実戦訓練編
午後。
俺は、無理やり実戦訓練の教室に連れて来られた。
そこには男子生徒が十数人、ずらりと並んでいる。
……全員、目が死んでいる。
「みんな、今日の相手はレオン君です」
教師がにこやかに説明する。
全員の男子が凍りつく。
「いやいやいやいや、俺は攻撃魔法Eだぞ!」
俺は必死に言うが、誰も聞いていない。
「条件はシンプルです。安全距離を保ちつつ、レオン君と戦ってください」
戦う、という言葉に恐怖を覚える男子生徒たち。
「安全距離って……」
「無理です!!」
叫び声と共に、全員が一斉に後ずさる。
廊下いっぱいに広がる、レオン専用の“安全地帯”。
「……なんだこの空間」
ミリアが横でぽつりと言う。
「……俺だって知りたくない」
教師が笑顔で言う。
「では、開始!」
一瞬の静寂。
そして、全員が全力で逃げ出す。
「待て待て待て!!」
俺は手を振るが、全く追いつけない。
男子生徒たちは壁に張り付く、机の下に隠れる、天井に登る。
“去勢魔法が飛んでくるかもしれない”という恐怖が、彼らの全力の逃走本能を呼び覚ます。
数分後。
「全員捕獲完了……」
俺は汗だくで立っていた。
男子生徒たちは床にへたり込み、息を荒くしている。
「……こんな訓練、意味あるの?」
俺が問いかける。
「意味あります!」
教師は満面の笑みで言う。
その瞬間、男子たちの怯えた顔に視線が向く。
「彼を倒す方法を考える……いや、接触すら怖い状況で、作戦を練ること自体が防御訓練です」
「そういうことにするんだ……」
俺は遠い目をした。
ミリアが肩を叩く。
「でも、見てた? あの男子たちの必死さ」
「いや、見たくなかった!」
俺は叫んだ。
その日、学院の男子生徒たちは口々に言った。
「……もう近寄らない」
「レオンは実質無敵」
「廊下通るときは避けるしかない」
こうして、学院では“去勢魔法のレオン”としての地位が確立される。
噂は瞬く間に広がった。
「廊下でレオンに触れると、二度と戻れないらしい」
「男子は安全距離を保て」
俺は遠くでため息をついた。
「……最強って、こういうこと言うのか?」
ミリアは笑顔で言う。
「ちょっと方向性がおかしいけどね」
「おかしいってレベルじゃねえよ!!」
こうして――学院史上最も恐れらる魔導師が、また一歩その地位を確立したのだった。




