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13.開けすぎた蛇口

*前回までのお話*

思い出の小路で、タンポポ団は3本目のナナイロサウルスの骨を見つける。

 10月になったとはいえ、まだ暑い日が続いていた。

「図書館にでも行きますか」元之が言うと、すかさず浩が反論する。

「あそこは、ちょっとでも大きな声を出すとすぐに注意されるからな。それに、おれは本の匂いがあまり好きじゃねえんだ」

 美奈子は内心、浩の「ちょっと」は本当に大声じゃないの、そう思う。前にも、司書が飛んできて、「あなた、ここは図書館なのよ。もうちょっと小声で話せないの?」と叱られたことがあったのだ。

「じゃあさ、噴水広場に行かない? あそこならいつも涼しいよ」和久が提案した。

 噴水広場は見晴らしの塔のすぐそばにあって、11月までは噴水が噴き出していた。

「おう、それいいな。木陰もあるしな」と浩は賛成した。

「そうですね、外は気持ちがいいし、噴水広場に行くとしましょうか」

 そんなわけで、珍しく和久の意見がみんなに取り上げられたのだった。


 噴水は、さすがに風下にいるとびしょびしょになってしまうので、全員、ベンチに掛けた。

「あとは和久だけだな」と浩が言う。例のなナナイロサウルスの骨のことである。「いったい、どこにあると思う?」

「そんなのわからないよ。それに、本当にぼくなんかに見つけられるのかなあ。なんだかお腹の辺りが重くなってきちゃった」

「まあまあ、浩君。そう責任を押し付けてはかわいそうですよ。それに見つけるときはみんなで探すのですから、和久君は何も心配する必要はありませんよ」元之がやんわりと諭す。


 話の内容にちゃんとついて行けない緑は、少し離れたところにある水飲み場で遊んでいた。

 下側についている蛇口を回しながら、いったい、どこまで水が出てくるのだろう、と興味津々試しているところだった。

 不思議なことに、蛇口は回せば回すほどいくらでも水が出てくる。そのうち、下の排水溝がいっぱいになり、溢れ出てきた。

 緑も、さすがにこれはまずいぞ、と思い、水を止めようと蛇口を反対方向に回そうとする。

 しかし、開くことはできても、閉めることがどうしてもできないのだった。

 あわてて、ベンチにいるみんなのところへ駆けていく。

「たいへーん、水が止まんなくなっちゃった!」

「はあ? 水が止まらなくなったってえ?」浩がのんびりと答える。

「きっと、蛇口が引っ掛かってしまったのでしょう。どれ、わたしが見てきましょう」元之が立ち上がり、緑のいじっていた蛇口を反対方向に捻ってみた。確かに固い。そこで力一杯回してみる。それでもびくともしなかった。

 水はどんどんあふれ、枯れ葉や枝を浮かべ始めていた。


「おれにやらしてみな」力じゃ誰にも負けないと自負する浩がやって来る。「こんなもん、えいやってなもんで……ん? あれ、へんだな」

 そうこうしている間にも水位は上がっていき、靴の中に水が入ってきそうになる。

「みんなー、ベンチの上に上がれっ。水がどんどんあふれてきてるぞ」浩が叫ぶ。元之、浩、緑もいったんベンチに引き返し、

「こりゃあ、蛇口が壊れたか。水道屋を呼ばなきゃダメかな」などと話している。「まあ、もう1度挑戦してみるとしよう。このままじゃ、辺り一面水だらけになっちまうからな」

 浩は靴と靴下を脱ぐと、ズボンをまくってザブザブと水の中へ入っていった。今や、踝のところまで来ていた。


 こんどこそ、と蛇口を捻るが、相変わらず固くなったまま動かない。浩は顔を真っ赤にして力を振り絞るが、うんともすんとも言わないのだった。

 そこへ、背中にくずかごを背負った老人がやって来て言う。

「おお、やはりここじゃったか」

「あ、公園番のおじいさん」と浩。「蛇口が壊れてしまったらしく、全然閉まらないんですよ。水道屋を呼んだ方がいいでしょうか?」

「ああ、いやいや。こいつにはちょいとコツがあるんじゃ。わしにやらしてごらん」公園番はそう言うと、しゃがみ込んで蛇口を握ると、いとも簡単にキュッと閉じてしまった。

「すごいっ。どうやったんですか?」浩は聞いた。

「なに、ちょいとこうひねってやったんじゃ。とりあえず、これで一安心だわい」

 水はすぐに引いていき、あとにはびしゃびしゃの石畳と、森から運ばれてきた枯れ葉が残るばかりだった。


「ごめんなさい、いたずらするつもりじゃなかったの」緑がしおらしく謝る。

「いいですよ、緑君。誰も、君がいたずらをするつもりじゃなかったことくらいわかってますから」元之がそう言うと、ほかのみんなもうんうとにこやかにうなずくのだった。

「あたしね、前にテレビでダムに沈んだ村のドキュメンタリーを見たことがあるの」美奈子が話し始めた。「瓦屋根の家、藁葺き屋根の家、あちこちに立っている木が、まるでそっくりそのまま沈んでしまっているのよ。わたし、あのまま水があふれてきたら、ラブタームーラの町もそうなってしまうんじゃないかって、とっても不安になったわ」

 さいわい、水一筋、町には流れていかなかったが。 

「それにしても、ただもんじゃないよな、あの公園番」浩が言った。

「あたし、あの人大好き。いつもニコニコしているし、親切だし」

「それにしても、不思議な水道ですね。普通はいっぱいまで開ければそこでおしまいなのに、ここのは捻れば捻るだけ水が出てくるなんて。まるで別の空間に繋がっているのでは、と疑いたくなりますよ」

 最後に元之がそう締めくくった。

*次回のお話*

14.喫茶すずらん

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