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ぼくはヒーロー  作者: 西岡 幸
第1章 『黒いコートの男』
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第9話 親友

初めてのバトル突入です。

 あぶないところだった…


 ぼくはじょうじと武に話をするためにここへ来たんだ。それが、黒いコートの男…ウマヤドのおじさんが突然登場して、色々とむずかしくて長い話をしてくれたおかげで、頭の中からすっかり飛んじゃってた。


 そういえば、帽子のことをじょうじと武に話しても大丈夫なんだろうか?もし、とんでもないことに二人を巻き込むことになるなら、ぼくは話すのをやめた方がいいと思う。

 ウマヤドのおじさんに聞いてみよう。


「あのぅ… ウマヤド…さん?」


「うん、なんだい?さっきの話をもっと簡単にって話かな?」


「ううん、ちがいます。


 ぼく、ここへ来たのはそっちにいる二人と遊ぶ為じゃないんです。

 二人に大事な話をしたくてここへ来たんです。それで…」


 続きを言おうとするぼくを、じっと見つめるウマヤドのおじさんは、まるで「わかっているよ」と言うように大きくうなずいた。それでも、ぼくの口から聞きたいんだって顔をして、見つめている。


「あの…もらった帽子のこと、帽子の不思議な力のこと、二人に話してもいいですか?

 その…話しちゃったら、二人があぶない目にあったりしますか?」


 ウマヤドのおじさんは小さくうなずいて、微笑みながら答えた。


「大丈夫。話したからといって危ない目に遭ったりはしないよ。

 そして、あの二人なら、きっと君の力になってくれる。

 この意味は、すぐにわかるだろう。」


 ぼくはそれを聞いて安心した。そして、二人に話すことを考えるとちょっぴり緊張してきた。ウマヤドのおじさんはそんなぼくを見て、「大丈夫」という意味でまた大きくうなずいた。


「さて、私はこれから“天道”と呼ばれる世界へ行かなければならない。

 本当は君達に闘う術を教える必要があるんだが…。

 今は差し当たり、その帽子の力を上手に使えるようにする訓練からだね。

 それについては、きちんと“協力者”を呼んである。

 君の友達に君と同じような物を持っている女の子がいるだろう?

 明日、その子に聞けば、もっと詳しい事が分かると思う。


 それじゃ、また近いうちに会おう。」


 そう言うと、ウマヤドのおじさんはゆっくりと振り向いて歩き出し、霧のようにぼやけて、消えた。


 ぼくはその出来事におどろいて、ぼうっとしていた。小川の脇にある大きな木の方から、聞きなれた二人の声が聞こえてきて、ようやくハッと元に戻った。


 さっきウマヤドのおじさんが言っていたのは、きっと玲奈のことだ。明日、玲奈に聞いてみよう。でも、今はじょうじと武だ!二人にきちんと帽子の話をするんだ。



 大きな木に向かって歩くと、だんだんと二人の声が言葉としてわかるように聞こえてきた。


「今、オレ達呼ばれなかった?」と、じょうじ。


「うん、呼ばれたよね!」と、武。


 ぼくはいつもと変わらない二人に安心して、もう一度二人の名前を呼び、

「呼んだのはぼくだよ!」と近づいた。



 じょうじと武はぼくを見て「なんで?」って顔になったけど、すぐに「もう治ったんだね!」「大丈夫?」と言葉を返してくれた。ぼくは、中途半端に「うん…」と返事をして、二人に大事な話があるって言ったんだ。二人とも、真剣なぼくの顔を見て、真剣に話を聞いてくれる姿勢になった。もしかしたら、ぼくが転校するって言い出しそうに見えたのかも。


 ぼくは二人にこれまでのこと―。黒いコートの男…ウマヤドさんのことや、この帽子のことを二人に話した。難しい話は5分の1くらいしか上手く話せなかったけど、間違えずに伝えられたと思う。でも、玲奈のことは話さなかった。それは玲奈以外の誰かが話していいことじゃないと思ったから。二人とも、本当に真剣に聞いてくれた。「嘘でしょ!?」とか「あの時!?」とか驚きながら…。


 ついさっきのことまでを話し終わると、信じられないといった顔の武が口を開いた。


「じゃあ、今までここにいたあの人が聖徳太子なの?

 それってすごいことだよ!歴史上の超有名人だもん!

 …でもさ、本当に漫画みたいな話だよね。」


 続いてじょうじも口を開く。


「なんか、すげーかっこいいじゃん!

 あ!今、かぶってる帽子が例の帽子?」


「うん。そうだよ。」


 ぼくはそう答えてから、丘の頂上まで一瞬で駆け上がると、すぐにまた元の位置に戻って見せた。

「ほらね。」

 そんなぼくの姿を、二人とも目と口をあんぐり開けたおんなじ顔でしばらく見てた。先に声を出したのはまた武。


「ご、ごめん。今のを見るまで僕、半信半疑だったよ。

 でも、もう絶対信じた。」


 じょうじは相変わらずさっきの顔のまま固まって、石像みたいになってる。ぼくが「じょうじ?」と声を掛けて、ようやく声を出した。顔はまださっきと同じだけど…。


「ぅ、ぅうう、嘘ぉ!?

 ななな、なんとか戦隊とか、なんとかライダーとか、スーパーヤサイ人とかみたいじゃん!

 か、かっけぇぇーーーーっ!!」


 段々と目をキラキラさせながら、すごく興奮し始めたじょうじ。でも、武の次の一言で落ち着きを取り戻す。


「あのさ僕達、さっきの人…ウマヤド…さん?だよね?

 そのウマヤドさんに、それぞれ一つずつ何かを渡されたみたいなんだ。

 でも、僕には見えなくて…。」


「おれは見えるよ!グローブもらった。凄いよこれ、ミズモのグローブだ…

 しかも、ちゃんと左利き用!」


 落ち着きを取り戻したじょうじは、右手にグローブをはめて嬉しそうにしている。そういえば、さっきもぼくの帽子が見えてたみたいだ。玲奈の眼鏡は見えてなかったのに、どうして見えるようになったんだろう…。ぼくはそう考えながらふと、武の足元に転がっているバットが気になった。

「ねえ、武の足元にあるバット見える?」


「え?どこ?

 わかんない…

 バットなんて見えないよ…」


 武はきょろきょろと足元を探してるけど、本当に見えてないみたいだ。さっきから何回もバットのある場所を見てるのに、そう言ってるんだもん。じょうじには見えてるみたい。

 ぼくは、転がってるバットを拾い上げて、武の方へ見せた。

「今、ぼくが持ってるよ。横に持ってるから、受け取ってみて。」


 武はおそるおそる手を伸ばして、ぼくの手と手の間を掴んだ。突然「あ!」と叫び、今度は武が興奮しだした。

「み、見えた!本当だ。バットだ…。じょうじのグローブと同じ、ミズモ製…。

 !?

 あ、帽子も見えるよ!じょうじのグローブも見える!

 す、すごい…どういう原理なんだろう…。」


 ウマヤドのおじさんが二人に贈り物をしてくれたおかげで、こうして親友同士、同じものを見て話せるようになったんだ。


 ぼくもすごくドキドキしていた。一人きり…玲奈もいるから一人じゃなかったんだけど、それで悪いヤツと戦うなんてすごく怖かったんだ。でも、こうして二人が一緒なら勇気が湧いてくる。このドキドキは怖いんじゃなく、勇気が湧くドキドキだと思った。



 でも、そんなドキドキもすぐに怖いドキドキに変わった。夏の始まりの夕暮れ、爽やかな風が吹く丘で、まるで真冬のような寒さを感じる。どう考えても異常事態。ぼくはなぜだか丘の頂上を見つめていた。




 丘の頂上。何もない空中が突然裂け、裂けた“赤黒い向こう側”から、映画で見たことがあるようなドデカイ化け物が這い出そうとしている。ここから見ただけでも大きい。ぼくは怖さで脚がガクガクするのを感じた。でも、目をそこから離せない。男の大人一人分くらいある太い腕に、長くて鋭い角が生えた大きな牛の頭。肌の色は青黒くて、その周りには紫色のもやがゆらゆらと揺れている。そして、大木のようなとんでもなく大きい斧を両手で持っている。


 色んな漫画やゲームで見たことがあるその化け物の名前は、たしか…ミノタウロス。


 ぼくはそれを思い出すと、じょうじと武のことも思い出す。二人は?


 二人ともガクガクと震え、武は腰を抜かしたようにペタリと地面にお尻をつけてた。


 …二人とも見えてるんだ。ぼくは怖いはずなのに、すごく冷静だった。怖い証拠に心臓は今にも口から飛び出そうなくらいドクンドクンと鳴っているし、脚は変わらずガクガク震えてる。でも、冷静な証拠に化け物の特徴を観察できてたり、二人を心配する余裕もあるんだ。ぼくは自分でも不思議だった。


 化け物が裂け目から完全に這い出すと、裂け目はすぅっと消えて、化け物だけがそこに残った。化け物は、動物がよくやる仕草で周りのにおいを嗅いでいる。


 ぼくはまずい!と思ったけど、遅かった。今、風はここから丘の頂上側に向かって吹いている。化け物はぼくたちのにおいを嗅ぎつけると、まっすぐにこちらを見た。


 動けない―。ウマヤドのおじさんの時とは違う。怖くて身体が言う事を聞いてくれないんだ。どうしよう。どうしたら?そんなことをぐるぐると考える。

 ゆっくりと、地響きを鳴らしながら歩いてくる化け物。近づくほどに、その大きさが分かる。男の大人

3人分はある…。その体は筋肉モリモリで、青黒い肌と紫のもや、そしてギラギラと光る巨大な斧が恐ろしさを増やしている。

 ぼくは3歳の頃以来、久しぶりに太腿を暖かい液体が伝わる感触を味わうことになった。でも今は恥ずかしいなんて思うこともできないくらい怖い。


 ぼくたちと化け物の距離がおよそ10mになった時、ぼくはヤケクソになり始めた。


 この化け物を二人に近づけるわけにはいかない。


 ぼくはまだ自由に扱えない帽子の力を信じて、化け物に立ち向かうことに決めた。



 思い切り蹴った地面がベコンッとへこみ、ぼくは化け物へ一直線に突進した。






 ―――痛い。頭がズキズキする。化け物に正面衝突したぼくは後ろにはじき飛ばされ、後頭部を地面に打ちつけた。丈夫になってるハズなのに、頭も体も痛い。骨は折れてないみたいだけど、頭を強くぶつけたせいかクラクラする。

 化け物もぼくの突進で後ろに倒れたけど、ダメージは無いみたい。ゆっくりと立ち上がると、牛の声を恐ろしくしたような声で大きく叫んだ。

「ヴォーーーーーーーーーーッ!!」

 叫び声は空気を震わせるくらいすさまじくて、この帽子をかぶっていなければ鼓膜が破れてたと思うくらいだった。雷が落ちた時の空気の震え方に似てたと思う。二人が気になったけど、ぼくは化け物から目を離せなかった。このままじゃ、みんなやられちゃう。なんとかしなきゃって、それを考えるのに必死なのと、目を離したスキにやられそうだから。


 ぼくも立ち上がり、ゆっくりと化け物の後ろ側へ回り込むように動く。化け物はそんなぼくを見つめ、ぼくの動く方へと向きを変える。とにかく、二人からコイツを離したい。


 ちょうどさっきとは反対の位置になり、ぼくは化け物を挑発した。おしりぺんぺんとかベロベロバーとか、他にもやられたらムカッとしそうなことを思いつくかぎりした。

 化け物の牛の顔に血管が浮き上がってきたように見えて、ぼくはじりじりと後ろへ下がる。化け物がまたさっきのように叫び、さっきまで黒かった目が真っ赤に光った。次の瞬間、化け物は持っていた巨大な斧を振り下ろした―。


 ぼくはとっさに後ろに飛んだおかげで真っ二つにされずに済んだけど、ギリギリだったみたい。斧の一撃は完全にかわしたのに、ぼくの足元すぐ前の地面までがパックリと割れて、風圧みたいな力でぼくの服は破れている。もしかしたら、帽子をかぶっていなかったら真っ二つになってたかも。そんなこと考えたって意味はないんだけど…。

 ぼくはどうしたら化け物を倒せるかよりも、二人を安全に逃がす方法で頭がいっぱいなんだ。だって、ぼくがこの化け物を倒せるなんて思えない。

 化け物が「ヴォフヴォフ」と言いながら地面に深々とめり込んだ斧を抜こうとしているのを見ながら、ぼくは考えていた。けれど、全くいい案が思い浮かばない。ぼくの右や後ろの方向…街に向かったら大変なことになるのはぼくだって分かるし、かといって逆側の川や森に続く方向にはじょうじと武がいる。残る道は、ぼくから見て左の方向…大きな道の方に出て行くくらいしかない。


 そんなことをあれこれ考えてるうちに、化け物はついに斧を引き抜くことに成功しちゃった。ぼくは焦った。


 どうしよう―。


 化け物が怒り狂い、斧を振り上げながらぼくに向かって走り出す―。


 それを横っ跳びでかわすぼく。


 でも、化け物はただのバカじゃなかったみたい。


 振り下ろそうとした斧を横にして払うように切り付けてきた。斧はかわせたけど、今度は風圧をモロに受けてしまい、50メートルくらい吹っ飛ぶ。


 もうダメかも―。


 そう思った時だった。



 ぼくにトドメをさそうと歩き始めた化け物が溺れてる。苦しそうにバタバタともがいている。おかげでこの辺りに弱い地震が起きてるみたい。でも、それもすぐにおさまった。化け物の両手両足に地面がからみついたから。そして、化け物の顔をすっぽりと包む水の玉。きっとあれのおかげで溺れてるんだ。


 ぼくが痛い体でやっと立ち上がると、苦しむ化け物の向こう側にいるじょうじと武を見つけた。


 二人とも何が何だかわからないといった顔で、武はその手に大きな槍みたいな刀を持ち、じょうじは体と同じくらいの大きな亀の甲羅を持っている。


 ぼくはなんとなく、それがバットとグローブだと思った。


 ―あの二人なら、きっと君の力になってくれる―


 ぼくはウマヤドのおじさんの言葉を思い出していた。

今までの中で一番ボリュームある回になりました。

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