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くちびる同盟  作者: 風見 十理
一章  あなたを見つめ
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9.三人の幼馴染



「王太子殿下は、王妃様譲りのハニーブロンドに陛下譲りのアメジストの瞳を持った美形で、まさに王子様。唯一の王子様だけど、次の国王になるのに不足ない、優秀な方らしいわよ。十七なのにまだ婚約者がいないのは、マリーローズ様に懸想していて振り向かせたいから、なんて噂があるわね」


 マリーも貴族として存在だけは知っていたので、頷く。ただし天と地ほど住んでいる場所が違うので、意識したことはなかった。名前さえも知らない。


「そして、マリーのお相手のデジレ様ね」


「お相手じゃないけど!」


「デジレ・シトロニエ様。昔から王家に仕えて信頼を寄せられる、名門中の名門シトロニエ伯爵家の嫡男ね。シトロニエ家特有の、プラチナブロンドにエメラルドの瞳、あの美貌はマリーも知ってるだろうけど、『白金の貴公子』様なんて呼ばれているわ。彼は王太子殿下の側近を務めているけど、文武両道で非常に優秀でなんでもこなすから、眉目秀麗なのも加えて完璧人間なんて言われてるわね。年齢は十九だけど、王太子殿下に婚約者がいないのに自分が持てるはずないと、婚約者がいないらしいわ」


 マリーは苦々しい顔でルージュの説明を聞いた。

 確かに容姿は完璧だったが、完璧人間とは違和感を覚える。マリーにすれば優秀なんてわからなかったし、彼がしたことといえば、勝手なキスと勝手な同盟締結だ。思い出すだけで、マリーは苛々してくる。


「最後に、マリーローズ・プリムヴェール公爵令嬢様。私たちと同じ十六歳で、愛称はマリーっていうのはよく知ってると思うけどね。あの美しすぎるストロベリーブロンド、サファイアをそのままはめ込んだかのような瞳、絶世の美女よね。しかも公爵令嬢だから、完璧な淑女然としていて、社交界じゃ『高嶺の薔薇』なんて言われて、独身男性の憧れよ。殿下の最有力の婚約者候補だけど、他国の王族でも狙っているじゃないかって声がちらほら」


 日頃から情報通を自称するルージュは、話しきると満足そうに胸を張った。


「このお三方が、天上人。しかも幼馴染で、恋の三角関係なんだから、見応えあるのよね」


「ルージュ、恋の三角関係っておかしくない?」


 マリーは今までにもたらされた情報を頭の中で整理して、首をひねる。


「王太子様がマリーローズ様をお好きみたいっていうのはいいけど、シトロニエ様から王太子様へは多分忠誠心だし、マリーローズ様はお好きな相手が不明なんでしょう? だったら、シトロニエ様がマリーローズ様をお好きか、逆にマリーローズ様がシトロニエ様をお好きじゃないと、三角関係にならないんじゃない?」


「うーん、デジレ様がマリーローズ様を好きなんて聞いたことないわね。逆もそう。デジレ様だって相当な優良物件だけど、やっぱり狙うなら王太子殿下じゃない?」


  そういえばリディも王子様がいいと言っていたな、とマリーは思い出す。確かに恋愛小説でもヒーローは王子様が多いが、その点についてはマリーはありえないと現実的に受け止めていた。

 だいたい、今でも貴族の末席に縋り付いている状態で、マナーもなにもまともに知らないマリーには、王子様の相手など荷が重すぎて不可能だ。本物の王子様がいいなと思ったことなど、一度もない。


「まあそれは一旦置いておいて。それで、今後デジレ様とどうするの?」


「……また、夜会に出席する」


 マリーが小声で言った。

 同盟の話の後、あの勢いのままデジレに続けて提案されたことだった。


「また夜会?」


「そうなの! なんだか勢いに圧されて、頷いちゃって……行きたくないのに!」


「いつ?」


「明日」


「明日?」


 一拍間を置いて、マリーは頷いた。ルージュが手帳のようなものを取り出し、なにやら確認しだす。


「明日っていったら、ラモー男爵の夜会ね。わかった、私もすぐに出席の連絡をして、参加するわ」


「ルージュ!」


「だってこんなにおいしい話題、見逃すわけにはいかないわ。しかも当事者から話を聞けるし」


「……ルージュ」


 マリーはがっくり肩を落とした。

 明日の夜会など、あのキスの後なのだから、最悪なことしか思い浮かばない。目的もよくわからず、本当は断りたかったが、デジレから迎えに行くと言われたので、悪くて無下にできなかった。


「それにしても、デジレ様が夜会に出席ねえ。王太子殿下もだけど、お二人とも社交界で有名なのに、公式の場以外は滅多に夜会に出席しないのよね。だから先日はデジレ様がまさかの参加で、令嬢たちがそれは色めき立っていたのに」


「やめてルージュ! 私も予想外だったんだから!」


「噂の時の人が二人、登場ね。楽しみだわ」


「やめてってば!」


 平凡な人生を過ごしたかっただけなのに、一体どうしてこんなことに。

 マリーはあの事件以降、何度も頭を悩ませた内容に、再び(さいな)まれた。


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