夜明けの雲
夜明けだ。朝が来る。
ゲーム内では1日が4時間だった。
季節が変わろうとも昼夜の長さは一定だった。
ここでは違うのだろう。
「あぁ、ハリー様。………もっと私を…」
この寝言は一晩中続いた。故に俺は眠れていない。
「相変わらずお騒がしい婦人ですね。」
もっともだカイゼル。もっと言ってやれ。
「ギルマス、どうでしたか?」
「………なんのことだ。」
「一人で調査を続行しているのが見えまして。」
「見たのか。」
「ギルド<cruel'pain>の最高戦力《六戦神》の筆頭が休まないとなればこちらも気になりますので。」
迂闊だった。俺は今ギルドマスターなんだ。
「カイゼル、今すぐ全員を起こせ。」
「やはり何かあったので?」
「今しておかなければならないことがある。」
「かしこまりました。」
「主殿、話とは?」
「重要なんだろ~な。退屈ならすぐ寝るよ~。」
「QED殿、少し口を慎まれたほうがよろしいのでは?」
「ハァ~、わかったよ摩天ρ。」
「それでハリー様、話とは?」
『自己紹介~?』
「やってられっかそんなもん。寝っかんな。」
「ワシもQEDに賛成じゃ。やってなんの意味がある。」
「十六夜、賛成、戦闘、したい。」
「私もそこまで重要ではないと…」
「おっ、半分帰って来たか。」
『ん?』
びっくりした。鳥が左半分だけ帰ってきたからだ。
しかも断面はっきり見せて。
俺とQED以外腰抜かしてるぞ。
「あ~、聞こえる?」
『うぁーっ‼』
「聞こえてるようだな。」
驚かせるのは良くないと思うぞ。
『半分に別れたと思ったら喋りだした‼』
『悪魔の鳥だ‼』
「こいつは電話鳥だ。驚く事ないだろ。」
普通は鳥が半分になった時点で驚くから。
『ぎぇーーーーっ‼』
「聞こえてるみたいだ。」
…
『のゎーーーっ‼』
「聞こえてる聞こえてる。」
…
『うーん…ドサッ………』
「聞こえてるな。」
もうこれで何回目だ?
とうとう気絶者が出たぞ。大丈夫か?
…
「聞こえてる?」
『とりあえずは。あなたはどこの誰?』
「コクロの里のQEDだよ~。」
普通に会話できるとか肝が座りすぎだろ。
まあ、会話が成立する相手が見つかれば俺の仕事は無いしな。
視線を感じる。突き刺さる様な視線を。
後ろの木立の中になんかいる。
多分ギルドメンバーだろうな。
やっぱりギルドメンバーだった。
「何してるんだ、玄道。」
{少しお話したいことが…}
玄道はボイスチャットをせずギルドメールで意思表示する珍しいプレイヤーだった。戦闘中は仲間の声だけで自分がするべき事を見つけることが出来る貴重な人材だ。
今でこそギルドメンバーは24人だが元は100人を超える大型中規模ギルドだった。ここまで小さくなった理由はゲームマナーの徹底だ。PK、MPK、寄生プレイ、荒らし、狩場独占、チートコードなどやっているプレイヤーを全て追放した。
それはおいといてだ。
「話したいこととは?」
{実は…………………女なんです。}
「…………は?」
{いわゆるネカマというやつです。}
「それはわかる。ボイスチャットをしなかったことからも推測は出来る。」
{流石ですねマスター。}
「それをなぜこのタイミングで打ち明けたかだ。」
{この体だといろいろと問題が…}
「あ~、排泄の問題とか?」
「……QEDいつからそこに。」
「いわゆるオカマ…」
「ネカマだ。」
「そうそう、そこから~。」
{なぜわかるんですか?}
「伊達に18禁やってねぇぜ!要するに女にはない×××…」
「話を続けよう。」
「ん?ん~‼んん、んんんんんん!」
{そうですね。}
「んんんんん~~‼」
(クラッキングノット‼)
「ん!?………」
「やっと静かになった。」
{それで、お話の続きなのですが…}
「せめて女性プレイヤーになりたい。そういうことだろ。」
{はい。}
「考えておく。」
{ありがとうございます。}
ーーAH夜ーー
[ギルドcruel'pain五ヶ条]
・ゲームマナーを守る。
・仲間を守る。
・ギルドを守る。
・女性を守る。
・笑顔を守る。
みんなで決めたルールだった。ギルドメンバーの相当数は守れずに追放された。
俺は三代目だ。そして操られるだけの人形だ。
今まではそうだった。
「カイゼル。全員集めろ。」
「かしこまりました。」
「クエストに出る。」
カイゼルは微笑んだ目に闘気を込めていた。
「ほっほっほっ。やはりそうでなくては。」
「腕がなるねぇ。」
「肩慣らしも兼ねてですね。」
「フハハハハ!闇の蹂躙を始めようではないか‼」
「攻撃の狼煙を上げろ‼」
男共はもはや狂乱状態だ。
普段は控えめな摩天ρや晴明まで腕捲りしてる。
「相も変わらず元気だねぇ。」
「とても着いていける自信がありませんわ。」
「着いていかない、いい、です。」
{着いてくのは無理でしょうね}
「玄道は夢の中の子供のような大騒ぎをしないので?」
「リヴィアさんの隣での謎の喘ぎ声の方が煩いです。」
「そんなクールな鬼姫ちゃんも可愛い~。」
「ムグッ‼主殿、助け…」
「逃がしませんわよ~。」
女共も違うところで狂乱中だ。
後、御愁傷様だ鬼姫。
「あー、行き先はレイド級、ラヴェルオーラの秘宝だ。」
「死告天使がボスやってるところか。」
「生告天使もな。」
「聖天使が取り巻きなんだよな。」
「殺れば、いい。」
「十六夜ちゃん、そこまで単純じゃ無いんだよ~。」
「聖魔法と邪魔法ですからね。」
「私と茜さんで相殺できますわ。」
「全員注目‼今日は準備及び休息とする。」
「今から行こうぜ‼マスター‼」
「夜明けだ。コンディション万全で挑みたい。」
「でも…」
「周りをよく見ろアレン。お前以外寝てるだろ。」
「Zzz.Zzz」
なんだろう、このやるせない感じ。
俺まだ高校生なんだけどな。
そんな感情に関係なく夜明けの雲は紅に染まる。
<ハリー>通り名[狐惑の連撃]
・狐耳族
主職業…双剣士
副職業…縄士
装備品
・天狐剣イナリ
・妖狐剣キュウビ
・蒼乱のロングコート
・破邪のフォールド
・疾風のグリーヴ
・煉獄の革手袋