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ガールハント  作者: みやしろちうこ
第二弾 女祭り
11/45

04

 そろそろ喫茶メンドリの受付の時間だなと廊下の時計を見上げながら廊下をあるいていると、剣持はだれかと肩をぶつけた。

「あ、ごめんなさい」

「いや、おれもよそ見してたんで……それじゃ」

 相手の顔も見ないで剣持はわかれようとした。



「ちょっと待ってきみ」

 肩にのばされた手を剣持はとっさに避けた。相手は手をだしたままびっくりした顔をしている。

「なにか用か」

「あの、きみは北方高校なんだよね? それでその、去年、セーラー服を着てなかった?」

 剣持は意表をつかれた顔を男にむけた。茶のパーカーにジーンズをはいた人物は、剣持とおなじくらいの年で、洗いたての茄子みたいな顔をしていた。背は剣持より少し低いくらいだが、痩せている。

「あ、その顔、やっぱりそう? あのぼくね、黒川高校の二年、墨田達也です。去年きみの参加してたパフォーマンスを見たよ」

「え、ああ……」

「セーラー服きて、竹刀もってダンスしてたでしょう。あのときの写真ももってるんだ、ほら」

 そういって墨田はパーカーのポケットから写真をとりだした。毎年、文化祭開催二週間後に、メモリー委員会が写真展示をする。それは希望する番号を紙にかいてだすと一枚十円で焼きましてくれるのだ。それを他校である墨田は手にいれたようだ。



 剣持がのぞきこむと、それは間違いなく自分だった。

 剣道部恒例の、校内横断ダンス。部員たちが女装姿のまま竹刀をもって、校内を走り回って、いつもの稽古を簡単なダンスをおりまぜてする。昨年、一年生だった剣持もセーラー服のまま参加していた。

 写真の自分は、右手にもった竹刀を横にして廊下に片膝をたたせ決めのポーズをしていた。紺のスカートがふとももまでめくれ、赤い胸元のスカーフが揺れている。走り回って上気した頬、目に力があってきつい顔をしていた。



「うれしいなあ、ぼくきみをまた見たくて来たんだよね。ぼくはかわいいタイプより、凛々しくって厳しい……きみみたいな美人タイプが好みなんだよ。今年は、それはお医者さん? メガネかけても似合うね」



 写真を見ている剣持にむかって墨田は熱心に話した。

「どうも……それじゃ……」

「あ、待ってよ、ぼくね将来映画監督になるのが夢なんだ。高校じゃ映研にはいっている。ビデオや八ミリでアマチュア作品もつくってるんだけど、きみ出てくれる気ない? ほんとうぼくの理想の女性像なんだよね」



 剣持は茄子顔の墨田に、壁際に追い込まれていた。理想の女性像という言葉にびくっとした。内心の動揺におどろきながらそれを押し隠して、剣持は冷たい口調をつくった。



「あいにくだが、おれはきみに協力する気はない。付きまとわないでほしい。いいな」

「ああ、冷たいいいかたも似合うね。ね、お願いだよ」

「あっちにいってくれ。おれはこれからクラスの受付なんだ」

「じゃあぼくもそこに行くよ、きみを見てると作品のイメージがわいてくるんだ」

「付いてくるな」

 しつこい墨田をにらみつけていると、廊下の端から歓声が聞こえた。





 人の群の頭と天井のあいだに、にょきっとはえているものが見える。左右にゆれゆっくりと廊下を、剣持がいる方向にすすんでいた。

 どうやら金髪のかつらのようだ。

 人垣がわれて、かつらをかぶっている人物の顔が見えた。



「おまたせしたかしら始ちゃん、淑女は身だしなみがたいへん」



 飾り毛のついたピンクの扇子をパタパタさせながら、厚化粧の貴婦人は腰からふくらんでいる床をひきずるスカートをもちあげて剣持に挨拶をおくった。

 胸まであいた安っぽい光沢のピンクのドレス。その右肩にはニワトリのぬいぐるみがとまっており、指輪やネックレス、イヤリングなど装飾品がこってりとついていた。

「おまえの今年のテーマはなんだ。マリーアントワネットか」

「レディ・ヒデコ。今日のわたしはレディ・ヒデコでいくからそう呼んで。あなたの扮装もたのしみにしてたのに、なあにその地味な格好は、あ、それに、ちょっとこちらにいらっしゃい」

 かつらをいれて二メートルを越える貴婦人に腕をとられ、女医は廊下をすすんでいった。

「待ってください」

 それでも墨田がついてくる。

「ねえ、ぼくきみの名前もしらべたんです。剣持始さんでしょう。剣道、すごく強いんだってね、ぼくほんとうに君が……」

 剣持の腕をつかんでいた成瀬が、急に足をとめて振りかえった。

 必要以上のアイメイクは、まつげが三センチあった。ぽってりした真っ赤な口紅はもはや妖怪だったし、すべすべした頬にはチークがたっぷりぬられていた。

 肩にとまったニワトリを扇子であおぎながら、成瀬は墨田を見つめた。



「そこのジェントルマン、われわれはこれからお色直しにむかいますの。レディのあとを未練がましくついてくるものではありませんわ。それにこのレディ・ハジメには、すでにナイトがおります。あなたの出番はありません。では失礼」



 扇子をとじて飾り毛で墨田の頬をくすぐると、ふたたび成瀬は剣持をひきつれて人目のない場所を目指していった。



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