A①.僕はそれでも、死んでもアニメを見る
※作品タイトルは著作権法に引っかからないと聞いたので、そのまま表記しましたが、何か問題があるなら、誰か教えてください。
※劇中、若干間違ったアニメ知識が出てきます。その方がリアルかなと思ったから、そういう風に書いたのですが、これも問題あるなら誰か教えてください
隣には、友人が2人……3人……4人だろうか? 畳の上、俺たちはテレビを見ていた。テレビの中では、極彩色の髪の女の子が、ロボットに乗って戦っている。俺たちは、「アニメ」を見ていた。
アニメを見ている俺たちの後ろには、また3人の友人。1人は携帯ゲーム機をいじっていて、1人は漫画を読んでいた。もう1人は集まっている俺らを他所にネットサーフィンをしている。
俺はアニメを見ていたんだ……俺は、それでこれが夢だと気付いた。
だって……だって、今から5年前に日本のアニメは死んだんだから。
「う……んん……」
自分の口から漏れた呻き声で、俺は目を覚ました。白い天井、黄色い電灯、電灯の周りを飛び交う小さな羽虫、ベットの周りに散乱しているビールの空き缶、食べかけのパック寿司、あたりの物を一つずつ確認していくうちに、蒙昧とした意識が、徐々にはっきりとしてきた。
「よっ……と」
掛け声を上げて、体を起こす。ゴミを蹴っ飛ばしながら、俺は洗面台に向かった。
水だけで簡単に顔を洗う。鏡を見る。鏡の中に映るのは、魚のような大きな目を、ギラギラと輝かせた、やせ細った男。浅黒い肌に筋肉の筋が浮き、所々にはえぐったような大きな傷跡が。夢の中の俺とは随分と姿が変わっている。さっき見た夢は、友達が皆学生服を着ていたから、高校生の時のことだと思う。あの時の俺はただのメガネおたくだったが、今では危ない系のチンピラだ。
「思えば、遠くへ来たもんだ……ってなアニメじゃなくて武田鉄矢のドラマだったか……オーフェン無謀編の最終巻のタイトルだったかな……いや違ったか無謀編最終巻のタイトルは……」
ガン!
俺は鏡に、思い切り拳を叩きつけた。安物の鏡は割れ、拳からは血が滴った。散らばった鏡の破片をスニーカーでジャリジャリ踏みつけながら、俺は放物線状に割れた鏡のヒビを睨みつけた。5年前、俺は全てを失った。あの時失ったものを取り戻すために俺はここに立っている。例え何を犠牲にしても……
「おい、マツキ、マツキ!」
背後からダミ声が聞こえてきた。声の方を振り返ると、顔半分を覆うほど大きなサングラスをつけた大柄な男、
「ああ、キッタさん」
俺の上司のキッタさんだ。まあ俺たちのような仕事で、上司もくそもないだろうから、兄貴分といったところだろうか。ちなみにうちらの組織は、お互いを本名ではなく、コードネームで呼ぶ習慣がある。コードネームは自分の好きな声優の名前から付けるのが俺達の習わしである。
「起きたか。仕事だ、こい」
そっけなく言い放ち、キッタさんはドアの向こう側へ消えていった。俺は、ベッドの縁にかけていたジャケットを引っ掴み慌てて後をおった。
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「う……むう! むうう!」
薄暗いガレージ、車の影を覗くと、そこに手足を縛られた。小汚いオッさんが一人転がっていた。小太りの中年。30か、もっと年を経ているか、ちょっと年齢がわかりづらい顔をしている。
「マツキ、猿轡外してやれ」
「うっす!」
俺は「ムームー」暴れるオッさんの顔を押さえつけ、猿轡を外してやった。途端にオッさんは元気に、唾を撒き散らすほど大声で騒ぎ出した。
「あんたら、何者だ! 何がもくてきだ! 言っとくが、俺は金なんて持ってないからな」
ガンっとキッタさんが、オッさんの顔を蹴っ飛ばした。靴のつま先で何度も何度も蹴る。やがて、悲鳴も聞こえなくなったところで、キッタさんは胸倉を引っ掴んだ。
「まあまあ、そう怖がるなよ。別にとって食おうってわけじゃないんだ。大人しくこっちの言うこと聞いてくれりゃ、何にも悪いことしないからよ」
先ほど喚いていた元気はどこへ言ったのか涙目で震えるオッサンにキッタさんは囁いた。
「プリンセス・チュチュのデータ持ってんだろ、よこせよ」
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