ダメ男とヤンデレ彼女
「はいったーくん、今日のお小遣い。パチンコ頑張って来てね。私はお仕事あるから、先に行くねっ。あっ、ご飯はチーンしてね」
ああ、今日も金を渡されてしまった。毎日毎日、ただ飯ただぐらい。そのくせ、ギャンブル代を彼女――神奈に出させるなんて、クズ野郎にも程がある。
今日は絶対にパチンコにいかないぞ。資格の勉強して、神奈を食わせてやるくらい稼いでやるんだ。今年こそは合格しないと、まじで先がないぞ。
一時間後。
でも、今日はラッキー7の日だよ。もしかしたら高設定はいってるかも。新台入荷って書いてある……ちょっと、見るだけ、見るだけなら大丈夫だろ。そうそう、見てダメそうならすぐ帰ればいい。
夜。神奈がかえって来たらしい。くそっ、イライラする。なんでもいいから、殴りてぇ。
「ただいま。ごめんね、残業でおそくなっちゃって。今ご飯作るからね……きゃっ、何? どうしたのたーくん」
怯えた女の目。そうだ、こいつが悪いんだ。こいつがもう一万軍資金渡せば、勝てたのに……くそ、こいつのせいでっ! 俺は思う限り暴力をふるった。気づいた時には傷だらけの神奈が悲しそうに笑っていた。あああ、また、またやっちまったのか。俺は、パチンコで負けるといつも殴っちまう。くそお、俺がクズだって事は分かってるのに……なんで!
「いいの」
彼女は聖母だった。俺の頭を優しくなでてきた。吸い込まれるように俺は彼女の胸に落ちていった。俺の目からは後悔の雫が垂れていた。
「たーくんは何も悪くないよ。悪いのは全部私。ごめんね、もうちょっとお金あげればよかったね。貧乏で本当にごめんね……」
その日はろくに眠れなかった。朝になって、寝不足の目をこすりながら彼女が仕事にでかけた。いつものように置いてある、金。ロン吉3枚。俺は震える手でそれを手に取った。だけど……俺はペンを握って紙をなぞらせた。
昼は外食した。500円の牛丼が胸にしみた。流した涙は嬉しさと悲しさがまじりあった、最低の味がした。
夜、金は残ったまんまだった。彼女が帰ってきた。昨日あんなに殴ったというのに、何事もなくニコニコとまるで天使のようだ。神奈は俺が殴ってこないのを見て、不思議そうになんども俺を見た。キッチンで食事をしてるさいに、俺は神奈にパチンコに行かなかった事を告げた。
喜ばれると思った。神奈は静かに振り向いた。彼女の目は死んでいた。次の瞬間、俺は意識が遠くなった。
彼女がベットの上で、俺の上にまたがっている。時刻は朝の4時か。喉がカラカラだ。何か飲み物を取ろうと、動こうとして、鎖が俺を転ばせた。どうやら、足がベッドにつながれてやがる。神奈は動揺している俺を見て、頭を撫でてきた。うっとりとした目つきで。
「たーくん。無理しなくていいんだよ。お金なら大丈夫、私が何とかするからっ。たーくんはいつものようにパチンコに行って、そして負けてイライラして、私をストレス解消の道具にすればいいの」
「はっ、何いってんの? つかコレ外せよ。身動きとれねえだろうが」
神奈は腰を動かした。ああ、気分じゃない。
「……たーくんじゃない。偽物だ。あるいは洗脳された? どっちにしろ、直さないと。ハハハハハハハハハ、アハハハハハハハハハ!」
……………あれ、俺なにしてたんだっけ。どうにもいけねえ、頭がぼけてやがる。
「たーくん、今日のお金。ここにおいとくね」
「ちっ、これだけかよ」
「ごめんね、お金少なくて、じゃあっ、私先に行くからねっ!」
神奈が家を出る時、何かが光った気がした。それは真鍮の玉だった。まるでパチンコ玉のような……?
まあいいか。今日もあそこいくか。この辺りにパチンコ屋は一つしかねえもんな。さぁて、今日こそ、出すぞ大当たり!