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1.ファースト・キス
気付いたら、至近距離に長い睫毛が見えた。
白く輝く金色で綺麗だなあとしげしげ見つめていると、ふと、一体誰の顔だろうと疑問が浮かんだ。
いや、それよりも。
なんだか、口元に、違和感がある。
少しの熱と水分を含んだ、柔らかいけれどかさついた何かが、くっついているような。
「んんっ?」
声をだそうとしても出ない。口が塞がれている。
何に? 唇に。
この十六年間、一度も経験がなくてもわかった。
なぜか今、キスされている……!
「んー!」
何これ何これ何これ何これ!
顔を何とかずらそうと試みるも、気付けば後頭部と腰をがっしりと掴まれていて動けない。
手は相手との身体の間に挟まれていたので、押し返そうとするも相手はぴくりとも動かない。
どうしてどうしてどうしてどうして!
今日は夜会に来ただけだったのに。
キスするような相手なんていないのに!
「ん……」
長い。
呼吸が出来ない。
力と意識が身体から抜けていく。
ふわりと清涼感があるシトラスの香が鼻孔をくすぐる。
そうか鼻で呼吸をすればよかったんだと、マリー・スリーズは気絶寸前に気付いた。