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くちびる同盟  作者: 風見 十理
二章 頬に手を添えて
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27.気になる人



 会場を出て、人が見当たらないところまでマリーを引っ張っていくと、デジレは真剣な顔を彼女に向けた。


「彼が良かった?」


「え?」


「あれは、気になったという合図だろう?」


 マリーは首を捻り、あっと気付く。

 たしかにデジレは気になった相手がいれば合図してほしいと言っていた。どんな合図かなど言っていなかったので、手のいじりがそう取られても仕方なかった。

 しかし話を聞き流していたマリーには、あのときの相手の男性が誰か全くわからないし、もう外見もおぼろげだ。


「彼なら性格も良いし、まだ婚約者もいない。好きな相手がいるとも聞いたことがない。同じ城内で働いているけれど、悪い噂も聞いたことがないから」


「あ、あの……そうじゃないんです」


 急に申し訳なくなって、マリーは顔を下げる。


「ちょっと、その、退屈で」


「退屈……」


 デジレは呆然と呟いて、自分の髪に指を潜り込ませた。頭痛がするというように、手で頭を押さえる。


「退屈ということは、この方法は合わなかった、ということですね。申し訳ありませんでした。……今回はこの方法しか考えていなかったので、次はもっと良いお相手探し方法を考えてきます」


 マリーがデジレを見ると、彼は明らかに落ち込んだ顔をしていたのに、無理に笑顔を見せてきた。


「それでは、まだ夜会は始まってもいませんが、早々に引き上げましょう。お疲れだと思いますので、しばらくゆっくりしてください。またこちらに迎えにきます」


 そう言うと、デジレはさっと身を翻した。その背中はやはり、しょんぼりとしている。

 マリーは、結婚相手探しの手助けをするとの彼の申し出を受けただけ。一方的にさせてくれと言われて、いやいやお願いしたことにも関わらず、マリーは罪悪感を覚えた。






 ゆっくりしてくれとは、前回のことから気を遣っているのだろうが、マリーには持て余す時間だった。

 引っ張ってこられた場所は奥まった通路だ。慣れ親しんでいるルージュの家であるアマンド子爵邸なので、自分がどこにいるかはすぐわかるものの、今の場所と状況からは行くところがない。

 ひとり会場に戻るなんてとんでもないし、ルージュはきっと変わらず男性に囲まれているはずだ。気付いてくれたとしても、主催者の令嬢がそうそう席を外せるわけがない。

 噂のこともあるので、マリーは他の人に会いたくはなかった。するとこのあたりでおとなしくしているのが一番かもしれない。


 いろいろと考えを巡らせていると、静かな空間に話し声が聞こえてきて、マリーは肩を揺らした。

 声の先を見れば、男性と思しき二人が、まさにマリーがいる廊下に向かってくるところだった。

 マリーの背後の廊下は行き止まりだ。曲がり角は前に見えるものの、走っていこうものならすぐに気付かれる。幸い、話に夢中なのか、彼らはマリーに気付いていない。

 焦りに焦り、どうしようかとおろおろして頭が混乱してくる。


「こっちよ」


 女性の声がしてはっとして振り返れば、ひとつ部屋の扉が開いていて、そこから白くたおやかな手が迎え入れるようにひらひらと揺れている。

 マリーは何も考えず、その部屋に飛び込んだ。

 すぐさま扉を閉じて、耳を当てて外の音を聞く。

 激しい心臓の音を煩わしく思いながら、男性の声を拾う。その声がどんどん小さくなって聞こえなくなると、彼女は脱力して扉から身体を離した。


「もしかして、貴女がマリー?」


 綺麗な声がする。

 ようやく先客がいたのだとマリーが思い出して、顔を向けて――息を呑んだ。

 白く淡い色の金髪がきらきらと輝く。エメラルドのような透明感のある美しい瞳にマリーが映っている。デジレと全く同じ髪色と瞳の美女が、目の前にいた。


「……はい」


 あっけにとられて口だけで肯定すれば、彼女はぱあっと可憐な顔を輝かせる。美しい顔に、精悍さがみられるデジレと違って、女性らしい華やかさを彼女に感じて、マリーは気が抜けた様子で彼女を見つめた。

 途端、首に腕を回されて抱きしめられた。


「会いたかったわ!」


 柔らかい感触に、マリーは混乱した。

 また、会いたかったと言われた。いつの間に自分はそんな存在になっただろうか。

 そこまで考えて、思い出した。今のマリーは噂の的の有名人だった。

 少し現実に戻ると、彼女の細い身体に似合わず張り出した腹に驚く。慌てて身を離せば、彼女は微笑んで膨らんでいる腹に手を当てた。


「あ、いきなりごめんなさい。貴女に会いたくて、ちょっと侍女を巻いてきたものだから」


 ふふふ、と笑う様は目を奪われるほど美しいのに、どこか小悪魔のような雰囲気を感じる。


「はじめまして、マリー。カロリナ・ノワゼットです。デジレの、姉です」


 予想通りの相手だったが、それ故にマリーは身体をこわばらせた。

 何を言われるのだろうと緊張していると、ぐいっとカロリナが距離を再度詰めてくる。


「ねえ、デジレは大丈夫? 貴女に失礼なことしていない? 何かあったら私に言って。デジレを叱り飛ばしてあげるわ」


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