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ガールハント  作者: みやしろちうこ
第二弾 女祭り

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13/45

06

 場所はひとが混む教室入口まえ、人前も視線もまったく気にしていない桜井が、両手を胸のまえでくんでじっと剣持を見つめているのを、だれが邪魔できただろうか。外来者もそのうち気づいたが、在校生ならばこのふたりのことをしらないものはその場にいなかった。

 今日も美少女である桜井美幸は、二年D組の地味なうえに化粧もブラもない女装のうえに、まったく似合ってないピンクのエプロンをしている剣持始が好きなのだった。

 今年五月には、ちょうどこのおなじ場所、ギャラリーがつらなるなかで桜井は涙の告白をした。

 以来ふたりの噂はあがれど、剣持がいっこうに桜井を受け入れないのが驚愕の種となっていた。「男としてどうかしている」とこころある学生たちはいいあった。



「――昼は、適当に何か買って部室ですます予定だ」

「じゃあぼくも部室に」

「食べながら副と午後からのダンスの打ち合わせをするんだ」

「お邪魔はしません。ただ、ぼくも部室で食べてはいけませんか。じつは今日お弁当をふたつもってきました。先輩さえよければひとつ食べて頂けませんか」

「桜井、そういうのは迷惑だ」



 息をつめてふたりのやりとりを見守っていた周囲は、ここでどよめきの声をあげた。小さく「なんてかわいそう」という声があがる。

「すみません」

 謝る桜井から視線をはずし、ずれてもいないメガネを剣持はなおした。

「……さっき、加勢してくれたことは礼をいう。おまえは、友達と食べろ、いいな」

「わかりました。それじゃ午後のクラブダンスのときに」

 剣持がうなずくと、桜井はレースをひらひらさせて込み合う廊下に消えていった。

 受付の剣持に金券をさしだした白髪の老人がいった。



「あんたえらい男泣かせだねえ」





 主将である剣持は、昼休みになるとパンをかじりながら部室に詰め、各学年リーダーから今日の出欠席の報告をうけた。

 九月にはいっても熱気のこる日々。エアコンの壊れている部室で扇風機にあたっていた剣持は、白衣をぬぎ、白のブラウスの袖を巻きあげた。

「あっちいなあ剣持」

「うん、今日の欠席はなし。三十分まえに道場に集合だが、みなダンスはおぼえたかな」

 三学年そろっては本番のみ。二年と一年は部活のあと時間をさいて合わせたが、引退した三年生が問題だった。去年とおなじ踊りだが、おぼえているだろうか。

「竹内さんに連絡しといたから大丈夫だ」



 元副主将をしてた先輩の名前を、現副主将があげた。二年C組の岡田智彦は、剣持ほど気迫も技もないが、小さな連絡や作業をいとわない長所があった。中肉中背で、右目元に泣きホクロがある。頭をかくとき、首筋のうしろから手をあてて、じりじりと手をのぼらせていく癖をもっている。



「そうかありがとう」

「それより剣持、おれのとこまで噂がとどいたぞ」

 岡田はどこで手にいれたのかスチュワーデスのユニホームスーツをきていたが、いまは暑いので上着をぬぎ、ブラウスのボタンをうえ三つはずしている。胸パットが顔をのぞかせていた。

「なんのだ」

 チョコサンドのチョコがとけて、ビニールに付着し指をよごした。

「剣持が桜井の昼の誘いを断ったって噂」

「……いつものことだろう」

 扇風機に顔をむけていた岡田が目と口をひらきながら、剣持を見た。

「そりゃそうだけど、今日はふだんより強力な外見だったらしいじゃないか」

「岡田は桜井を見てないのか」

「おれ、クラスの出し物にも参加してていそがしかったんだわ、で、強力だった?」

「まあな」

 そういうと、岡田がおかしそうに笑い声をあげた。

 ふたりは段取りを打ち合わせると、昼飯をかたずけて部室をあとにした。剣持は白衣が面倒になってそのままのこしてきた。





 昼の一時になると、剣持は正門にむかった。祖父が顔をだすといっていたからだ。

 産婦人科医院を開業していた祖父は、女性が死滅し廃業をよぎなくなされた。現在は、論文執筆や研究、たまに学会に出席したりしている。地方大学での特別授業講師として呼ばれることもあるが、祖父は毎日規則正しく生活していた。



「おう、始」

「うん」

「暑いなあ今日なあ」

「昼から暑くなったよ、影にはいりなよ。中庭でいまバンドが演奏してるけど」

「いや、うるさいのはいい、おまえのクラスの出し物は?」



 背は剣持の肩ほどで、腹が出、髪も頭頂はハゲ、白い毛が耳のそばにのこっているだけだ。若いころは剣道をしていたので、あるくときは背筋はのびている。メガネをかけた顔は柔和で、皺が多かった。剣持の唯一の身内がこの祖父であった。

「おうおう、なんだあれは、みなうまく化けるもんだな。うん女の子らしい。変なものもおるなあ。去年もきたが、やっぱりこの祭りはおもしろい」



 女性生存時代の育ちである祖父は、女装学生たちを楽しげに見やった。



「おまえもあれくらいしたらどうだったんだ」

 あれくらい、とは校舎で看板を持ちながらクラスの宣伝をしている看護婦。

「おれはこれでいい」

 白衣も小物も部室においてきた剣持は、ただ白の丸襟ブラウスに黒のスカート姿だった。飾りはなにもない。化粧も作り胸もない。足も素足で上履きをはいているだけ。

 剣道をして鍛えている体といい、女っけがまるでない。それでもこの校内だけでなく日本中、もしかしたら世界中でだれよりももっとも女性であるのは剣持だけだった。

「まあな、ところであの着物のご婦人はだれだ」



 祖父が指さしたのは、結い上げた黒髪のかつらをかぶり、紅おしろいをした北方高校校長だった。




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