お嬢様、好物を食べる
エリアスに、抱きかかえられたまま自室に戻る。
(これが、女性の憧れと言われるお姫様抱っこ…)
友人の女の子達が、一度はされてみたいと話しているのを何度か聞いた事がある。
話を聞いた時私は、ただの運ばれ方の1つでしかないぐらいにしか考えていなかったのだが…
(なかなか、破壊力があるわね…)
などと、恥ずかしさのあまりどこか他人事のように考えていた。
(真面目に考えてると、恥ずかし過ぎるのよッ)
人形のように動けないままの私は、やがてベッドの脇まで連れて来られる。
そして、壊れ物を扱うかのようにそっとベッドに横たえさせられた。
空気を読まないし、私の事をバカにもするけれどエリアスは、『私』をぞんざいに扱った事はない。
(だから、正体がわからないながらも信用してしまうのよね…。)
ベッドの上から、エリアスを見上げる。
相変わらず、私達は未だ口を聞いてはいない。
変に照れが入ってしまい、何を言っていいのかがわからないのだ。
「…。」
「…。」
無言のままエリアスは、私の頭を撫でる。
(気持ちいい…)
顔が熱くなっていたせいか、エリアスの手がヒンヤリと冷たく感じる。
撫でられる気持ち良さに、目を瞑る。
「お嬢様…。」
「?なに?エリアス」
目を瞑っている私に、エリアスは声をかける。
(このまま、気持ちよく眠れそうなのになー…)
気持ち良さに、目を開けずに返事をする。
「お嬢様、目を開けてください。」
切なげな声で私を呼ぶエリアスに、違和感を感じて、私は目を開いた。
(ッ‼︎なに!?)
目を開いて、私は驚きのあまり声が出せなかった。
エリアスの顔が私の顔のすぐ近くにあったからだ。
(近い近い‼︎どうしちゃったの?エリアス)
鼻と鼻がくっつきそうなほどの近さに、何も言えずただ私は目を丸くする。
『ぐー…』
その時、不思議な音が下から聞こえてきた。
よく聞き慣れた音でもある。
私のお腹の音だ。
(…そういえば、まだお昼食べてなかったわね。)
タイミングよく、私のお腹の虫が鳴いたらしい。
ぽかん…と驚いた顔をしていたが、エリアスは途端に大声を出して笑いだした。
「はははッ‼︎
流石、お嬢様。
こんな時にでも、お腹が空くのですね。」
「し…仕方ないじゃ無い‼︎
いざ、昼食って時にに中断されたのよ。」
なんとなく私は恥ずかしくなり、怒る。
(自分でも、タイミングが良すぎると思うわよッ
でも仕方ないじゃない!!お昼まだ食べてなかったんだから)
照れ隠しで少し声を大きくし、私はエリアスに命じた。
「私のお昼を中断したんだから、美味しいもの用意してあるんでしょうね‼︎
さっさと用意しなさいよ、バカ執事。」
「ご用意しておりますよ、お嬢様。」
照れ隠しなどバレバレのようで、エリアスは笑いながら私に昼食を差し出す。
「どうぞお召し上がり下さい。
サンドイッチです。」
「ふんッ‼︎
きゅうり入れてあるんでしょうね。」
エリアスの手から、サンドイッチのお皿を奪い取る。
「ええ。
お嬢様の大好きなきゅうり、沢山入れてありますよ。」
「当たり前よ。
主人の好きな物を用意できていない方が、おかしいのよ。」
そう言って私は、きゅうりのサンドイッチにかぶりつく。
「お行儀が悪いですよ、お嬢様。」
「ほっときなさいよ。
ここにはアンタしかいないんだから、好きに食べて構わないでしょ。」
「いいえ。
普段から気をつけていただかないと。」
「……。」
「それにしても、きゅうりが好きなんて…
安上がりですね、お嬢様。」
「うるさいッ‼︎」
その後はいつも通りの食事をした。
(あれは、なんだったのかしら…?)
あまりに普通に接してくるエリアスに、私は感じた違和感について聞くことができなかった。
ちなみに…私は本当に体調が悪かったようで昼からの授業は欠席をした。
少し熱が出ていたらしい。
(だから、エリアスの手が冷たくて気持ちよかったのね…)
昼食を食べて、薬を飲みそのまま私は次の日の朝まで目が覚める事なく眠り続けた。