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オークのその後

学院内研究塔――地下。


重い石扉が軋み、金属の擦れる音とともに大きな檻がゆっくりと運び込まれてきた。檻の中には、三体のモンスターの影が揺れている。


「おや?どうやら届いたみたいですね。」


白衣を着た男が、興味深そうに呟いた。


男の名は アーヴィン・クロイス。

学院でも名の知れた魔法生体学の教授であり、同時に“研究のためなら倫理を置き去りにする男”とも噂されている人物だった。


アーヴィンはゆっくりと檻に近づいた。地下研究室の薄暗い魔石灯が、檻の中をぼんやりと照らし出す。


中にいるのは――オーク。


三体のうち、最も大きな個体が鉄格子越しにこちらを見ている。


その姿を見た瞬間、アーヴィンの口元がゆっくりと歪んだ。


「新しく発現した……去勢魔法で処理されたオーク……」


恍惚とした声が漏れる。


「都合よあく生け捕りの個体が手に入るなんて……運が良すぎますね。」


彼は檻の前にしゃがみ込み、まるで宝石を見るような目でオークを眺めた。


「せっかく生きているのだから……しばらく観察しないとね。」


本来、オークという魔物は闘争本能の塊だ。

他種族を見れば、即座に襲いかかることで知られている。


しかし、このオークは違った。


アーヴィンが目の前に立っても、ほとんど反応しない。


運び込まれる途中で一度目を覚ました時、このオークは何かを探すように腰布の中を必死にまさぐっていた。


だが――


すぐに、すべてを悟った。


その瞬間、絶望に満ちた表情を浮かべ、それ以降は一切暴れなくなったのだ。


アーヴィンは檻の周りをぐるぐる歩きながら、ぶつぶつと独り言を続ける。


「やはり、去勢魔法を受けたらモンスターでも大人しくなるみたいだね……」


「しかし……ここまで大人しいものか?」


彼は顎に手を当て、考え込む。


「オークは繁殖本能が行動原理の大半を占めていると言われている……」


「つまり、失ったものが大きすぎた影響……かな?」


アーヴィンの目が、危険な光を帯びた。


「解体して観察してみたいけど……」


彼は残念そうに肩をすくめる。


「生きた個体が次にいつ手に入るかわからないからね。大事に観察しないと。」


彼の視線は、檻の奥の別の影へと移る。


「他のモンスターはどうなるんだろうな……」


「冒険者ギルドに登録されているだろうし……指名依頼を出してみるか?」


彼の思考は、すでに次の実験へと進んでいた。


「いや……むしろ」


アーヴィンの口元がゆっくり吊り上がる。


「他の冒険者に生け捕りさせて……」


「新魔法の効果を確認するためと言って、目の前で魔法を使ってもらう方がいいかもしれないね。」


「本人のためにもなるし……」


その言葉には、研究者としての理屈と、狂気が混ざっていた。


「試したいことが多すぎるな。」


アーヴィンは檻の前で立ち止まる。


そして――


人には見せられないほど、だらしなく歪んだ笑みを浮かべながら、オークを見つめ続けていた。


まるで、新しい玩具を手に入れた子供のように。



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