盗賊団リーダーその後
王国が所有する鉱山。
カン、カン、カン……
ガラガラ……
暗く湿った坑道に、鉄を打つ音と岩が崩れる音が絶え間なく響いていた。
元盗賊団リーダー―ガレス。
かつて十数人を率いていた男は、今では粗末な囚人服を着せられ、鎖を足に付けられながら鉱石を掘る日々を送っていた。
王国の判決は**鉱山奴隷として十年**。
食事は薄いスープと黒パンだけ。
寝床は石の床に藁を敷いただけ。
病気になれば治療もなく、働けなくなれば捨てられる。
悪辣な環境だった。
だがガレスは思っていた。
——これでも、軽い。
自分たちがやった事を考えれば。
理由は一つ。
**あの魔法の被害者だったからだ。**
裁判中、誰も彼を憎んでいなかった。
むしろ——
憐れみだった。
あまりにも酷い結果を知っているからだ。
そして何より、
ガレスが心から反省しているのが、誰の目にも明らかだった。
そのため刑は驚くほど軽かった。
だが鉱山の囚人達はそんな事情を知らない。
最初の数日は散々だった。
「おい見ろよ、こいつだろ?
**玉取られた盗賊団長**ってのはよ」
「女にもなれねぇ半端モンだなぁ!」
下卑た笑い声。
ガレスは黙ってツルハシを振り続けた。
怒る気も起きない。
しかし数日も経つと、囚人達の態度は変わった。
話しているうちに気付いたのだ。
外には――
**とんでもない悪魔がいる**と。
もし出所してまた罪を犯せば。
「……俺らも、玉取られるのか?」
「……冗談じゃねぇ」
それ以来、誰もガレスを馬鹿にしなくなった。
むしろ時々、同情すらされた。
ガレス自身は、そんなことより別の事を考えていた。
ツルハシを振りながら、ため息をつく。
「……なんでだよ」
ポツリと呟く。
「何であんな凶悪な魔法を使える新入生がいるんだよ……」
思い返すほど、おかしかった。
自分は無計画に学院を襲ったわけではない。
計画は完璧だった。
新入生が外に出るタイミングを狙う。
まだ魔法もろくに使えない生徒を人質にする。
教師が来る前に金品と魔道具を奪って逃げる。
魔道具は高価だ。
成功すれば一生遊んで暮らせる。
ハイリスク・ハイリターン。
それは理解していた。
だが——
「……ハイリスク過ぎるだろ」
思い出すだけで背筋が寒くなる。
そしてもう一つ。
どうしても納得できないことがあった。
「普通……教師ってのは生徒守るもんだろ」
あの時。
教師はいた。
なのに。
生徒に戦わせた。
それも怯えた様子など一切なく。
むしろ——
楽しそうだった。
「絶対……」
ガレスは吐き捨てる。
「魔法見たかっただけだろ、あの教師……」
学院の教師に変人が多いのは知っていた。
だが直接教師の行動を見ればイカれ具合がよく分かる。
それでも。
ガレスはまだ自分は運がいいと思っていた。
もし状況が少し違えば。
自分たちの何人かは、どさくさに紛れて研究塔の実験材料として連れ去られていた可能性もあるからだ。
それを思えば——
鉱山の方がまだマシだ。
そんな囚人生活が数週間過ぎた頃。
ある日。
「おい、ガレス」
看守が呼んだ。
「来い」
ガレスは鎖を引きずりながら看守室へ向かう。
看守は書類を見ながら言った。
「来たばかりで悪いがな」
「?」
「お前を犯罪奴隷として購入した人間が現れた」
「……え?」
ガレスは固まった。
あり得ない。
犯罪奴隷は普通、購入できない。
もし買えるなら、黒幕が買い戻してまた犯罪をさせるからだ。
しかも。
刑期が終われば解放しなければならない。
刑期中に死ねば購入者が罪に問われる可能性もある。
リスクだらけだ。
普通の人間が買う理由がない。
怪しすぎる。
看守は笑った。
「安心しろ」
「購入者は——学院だ」
「……学院?」
「なんでもな」
看守は説明する。
「あの事件は余りにも悲惨な結果だったろ?」
「しかも過去に例のない魔法だった」
「だからカウンセリングと経過観察をしたいらしい」
看守はニコニコしていた。
「よかったなぁ。鉱山よりマシだぞ」
ガレスは沈黙した。
だが疑念は消えない。
研究。
経過観察。
学院。
嫌な予感しかしない。
看守は続けた。
「ただし全員は無理らしい」
「とりあえず一人だけ連れてくそうだ」
そして言った。
「お前が嫌なら他の奴に変えてもらうよう聞いてやるが?」
ガレスは少し考えた。
部下達の顔が浮かぶ。
自分が計画した。
自分が連れてきた。
だから。
これ以上苦しませたくない。
「……わかりました」
ガレスは静かに言う。
「自分が行きます」
看守は嬉しそうに笑った。
「そうか!よかったな!」
——本当に、よかったのか。
ガレスには分からなかった。
それから数日後。
学院への移送日。
ガレスはやつれていた。
あの日からほとんど眠れていない。
どう考えても怪しい。
だが今さら逃げることも出来ない。
馬車は王国学院へ到着した。
巨大な門をくぐり。
広い敷地の奥へ。
そして。
学院の端に建つ一本の塔へ連れて行かれる。
嫌な汗が流れる。
塔の扉が開いた。
その瞬間——
明るい声が響いた。
「おぉ!」
「よく来たね!待っていたよ!」
そこに立っていたのは。
学院の教授。
アーヴィン・クロイスだった。
次は一旦主人公の話に戻ります。




