表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タ・ケ・ル  作者: 高遠響
10/32

     <5>

 乗り込んでから急にタケルは不安になる。声をかけられてとっさに身体が動いて乗り込んでしまったが、この二人の正体すらわからない。琴音の知り合いであることは確かのようだが……。

 ハンドルを握っているのはやはり三十代くらいの男だった。後ろからでは顔は見えないが、竜介とは違って体つきはそれほど大きくなく、少しなで肩気味のほっそりした感じだ。

 その男がちらっとルームミラー越しにタケルを見た。

「琴音と最近ずっと一緒にいた子のうちの一人だよね?」

「……はい」

「そう。なんだか最近、琴音が随分楽しそうだったから。この一週間くらいかな、琴音が子供みたいな顔で笑うようになったのは。彼女にもちゃんとこんな顔が出来るのかって、ほっとしたよ」

 タケルは目をぱちぱちさせた。

「琴音は今僕の家に住んでる。預かっているといった方がいいかな」

 という事は、このハンドルを握っている男が琴音の親戚のおじさんという事か? タケルは少し安心した。

 男はくすっと小さく笑う。

「で、なんでこんなガキを一緒に連れていくんだ。足手まといだ」

 竜介は助手席でむすっとしている。

「ガキガキ言うな! おっさん!」

 タケルは身を乗り出して大声で怒鳴る。おっさん呼ばわりされた竜介は目が点になった。

「トーマが助けてって言ってたんだ! 教えてよ! どうなってるんだ!」

 竜介は耳を押さえて顔をしかめた。

「うるさい! 耳元でデカい声出すな。それと、俺はおっさんじゃない」

「うるせ~! 三十過ぎたらおっさんで充分だ、おっさん」

 タケルはムキになって吠える。運転席の男がくすくすと笑いだした。

「竜介の負けだな。小学生から見たら僕らは立派なおっさんだよ」

 竜介が嫌そうな顔でタケルを横目で見た。誰がおっさんだ……という抗議の独り言がタケルの頭に届く。

 運転席の男はまあまあと竜介をなだめた。

「この元気なボクをあのままほったらかしていたら、間違いなく警察を呼んだだろうよ。今、連中が来たら、また話がややこしくなる」

「……まあ、それはそうだが」

 竜介は苦々しく呟いた。

「それに、竜介、偶然だろうか、必然だろうか、僕らはすごい拾い物をしたかもしれない」

 唐突に運転席の男が言う。

「君、テレパスなんだよね?」

「なにぃ?」

 竜介がびっくりしてがばっと振り返る。タケルは一瞬何を言われたのかよくわからず、きょとんとした。

「君がタケルくんなんだね?」

 畳みかけるような男の質問にタケルはおずおずと頷いた。何故俺の名前を知っている? いや、それよりも何故俺がテレパスだって知っているのか? 頭の中が混乱してきた。

「さっき、琴音と一緒にさらわれた子がさ、トーマくんって言うの? 君を呼んでた」

「……」

 タケルは目をぱちぱちさせた。確かにさっきトーマは自分を呼んでいた。俺はその声を頭で聞いたはずだったんだけど……。あれはトーマが本当に叫んでたのか? 

「いや、そうじゃないよ。他に彼の声を聞いた人はいない。それは間違いない。明らかにトーマくんは君が自分の声を聞き取ってくれるとわかって呼びかけてた。心でね」

「……ええええ?」

 タケルは思わずのけぞった。なんでこの男はそんな事を言いだすんだ? 心で呼びかけていたという事が、何故この男はわかるのだろうか。普通の人間ではあり得なかった。そう、テレパスでもない限り、そんな事が出来るはずもない。

「いやあ、実はさ、僕もテレパスなんだよ」

 運転席の男は愉快そうに笑いだす。

「琴音の意識をトレースしていたら、トーマくんの悲鳴が聞こえてね。まさかそれに反応する人間がいたとは……。類は友を呼ぶって、本当にあるんだね。正直僕も驚いてる」

 なにがなんだかよくわからないが、どうやらこの男もタケルと同じような能力を持っているらしい。まさか琴音の親戚がテレパスだったとは……。

「ああ、僕ね、琴音のおじさんでもなんでもない、赤の他人。中辻一平と言います。琴音の、まあ、言ってみれば身辺警護みたいな事をしてるわけで。で、これが相棒の高野竜介。竜介はサイコキネシス、念動力を操る。君がさっき車道に飛び出しそうになった時、後ろに引っ張られただろ? あれがそうだ」

「あ、あれ?!」

 タケルは歩道に引き戻された時の感触を思い出した。そうだ、言われてみれば誰もいないのに強く後ろにひっぱられたのだった。

「わあああああ、もう、何がなんだかわからない!」

 タケルは両手で頭をかきむしり、思わず叫んだ。そして大きな溜息をつく。

「う~ん、ちょっと刺激が強すぎたかな。頭がパニくってるみたいだね」

 一平は苦笑いした。

 竜介とは対照的に、どこまでも穏やかで優しい物言いだ。ミラー越しなのでよくわからないが、目がずっと笑っている。

「お前の友達とやらもサイキックか?」

 竜介が首だけこちらを向けた。

「トーマはそんなんじゃない。でも、俺がテレパスだってことは知ってるし、よく相談にも乗ってくれて……」

「小学生のくせに生意気な……」

 竜介はふんと鼻を鳴らす。よく出来たガキなんてロクなモンじゃねぇ……。そんな呟きが聞こえてくる。この男、相当屈折しているようだ。

「あのお嬢さんもラッキーだな。類は友を呼ぶ、か。サイキックと、心の広いノーマルがボーイフレンドとはね」

「そんなんじゃないよ!」

 タケルは口をとがらせて抗議した。が、ふと心に疑問が浮かび上がる。

「あの、琴音は? あの子もテレパスなの?」

 一平と竜介が一瞬顔を見合わせる。

「読んでみろよ、俺の頭の中を」

 竜介がにやりと笑って、腕を組んだ。


<続く>

ま~だまだ続くのであります(笑)。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ