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6.遠い星の小さな友達

*前回までのお話*

元之は、祖母の家までお使いに出された。途中、色々と不思議なことに巡り会いながら。

 見晴らしの塔のそばの噴水広場に、タンポポ団は集まっていた。今日は昼間なので、緑も一緒だった。

「ナナイロサウルスの残りの骨はどこにあるんだろう」美奈子が誰にともなく言う。

「そもそも、どういった理屈でどこに隠されているのかもわからないんだぜ。そう簡単には見つからねえよ」と浩。

「そうですね」元之が頭をかきながら、「それさえわかれば探す場所も見当がつくんですがね。しかしながら、きっと、なんらかの法則があるに違いありませんよ」

「お姉ちゃん、ナナイロサウルスの骨ってなんのこと?」緑が聞いた。緑はいつも眠っていたし、図書館での一見についても話していなかったので、何も知らないのだった。

「あのね、元君が本を読み終えた途端、それがいきなりナナイロサウルスの骨に変わっちゃったの。あれは不思議だったなあ。本のタイトルとなんか関係がある気がするんだけど」


「わたしの読んでいたのは『恐竜は眠る』という詩集でしたよ。まるで、恐竜の視線から見て書いたような、どこかもの悲しい内容でした」

「きっと、そのタイトルに意味があるんじゃないかなあ」和久も同意する。

「ナナイロサウルスの幽霊は、ほかにも学校とか思い出の小路のブロンズとかにも関心があったみたいだぞ」思い出したように浩が言う。

「きっと関係があるのでしょう。それがなんなのかわかりさえすればいいのですが」

「次にナナイロサウルスの幽霊にあったら、また手振り身振りで聞いてみようよ」と美奈子が提案した。

「そうですね。重要な手がかりを聞き出せるかもしれません」元之はうなずいた。


「ともかく、今は昼間だし、ナナイロサウルスの幽霊も眠っている頃だわ。ほかに面白いことでもないかしら」

「じゃあ、また2丁目のアインシュタインのところにでも行ってみますか」元之の言う「2丁目のアインシュタイン」とは、大里という名の発明家で、町の人はこっそりと「ネジの緩んだアインシュタイン」などと呼んでいた。

「それ、いいかも。また、何かヘンテコなものを発明しているかもしれないよ」和久が真っ先に賛成した。

「そうだなあ、ひまだし、ちょっと行ってみるか」浩も乗り気だった。

 そんなわけで、5人は発明家の家へと向かって歩き出した。


 大里さんの家は、相変わらずごちゃごちゃと色々なものが散乱していた。

「この中の1つでも役に立てば、きっと今頃は町の人も尊敬するんだけどなぁ」ふうっと溜め息をつく美奈子。

「役に立つものなど、そうは簡単にできるものではありませんよ。ましては、あの人ではね」

「この間はとんでもない目に合ったじゃんか。あんなもんばっか作ってるから、変人扱いされんだ」浩も口さがない。他人の夢を見るテレビを作ったのはいいが、それが溢れ出して町中、大騒ぎになったのだった。

 インターフォンをピンポーンと鳴らすと、パタパタと足音を立てて大里さんが現れた。

「やあ、君達か。実は、今度こそすごいものを発明したんだ。見ていってくれよ」


 5人はぞろぞろと中へ入っていった。ところ構わず、「発明品」が置かれている。もっとも、彼らにはがらくたにしか見えなかったが。

「博士、今度は何を作ったんですか?」と元之が尋ねる。この家の中では、博士と呼ばなくてはならない、暗黙の決まりがあった。

「まあ、見てのお楽しみさ。ささ、こっちへ来てくれたまえ」

 博士に連れられてやって来たのは、もともとは寝室だったらしい部屋だった。ベッドはあるが、さまざまな部品が取り散らかっている。

 美奈子は内心、夜はここで寝るのかしらと思った。だとしたら、毎晩、片付けものをするのが大変だ。

「見てもらいたいものはこれなんだ」博士が両手で、まるで紹介するように指したのは、窓際に置かれた灰色の布をかぶった何かだった。


「それはなんですか?」浩がさっそく近づいていく。

「布をめくってごらん」博士は言った。そこで、浩は灰色の布をそっとめくり上げた。

「これって……」浩は絶句した。

「なになに? どんな発明品?」美奈子を初め、全員が集まってきた。

 どう見ても、ただの望遠鏡だった。

「望遠鏡ですか?」元之は少々失望を隠せない様子で言った。

「もちろん、ただの望遠鏡なんかじゃないぞ。昼間でも星が見えるという、画期的な望遠鏡なんだ」と博士は自信満々に答える。

「昼間でも星が見えるなんて、すごいなあ!」和久は単純に喜んでいる。


「しかも、それだけじゃない。倍率はなんと1千万倍もあるんだ」と博士。

「すごいっ、それだけ見えたら、どんな小さな星だって見えちゃうね」またしても大喜びをする和久。

「ねえねえ、さっそく見てみましょうよ。新しい星が見つかるかもしれないじゃない?」和久の興奮が伝わってきたのか、美奈子も目をキラキラと輝かせる。

「星はたくさんありますからね。ある程度、的を絞った方がいいと思いますよ」元之がそう忠告する。

「その通り。実は1つ、ユニークな星を見つけてね。それを君らに見てもらいたいんだよ」

「ユニークな星って?」浩が急いた。

「まあ、そう慌てなさんなって。いま、位置を調整するから。なんてったって1千万倍なんだぜ、微妙な位置合わせが重要なのさ。えーと、座標は……っと」

 そういうと、博士は望遠鏡の台座についている目盛りを慎重に合わせ始めた。


「どうせなら、そのようなアナログなどではなく、デジタルにすればよかったのでは?」元之が思いついたことを口にした。

「あっ、そうか。それは失念してたなあ」そう言って、博士は頭をかいた。

 微調整は中々時間がかかった。台座を合わせ終わると、次は角度の調整に取りかかる。「今日は6月の8日か。時間は14時37分。ちょっと待っていてくれ、計算するからね。えーと……」

 結局、すっかり調整が終わるのに、たっぷり30分もかかってしまった。

「でも、時間はどんどん過ぎていきますよ。その間にも星は動いていってしまうんじゃありませんか?」元之が最もらしく尋ねる。

「その心配はない。1度合わせてしまえば、対象をずっと追ってくれる機能も付いているんだ」

「それを聞いて安心しましたよ」と元之。位置が変わるたびに、また30分も待たされたのではたまらない。


 まず、博士が望遠鏡を覗いてみた。

「さあ、順番に見てごらん。たぶん、ぼくが見つけた新しい惑星だよ」

 そこで、美奈子はさっそく覗いてみた。地球にそっくりな星が見えた。

「これって、NASAもまだ発見してないんじゃない?」と美奈子はびっくりした声を出す。

「どれ、おれにも見せて」続いて浩が覗き込む。覗きながら、うーん、こりゃすげえや、などと独り言を言った。

「緑君、あなたが先に見ていいですよ」元之は緑を抱っこすると、望遠鏡を覗かせた。ただ、緑にはそれのどこがすごいのかまるでわかっていないようだった。「きれいな星だね」そう言ったきりである。

「どれどれ、どんなふうに見えるんでしょうね」元之が覗く。確かにその星は地球にそっくりだった。

 青い海に見たことのあるような大陸が横たわり、白い雲が所々を覆っている。

「これはこれは。確かに大発明と言えますね。少なくとも、今までの中では最高傑作です」そう、手放しで褒めちぎるのだった。

 しんがりは和久だった。ほーとかはーとか言いながら、誰よりも長く眺めていた。


 博士はニヤニヤしながら全員の顔を見て回った。

「実はね、まだ秘密があるんだ。当ててごらん」

「あ、わかった。もっと倍率を上げられるんだ。もしかして人が住んでいるかもしれないよね」美奈子が叫んだ。

「ブッブー」博士はおどけて見せた。「残念ながら、これ以上は倍率が上げられないんだ」

「それではですね、あの惑星に名前を付けたんですね。何しろ、第一発見者ですからね」元之が、これこそ当たりだろうと、自信をもって断言した。

「ああ、名前か。そういえば付けてなかったなあ。後で考えておくことにしよう」

「つまり、外れですか……」元之はしょんぼりと肩を落とした。


「当たりそうもないので、ヒントをあげよう。そら、望遠鏡の脇についているのはなんだい?」

「えーと、見たところ顕微鏡のようだけれど……」和久が自信なさそうに答えた。

「ピンボーン!」博士はうれしそうに小躍りをした。

「博士、望遠鏡に顕微鏡など付けてどうするんですか」と元之。

「それはだね、これであの星の土壌を調べることができるのさ」

「まーさかー」ほとんどみんなが、異口同音で声を合わせた。

「それが本当なんだってば。いいかい、見てろよ」博士はそう言うと、望遠鏡の横のレバーをグイッと下げた。「さあ、もう1度覗いてごらん」

 一同は、さっきと同じ順番で次々と望遠鏡を覗き込んだ。覗き終わったも顔は、誰も彼も驚きの表情をしている。


「どうだい、見えたかい? 残念ながら人が住んでいるのかどうかまではわからない。しかし、微生物――と言っていいのかな。連中が見えただろ?」

「見たわ。毛むくじゃらをしているけれど、人間にそっくりの生き物がいた!」

「わたしも見ました。しかも、彼らは原始的ながら、村を作って生活しているではありませんか。いやはや、たまげました」

「あれって、つまり、プランクトンとかみたいなやつなんだろ? すげえなあ、まるで人間そっくりだった」

「おっどろいたなあっ。まさか、そんなものが見られるなんて」とこれは和久である。

 緑に関して言えば、やはりそれほど驚いた様子もない。むしろ、何がそんなにすごいのかわかっていないようだった。


「わたしはね、彼らを『小さな星の友達』と呼んでいるんだ」

「小さな……確かにそうね。仮に人間が住んでいたとして、彼らの存在に気付いているかしら」

「もしも、人が住んでいて、それが我々と同じくらいの文明を持っていたとすれば、とっくに気付いているでしょう。しかし、100年くらい遅れていたとすれば、気付かずに暮らしているんでしょうね」

「第一、人が住んでいるかどうかもわからねえしな。なあ、博士。どうせなら、もうちょっと倍率を高くするか、顕微鏡の性能をもっと低くするかして、大陸がもっとはっきり見えるようにすべきじゃなかったのか」浩が最もらしいことを言う。

「ああ、言われてみれば確かに。次はそうできるよう改良するとしよう」

 博士の発明は、いつもどこかが抜けているのだ。

 


*次回のお話*

7.公園の休日

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