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それは愛2


オーク視点


檻の中で、オークはぼんやりと天井を見ていた。


最近、何かがおかしい。


以前なら、人間を見ればすぐに襲っていた。


殴って、犯して、食う。


それが楽しかった。


なのに今は、そんな気がまったく起きない。


理由は分かっている。


あの悪魔だ。


あの人間のせいで、すべてが変わってしまった。


そんなことをぼんやり考えていると、足音が聞こえた。


よく見る人間が来た。


アーヴィンである。


檻の外で、いつも何かを書いている人間だ。


そして今日は――


もう一人、人間がいた。


ガチャリ。


檻の扉が開き、その人間が中に押し込まれる。


新しい人間。


餌か?


オークはじっと見つめる。


人間は怯えている。


この顔も、昔はよく見た。


だが――


不思議と、襲う気が起きない。


どうでもいい。


オークはぼんやりと人間を眺めていた。


そのときだった。


「ん?」


違和感に気づく。


鼻をひくつかせる。


匂いだ。


人間の匂い。


だが、何かがおかしい。


オス特有の匂いがしない。


かといって、メスの匂いでもない。


奇妙な匂いだった。


オークはゆっくりと立ち上がる。


確かめてみることにした。


人間――ガレスに近づく。


怯えている。


だが気にしない。


手を伸ばし、ガレスの下腹部に触れた。


「……!」


その瞬間、オークは目を見開いた。


ない。


そこには、あるはずのものがなかった。


自分たちと同じだ。


あの悪魔に奪われた場所。


オークの頭の中に、あの恐ろしい人間の姿がよぎる。


――仲間。


思わず、そう思った。


だが次の瞬間。


ガレスの体がびくりと震えた。


「っ……!」


ガレスの顔が苦痛に歪む。


体がぐらりと揺れる。


幻肢痛。


存在しないはずの場所の痛み。


オークは理解した。


やはり仲間だ。


証明しなければならない。


オークはガレスの手を掴む。


そして、自分の下腹部へと押し当てた。


その瞬間だった。


忘れかけていた痛みが――


脳を貫いた。


「ブモッ!!」


体が激しく震える。


存在しないはずの場所が、強く握り潰されたかのように痛む。


耐えられない。


視界が白くなる。


オークはそのまま床へ崩れ落ちた。


意識が消える直前、ぼんやりと思った。


やはり――


仲間だった。


床に崩れ落ちた仲間のオークを、残りの二匹がじっと見つめていた。


「……?」


一匹目が首をかしげる。


仲間はのたうち、苦しそうだ。


目を閉じ、手を体の前に押し当てている。


「なんか、自分の下半身を触らせてたな……」


「……ちょっと触ってみるか?」


二匹目が、ひらめいたように呟く。


慎重に、ガレスの手を自分の下腹部に当ててみた。


すると――


「ぐっ……!」


思わず声が漏れ、自分も同じような痛みに襲われる。


「あ、あれ?」


目を見開き、もう一度も恐る恐る手を押し当てる。


「ブモッ!!」


二匹目もびくっと体を震わせ、床に崩れ落ちる。


残る三匹目が、二匹を眺める。


「……なるほど」


肩をすくめ、恐る恐る自分も手を下ろす。


「……ぐわっ!!」


瞬く間に三匹目も同じ轍を踏む。


床の上には、三匹のオークがぐったり横たわっていた。



息を荒くし、まるで大きな戦いをくぐり抜けたかのような顔である。


ーー幻肢痛である。


オークは基本馬鹿なので、同じ轍は何度でも踏む。一匹が罠にかかれば入れ食いである。


一方、檻の中のガレスは、そんなオークたちを怯えながら見つめていた。


状況がまったく理解できず、目をぱちぱちと瞬かせる。


外ではアーヴィンが嬉々としてメモを取り続けている。


「これ、観察データとして最高だな」


檻の中の人間と、ぐったりのオークたち。


奇妙な静寂が、しばらく続いた。






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