供だったと言う事ですか」
荒木が納得気味に言った。
「だが、その子供を特定するのは難しくないか?」
「先輩。そのとおりです。
なにしろ、その子が持っている力が分っていないですからね。
もし、目の前でしか操れないなら、事件現場の近くにいるはずですが、もしそうでないとなると、お手上げですね。
ただ……」
そう言うと加納は再びタブレットを操作し、何件目かの事件が映し出されている車のドライブレコーダーの映像を映し始めた。
「ここに事件を見守る小学生たちの姿が映っていますよね」
遠巻きにして事件を見守っている小学生たちを加納が指さして言った。
「この中にこの事件の異能者がいる可能性があるってことだな?」
「あくまでも可能性ですが」
「で、どうする?」
「純粋な小学生だけに、方法は無い訳ではないですよ」
そう言って、加納が微笑んだ。