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汚染  作者: MEGU
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自粛警察

「小椋さん、正直に言ってもらえませんかねぇ」


 高橋がそう言った相手の中年の男は、病院のベッドの上で右足にギプス、頭部を始めとしたあちこちに包帯を巻いた姿で横になっている。


「だから、何度も言わせないでくれよ。

 気づいたら、こんなに怪我してたんだよ。

 俺は一方的にやられた側」

「では、これ見てもらえますか?

 近くに止まっていたタクシーのドライブレコーダーの画像なんです」


 高橋はそう言いながら、持ってきていたタブレットを小椋に見せた。


「ちょっと、外の音なので声はちょっと小さいですが、よく聞いてください」



 歩道がある片側一車線の道路。昼間と言う事もあって、歩道の上には歩行者の姿が見て取れる。

 歩道から一人の男が車道に停まっている車に近づいたかと思うと、運転席の窓をノックした。




「この人、小椋さん、あなたですよね?」

「確かに俺みたいだが……」




「おい、お前。

 今がどんな時か分かっているのか?

 流行病を広げないために、県をまたいだ移動はするなって言われているだろ!

 よその県からやって来るなよ!」


 小椋が怒鳴ったが、車の方に反応はない。

 すると次の瞬間、小椋が車のドアを蹴った。


 ドン!


「人の車に何するんだよ!」


 蹴られた車の運転席から、若い男が降りて来た。


「お前が悪いんだろ!」


 小椋はそう言いながら、突然若い男に殴りかかった。


 ゴン!


 その拳は男の顔面に命中し、男は自分の車の側面に背をぶつけた。


「痛ってなぁ」


 そう若い男は言ったかと思うと、逆襲が始まった。

 小椋は若い男にボコボコにされ始めた。


「止めろ! 

 お前が悪い!」

「止めろ!

 お前が悪い!」

「悪い事はするな!」


 歩道から三人の男が駆けつけ、若い男を非難しながら殴りかかった。

 そこから、警官がやって来るまで、若い男一人と三人の男の乱闘状態となっていた。

 



「ほらね。小椋さん。

 どうみても、この事件のきっかけは小椋さんなんですよ」

「確かに、今観た映像だとそうだが、俺には記憶が無いんだよ。

 俺は歩いて取引先に向かっていた。

 そして、気が付いたら、俺はそこら中怪我をした状態で、道路に横たわっていたんだよ」

「と言う事は、あの男にやられたと言う記憶も無いってことですか?」


 割って入ったのは加納だった。


「ああ、そうだ」

「まあ、それが真実だとしてもだ、頭部も殴られているんだから、記憶の一部に障害が出たと言う事もありえるだろ」


 高橋が言った。


「今日はこの辺で引き揚げますが、怪我が治り次第、本格的に取り調べを行いますので。

 あの時の事、じっくりと思い出しておいてください。

 そして、その時には正直に話してくださいよ。

 では」


 そう言って、高橋は病室を離れ、小椋の主治医の下に向かった。



「ああ、刑事さん。

 どうぞ、そこに」


 部屋に入って来た高橋達に、小椋の主治医が診察時に患者を寝かせるベッドを指さして言った。

 そのベットの上に高橋達が座ると、主治医は座っている椅子を回転させて向き合った。


「言われておりました小椋さんの記憶障害に関し、脳の検査をした先生に確認しておきましたよ。

 MRIの結果、脳に損傷はないと言う事で、記憶に関しては精神的なものとか、なにかじゃないかとの事です」

「そうですよね。

 精神的と言うか意図的と言うか……。

 何しろあの小椋さん以外の乱闘に関わった三人も同じように記憶がないと嘘を言っていますからね」

「うーん。先輩!

 でもですよ。本当に四人とも嘘をついているんですかねぇ」

「他に何があるんだよ。

 現場が映っている動画はどれも同じだし、脳に損傷は無いし」

「まあ、刑事さん方。

 医学的には脳に損傷は無い。

 それだけです。

 怪我の方はこちらで面倒見ますので」


 主治医の言葉を忙しいから、もう帰ってくれないか、そう言う事だと受け取った高橋は立ち上がった。


「では、先生、今日はこれで失礼いたします。

 小椋に記憶が戻ったとか言う事がありましたら、連絡をお願いいたします」


 高橋たちは立ち上がると一礼して、立ち去って行った。


 単なる行き過ぎた自粛警察事件かとも思われたが、これは始まりでしかなかった。

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