不法侵入
高橋達三人はパトカーで矢代の自宅に向かっていた。
「あんなに嫌がっていたのに、よく行く気になったな」
高橋がハンドル握る加納に言った。
「先輩、私達の班に向かうよう指示が出たんですよね?」
「ああ。報告したら、ちょっと待っていろと言われて、俺たちに向えと指示が出たんだ」
「つまり、自宅には矢代はいないって事ですよ」
「どう言うことだ?」
「知ってます?
この地域にどれだけ多くの防犯カメラが付いているか。
そのカメラの映る範囲に矢代がいたなら、どこにいるかなんて、すぐ分かるんですよ」
「いや、待て。
だから、それなら、矢代のいる場所に向かうべきだろ」
「先輩、ばかなんですか?
そんなところ行ったら、三人とも殺されて終わりですよ。
私はこいつらを何とかしない限り、死ねないんですよ!」
「僕もですっ!」
後部座席の荒木の大きな声に高橋と加納がふり返った。
「なんで?」
「えっ? えーっと。
だって、こんな事をする犯人って、許せないじゃないですか!」
加納の質問に、荒木はそう答えた。
「いや、待て。
俺が聞きたいのはそこじゃない。
加納、こいつらとはどう言う意味なんだ?
矢代以外にもいるって事なのか?」
「あっ。勢いで言い間違えちゃった!
てへっ!」
「大人がてへっなんて言ってもかわいくないぞ!」
「すんまへんなあ」
「なんで、関西弁!」
「着きましたよ」
そう言って、加納が矢代の部屋があるマンションの前に車を停めた。
「ここの三階だ。
加納行くぞ。
荒木は下でベランダを見張っていろ」
そう言って、高橋が真っ先に車を降りた。
303号。
その部屋の前に立った高橋がインターホンを押した。
ピンポーン!
チャイムの音が聞こえるが、反応は無い。
数回押してみても反応は無かった。
「やはりいないのか」
「いや、だから私言いましたよね?
ここにはいないって」
「なら、居場所を突き止めて、そっちに向かうぞ」
「先輩はせっかちですねぇ」
加納はそう言いながら、手袋をした手でピンを取り出してドアの鍵穴に差し込んだ。
「こら、加納、何している」
「開きましたよ!」
悪びれもせず、加納はそう言うと取っ手を掴み、ドアを開けた。
「おい。こら!
令状も何も無いのに、これは犯罪だぞ」
加納を引き留めようと、高橋が加納の肩を掴んだ。
「そうですね。
でも相手も犯罪者ですし」
「いやいや、それ変だろ。
相手が犯罪者なら、こっちも犯罪で対抗していいのか?
違うだろ。俺たちは警察だぞ」
なんて言っている高橋の手をすり抜け、加納は部屋の中に入って行った。
一人暮らしの男のワンルーム。殺風景な部屋の中を加納は見渡したかと思うと、テーブルの横のコンセントの前にしゃがみ込んだ。
「どうした?」
高橋の言葉には答えず、加納はブレーカーの前に行き、ブレーカーを落とした。
再びコンセントの前に座り込んだ加納はポケットから取り出したドライバーでコンセントを外した。
「何してるんだ?」
「盗聴器付けるんですよ」
「おい、こら!
今でも犯罪だが、もっと犯罪だろ!」
「これが上の期待ですよ。
心配しなくても、こんな事、上級国民のお偉いさん方がもみけしてくれますよ」
「それ違うだろ。
お偉いさん方は俺たちの首を差し出して、トカゲの尻尾切りで終わりだろ」
「そっか。
そう言うこともありますね」
「ところで、これが上の期待だとはどう言う意味だ?」
「その内、分かりますよ」
そう言うと黙々とコンセントに盗聴器を仕掛けた加納は矢代の部屋を立ち去った。