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くちびる同盟  作者: 風見 十理
最終章 くちびるよりも
122/139

122.告白の返事

 


 デジレが、息を整え、改めて口を開く。


「好きだ。気付いた時からずっと伝えたくても、うまく言う機会を逃した。会いたくて、伝えたくて、できることをして、ずっと待って。失恋したと聞き、迷惑かもしれないと思っても、止められなかった」


 そうだ、とマリーは思い出した。

 好きと言われても、まだ喜べない理由がある。マリーは震えそうになる唇を叱咤して、言う。


「失恋って、デジレ様は、ローズ様が好きなんだとばかり」


「何を言っているんだ?」


 デジレが、首を傾げる。聞いたこともない言葉を聞いたかのような、純粋に理解ができないという顔をしていた。

 マリーも首を傾げる。


「……キス、してたじゃないですか」


「ああ、あの時の誤解か。していない。キスはマリーとしかしていないし、今後もマリーだけだ」


 すごいことを言われた気がしたが、まだ気になることはある。


「え、だって、マリーって愛情込めて呼んでましたし」


「あれは最後にもう一度呼んでほしいといわれたからで、もう呼ばない」


「え?」


「まあいい、この話は後で」


 今はどうでもいいことだとばかりに、デジレが話を切る。

 マリーにはとても大切なことだったが、全てあっさり否定されてぽかんとする。

 全てマリーの勘違いならば、本当にデジレが好きなのはマリーで。マリーが好きなのはデジレだ。すると。


「好きなんだ、マリー。自分勝手だけれど、どうしてもこの気持ちを貴女に伝えたくて、知ってほしかった」


 顔を隠したいほど赤くなっていく。一体この人は何度好きと言ってくるのかと、恥ずかしさ紛れにどこかで思う。


「知らせて、どうしたいんですか」


 じりじりと実感してくる事実に、恥ずかしすぎて、ついマリーの口からは試すようなひねくれた言葉が出た。それに気付いて口を手で塞ぐも、デジレは意に介さず真顔で答える。


「これから、同じ気持ちを持ってもらえるよう努力する。責任感ではなくて、そうしたい。マリーには俺を好きになってもらいたい。そうしたら間違いなく、俺は幸せだ」


 幸せ。

 マリーは何度も心の中で反芻(はんすう)する。

 もうどうしようもないくらい、マリーの中はその幸せの色に塗り潰されていった。

 しかしその時、デジレがマリーの腕を離して一歩下がる。その顔は、覚悟ができていると語っていた。


「嫌なら、ひとおもいに振ってくれ!」


 デジレの叫び声が、静かな夜に響く。

 二人とも、しばらく動かず、声も発さなかった。

 マリーは、わけがわからなかった。なぜ、嫌であるのか、振らなければいけないのかさっぱりだ。


「あの」


 恐る恐る沈黙を破れば、ほんの少しの恐怖を(にじ)ませて、デジレがしっかりと顔を合わせてくる。


「どうして、そんなこと言うんですか?」


「マリーは、好きな相手がいるんだろう」


「え、いますけど」


「だから、迷惑ならそうはっきり言ってほしい。はっきり言われない限り、俺は諦めきれない。最近知ったばかりだけど、どうやら俺はとても諦めが悪い質のようなんだ。でも、マリーが嫌だと言うなら……諦めるよう努力する」


 本当に悔しそうに、それでも真摯な目でデジレが伝えてくる。

 あれ、とマリーは不思議に思った。


「デジレ様が言う、わたしの好きな人って、誰ですか?」


「知らない。マリーが教えてくれなかったし、考えてもわからなかった」


 誤解してる! マリーは悲鳴をあげそうになった。

 マリーは、デジレが今の流れでもうわかっているものだと思い込んでいた。

 デジレは何度も好きと言ってくれたが、マリーは一度もはっきりと言っていない。そもそも、以前一度否定している。

 今までのことを考えれば、それではデジレに気持ちが伝わるはずがない。ずっと勘違いさせたままだったのだと、ようやく悟る。


 ここまで来ると、どう考えても、マリーが今、デジレにはっきり伝えないと理解してもらえそうになかった。

 デジレに好きと言う、と思えば、心臓が激しく音を立てはじめる。破裂しそうだ。結果はおそらく想像がつくのに、それでも恥ずかしくて堪らない。

 おかしい。告白は、する方こそ勇気が必要で恥ずかしいものではないのか。返事をする方は同じ気持ちだと、返すだけで良いと思っていた。まさか、返事をする側であるのに、こんなに自分を奮い立たせなければいけないなんて、マリーは想像していなかった。読んだ恋愛小説に、そんなことは書いてなかった。


 あと一歩が踏み出せず、うじうじとしていたせいで、デジレが目に見えてしょげはじめた。

 また勘違いさせてしまう、とマリーは焦る。さすがにここに至ってこれ以上、勘違いしてすれ違うのは絶対に嫌だった。


「諦めなくて、いいですよ!」


 デジレが顔を上げる。マリーが、目を合わせる。

 もう、隠さなくていいのだと思えば、覚えていたかのように勝手に唇が動く。


「わたしの好きな人は、デジレ様ですから!」



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