プロローグ
不定期更新だと思います。
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プロローグ
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「陛下。西の国で勇者召喚が行われたとの話が御座います」と初老の男が陛下と呼ばれた金髪碧眼の若き王へと噂話を話す。
ただの噂話なら初老の男、宰相も王の耳に入れる前に情報を精査し確実な情報を掴んでから伝えるが事、勇者召喚は別だ。
勇者召喚は現在では失われたロストテクノロジーであり禁忌の魔法とされ召喚陣を見つけ次第破壊するのが正しいとされている。
それと言うのも召喚される勇者は異世界の者達でこちらの都合で呼び出され戦わされる事になるからだ。
昔は勇者召喚をする国は多数存在したが現在はそんな愚かな事をする国は居なかった。
何故ならこの国ソレイユ帝国の現最強騎士である髑髏騎士である元勇者が召喚した国を僅か一日で滅ぼしてしまったからだ。
勇者召喚は諸刃の剣とわかった各国は勇者召喚を止めその召喚陣を破棄する事に(ソレイユ帝国からの要請と言う名の脅迫もあり)同意した。
だが此処にその事を歯牙にも掛けない国が現れた。
西方の大国オプスキュリテ聖王国だ。
彼の国は現在近隣国に侵略戦争(異教徒を滅ぼす為の聖戦と自称している)を行なっている真っ最中でその為の戦力の向上を目的として召喚したと推測される。
だが、まだあくまでも噂話なので確証は得られて居ない。
この話を皇帝であり髑髏騎士の親友でもあるソレイユ帝国皇帝であるアルテシオ・ロッテンバイム・エル・フォン・ソレイユはこの事を伝えるか悩んだ。
だが彼の事だ既にこの話を耳にして居ても可笑しくはない。
彼は他国の人間には《死神》と呼ばれている。
その由縁は彼が付けている兜のデザインが髑髏である所からだ。
「宰相よ、彼ーーシェーデル卿を呼びたまえ」と命じる。
このシェーデル卿とは偽名で彼の本名を知っているのは極近しい間柄の人間だけである。
本名だと彼が異世界人だとばれる可能性がある為だ。
因みに異世界人だと知って居るのはアルテシオとその最側近の者達数名だけだ。
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それから程なくして髑髏の兜を被った漆黒の鎧姿の騎士がこれまた夜空を切り取った様に黒いマントを左右に揺らしながら謁見の間に現れた。
現れた髑髏の騎士の現在の肩書きは国王直轄の騎士団の内最強と目される黒獅子騎士団長であり、公爵、帝国軍大将の肩書きを持つ。
基本的に髑髏の騎士事ヴァイス・ゼーレ・フォン・シェーデルは領地の経営の傍自身の騎士団の訓練やその合間に帝国軍の視察などを多忙を極めている。
だが領地経営は優秀な家臣に支えられ、騎士団も有能な副団長に、帝国軍は他にも大将が居るのと副官が細々とした事を請け負い基本的にはサインのみだ。
最初のうちは当時皇子であった、アルテシオが旅の途中で拾って来た男出会った。
そしてそんな何処の馬の骨の男をアルテシオは自身の権限で新たに騎士団を建設し騎士団長に任じた。
更にはどうやったのか、自分の父である前王を説得して低いとはいえ男爵の爵位も同時に与えた。
これには様々な所から反発があったが全てシェーデルは自身の力で黙らせ認めさせた。
そして三年前このソレイユ帝国に訪れた危機、隣国三国が同盟して連合を組み雪崩を打って攻め込んで来た。
一国では取るに足らない隣国だったがそれが三つも組んだとなると帝国を凌駕する事になり苦戦し国土の半数が僅か一月の間に奪われた。
そして満を辞してアルテシオはシェーデルに命じて僅かに三千の黒獅子騎士団を連合軍八万の迎撃に向かわせた。
同時三国は三方向から八万ずつ計二八万もの大軍勢で攻め立てた。
一国あたりの動員限界数は約9万だった事から限界近くまで三国は兵を動員した事になる。
それ程までに三国は本気でこの帝国を滅ぼすつもりだったのだ。
何故三国が連合軍を組んで突如攻め込んで来たのか、それは三国を大凶作が遅い飢餓が発生したからだ。
元々帝国と三国は国境を接して居り三国と帝国の国境付近には良質な鉄の取れる鉱山と農地に適した平原が広がっていた。
これの領有を巡り対立をしていたのだ。
そして帝国に食料支援を求めるとこの領有権を帝国に認める事になる。
他の国への支援も考えたが、この三国は帝国との国境以外は山脈により閉ざされて居り他の国との交易は困難を極めた。
その為に三国は連合を組み攻め立てて帝国から奪う事にしたのだ。
そしてシェーデルは見事三千の騎士団で連合軍の三つの軍団の内一つを撃退し大幅にその戦力を削いだ。
この結果に帝国軍、騎士団、貴族軍は奮い立ち見事残りの二つの軍団の撃退に成功し、返す刃で連合三国に逆侵攻を掛け攻め滅した。
そして今現在は帝国の属州として扱われている。
この様な結果からシェーデルは一躍救国の英雄になりその功績を持って帝国軍大将に任命と同時に陞爵し一気に公爵に任じられた。
そう公爵だ。
シェーデルは前王の娘、アルテシオの妹を娶り親戚になったのだ。
アルテシオの方が三つ歳上であり自然と義兄と義弟の関係になったのだ。
アルテシオとシェーデルは血より濃い絆で結ばれている。
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シェーデルは謁見の間に入りさっと左右に視線を向けると、この謁見の間に居るのは自身と皇帝アルテシオの他に宰相と、最側近である近衛騎士団長と近衛軍団長とアルテシオが率いる騎士団の副団長の僅かに6名だけだ。
シェーデルは玉座から10m程で立ち止まり跪礼した。
「陛下、お召しにより参上致しました」
「よく来たなシェーデル卿よ」と言い一拍置いてから「本日呼んだのは他でもない。シェーデル卿よ。……いや、ソーヤお前に伝えなければならない事がある」アルテシオがシェーデルでは無くソーヤ、地球での名前である霧海 奏夜で呼んだという事は……とそれに思い至りソーヤを中心として空間が歪んだ。
「ソーヤ」と優しくアルテシオに呼びかけられハッとしてすぐ様気持ちを落ち着かせると空間は元の正常な状態に戻った。
「すまない、アルテシオ」と謝罪する。
2人の関係を知っているこの場の面々はその無礼千万な言葉使いには反応せず、ただ黙って見守る。
「構わないともソーヤ。君の気持ちを考えたら憤って当然さ」と優しく微笑みかける。
それに対してソーヤは髑髏の兜を脱ぎ素顔を晒す。
するとこの世界では珍しい黒髪黒眼の端正な顔立ちの青年の顔を覗かせた。
「既に察しているとは思うが改めて言うよ。この大陸西方の大国の一つとして知られるオプスキュリテ聖王国が勇者召喚の儀を執り行ったとの報せが齎された。まだ確実に勇者召喚したとの確証は得ていないが十中八九間違いないと私は考えている」
「アルテシオがそう考えているなら、それは間違いなく事実だろう。………それでその件で俺を(普段は体面もある為に私と呼んでいる)呼んだと言うことは……」
「ああ、その通りだ。君を聖王国に派遣しようと思っている。だが現在あの国は戦争中であり尚且つ我が国とは別段距離の隔たりもあり、親しくも何とも無い。その為ソーヤには身分を隠して一介の傭兵としてあの国に紛れて真相を確かめて貰いたい」
「わかった。すぐに出発する」
「その前にクレミールに挨拶はして行ってくれよ」とニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。
ソーヤとクレミールは相思相愛で現在も新婚の様に仲が非常に良い。
その為に長期間家を留守にする事に少なからずクレミールが機嫌を損ねるだろうと見越しての判断だ。
それに対してソーヤは「アルテシオが最近メイドの一人の胸を凝視していた事を皇后陛下にその事を伝えておかねばな」とニヤリと笑みを返すと、アルテシオの顔は蒼褪めて「な、何故その事をソーヤが知っているのだ!?」と驚きの声を出し「ま、待て!ソーヤ僕が悪かった!だから許してくれ!僕らは親友であり義兄弟でもあるのだから?」と必死に懇願して来る。
するとソーヤは冷めた目をして「自業自得だ」と言い謁見の間を後にした。
後日皇帝陛下は皇后に折檻され暫く業務に支障を来したのは此処だけの秘密だ。
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