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くちびる同盟  作者: 風見 十理
三章  瞳を閉じて
52/139

52.お見舞い

 



「兄妹で、仲良いですよね。でも、なにも一緒にけがしなくてもいいのに」


 リディがけらけら笑いながら、菓子を持ってくる。ベッドに上半身を起こして横たわるマリーは、気まずくて眉尻を下げた。


「……迷惑かけてごめんね」


「いいですよー、ジョゼフさまのあのぼこぼこ具合に比べたら、マリーさまの足のけがなんてかわいいものじゃないですか。お医者さんもまとめてでとっても楽ですもん。安静にしていたら治るみたいでよかったですね!」


 にかっと笑うリディの笑顔に救われるが、やはり申し訳ない。

 先程診てもらった足は、少し強めに(ひね)ったようで()れてきていたが、リディの言った通り安静にしていれば治る怪我との診断だった。

 ベッドから動けないマリーは、それでも小腹が空いて傍に置いてもらった菓子をつまむ。


「いやー、昨日のデジレさまはすごい形相でしたよー」


 マリーは菓子を口に入れようとした手を止めた。昨日のあの夜会から、またいつかのように記憶がない。起きたら今いるスリーズ邸の自室のベッドの上だった。


「マリーさまが自分のせいでけがしたーって、痛みで気絶したみたいだから早く医者をーって。けがしてる足をみたら少し赤くなっているだけでしたし、マリーさまの顔をみたら普通に眠っているだけじゃないですか。だから、大丈夫ですよー寝てるだけですよー、デジレさまの腕の中が気持ちよかったんじゃないですかって言ったら、脱力しそうなくらいほっとした顔してました」


「待って、なにか変なこと言ってない?」


「え? そうですか?」


 リディはなんのことかと首を傾げる。マリーは昨日の記憶がないせいで強く言えなかったが、頬をほんのり染めた。

 リディも自分が持ってきた菓子をつまんで、ぼりぼりと食べる。


「なんだか、マリーさまがデジレさまにキスされた夜会の日を思い出しますよねー。あの時もデジレさま、必死でしたよ。今回は旦那様ちょっといなかったので、ここまでマリーさまを連れてきたの、デジレさまなんですよ。あとお医者さんの手配もですね。お礼言ってくださいね」


 このお菓子はデジレさまのお見舞い第一弾です、とリディがもう一つ食べる。

 手に持った菓子を見つめて、マリーは恥ずかしさにベッドに潜り込みたくて仕方なかった。前回を思い出すということは、以前も同じようにされたのかもしれない。二度も手をわずらわせて、羞恥心に身が(もだ)えそうだ。


「ちなみに、お見舞い第二弾はもうすぐです」


「え?」


 リディが座っていた椅子から立ち上がって、玄関に駆けていく。チャイムが鳴ったと思えば、聞き慣れたデジレの声がした。リディと何やら話しているが、マリーのベッドまでは内容の詳細は聞こえない。

 次第に、遠慮するデジレの声が近付いてきた。リディがいいですからと、ぐいぐい急かすようなな声がする。

 部屋の扉が開いたと思えば、デジレがリディに背中を押されて飛び込んできた。


「あ、マリーさま。デジレさまからお見舞いまた貰ったので、準備して持っていきますねー」


 笑顔でデジレから貰ったらしい白い箱を掲げて見せて、リディは部屋の扉を閉めた。

 しん、と部屋に静寂が訪れる。扉を唖然と見ていたデジレが、髪を軽く掻いた。


「以前もそうだったけれど、独身の令嬢と男を部屋に二人きりにしてはいけないだろう」


「まあうちはそもそも来客がないので……。あれでも、侍女のリディは、ちゃんと人を見てますよ。危ない人は部屋に入れませんから」


 きゅっと口を結んで、デジレがようやくマリーに目を向けた。マリーの胸が、どきんと小さく跳ねる。


「その……近くに行っても?」


「どうぞ?」


 リディが掛けていたベッド横の椅子を勧めると、デジレはゆっくり近付いて座った。申し訳なさそうな、心配そうな表情が近くに見える。


「足の状態は?」


「安静にしていたら治るみたいです」


「そうか、良かった」


 はあとデジレは息をつく。


「あの、デジレ様。昨日、ごめんなさい。それと、ありがとうございます。ここまで運んでくれて、お医者さんの手配もしてくれたって聞きました」


「謝られることでないし、感謝されることでもないよ」


 自嘲気味に言うデジレに、マリーは困ってしまう。何を言おうかとおろおろしていると、デジレが口を開いた。


「ああ、夜会なら、今後の予定は全部キャンセルした。勝手で悪いけれど、その足じゃ参加できない」


「え、全部ですか? デジレ様がいけばいいのに」


「マリーに怪我を負わせて、のこのこと一人で参加できないし、一人で行ってもどうせ相手なんて見つからない」


 また、マリーと呼んだ。彼女は小首を傾げる。

 今ここはスリーズ邸で、マリーローズはいるはずがない。


「ローズ様がどうかしました?」


「え、マリーローズ? 彼女がどうしかした?」


「え?」


「何?」


 デジレは心底不思議そうな顔をしている。マリーこそ、不思議だ。あの時マリーと呼ばれたのは気分が高揚していたからであったはずなのに、まだそれが抜けてないようだ。


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