表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/21

シャンパン風呂は不実告知か

温泉郷に到着したドラキチらは、さっそく宿にチェックイン。ロビーの暖炉の前には巨大なクリスマスツリー。ツリーは星などのオーナメントで輝いていた。

「これがヒュッゲ(居心地の良い時間)か。火を眺めてボーッとするのが、冒険に行くよりも何倍も贅沢だ」


温泉宿には様々な風呂があった。注目は「シャンパン風呂」。しかし、ドラキチの消費者契約法使いとしての触角がピクリと動いた。

「お湯が金貨を溶かしたような色……? 待てよ、この芳醇すぎる香り……」

ドラキチは消費者契約魔法を詠唱した。

「不実告知・看破」

手を湯船にかざすと、お湯の成分が空中に文字として浮かび上がる。

「成分:安価な炭酸水+着色料+合成香料(シャンパン成分0.01%)」

「……やはりな。シャンパン風呂と謳いながら、実際はただの安酒の搾りかすですらない。これは『重要事項についての事実と異なる説明』に該当する!」

ドラキチは激怒し、支配人を呼びつけようとしたが、ふと湯船の温度を確認した。

「……だが、お湯の温度は44度。冬場には最適の温度。そしてこのシュワシュワ感……悪くない。今回は『追認』してやるか。せっかくのヒュッゲだからな」

湯船に浸かると、シュワシュワという泡の音が響き渡る。

「最高……香りに包まれて、酔い心地のいい夢が見られそう……」

お湯の温度は熱めだったおかげで、体の芯からポカポカに。寒い季節にはたまらない温かさで、日頃の疲れもすっかり吹き飛んだ。


夕食は「炙りチーズ&マシマシニンニク焦がし醤油の鶏唐サーモン丼」。

運ばれてきた丼を前に、ドラキチは魔導書を開く。

「商品名に『マシマシ』とある場合、その分量は通常時の五割増以上でなければならない」

ドラキチは消費者契約魔法を発動する。

「鑑定魔法:計量執行」

光が丼を包む。ニンニクの量は通常の三倍。合格だ。

「炙りチーズ&マシマシニンニク焦がし醤油の鶏唐サーモン丼」は名前からして強烈であるが、ニンニクの強烈なパンチと、炙りチーズの香ばしさが風呂上がりの五感を刺激した。

「鶏(陸の幸)とサーモン(海の幸)の共演……」

鶏唐とサーモンの意外な組み合わせは相性抜群で、一気に完食した。追加でフライドチキンを骨ごとバリバリと食べた。

「最後はケーキで締めだ。甘いものは別腹だからな」

ドラキチはメニューの隅にある一文を見逃さなかった。

「季節の限定・極厚ショートケーキ(※イラストはイメージです)」

ドラキチの目が鋭く光る。

「『イラストはイメージです』……この一言で、実物との乖離をどこまで許容できるか」

運ばれてきたのは、確かに厚みはあるものの、イラストにあった「溢れんばかりの苺」は、天面に一粒ちょこんと乗っているだけのものだった。

「消費者契約魔法:有利誤認・検知!」

指から放たれた光がケーキをスキャンし、成分解析結果が空中に表示される。

『苺密度:イラスト比一五パーセント。スポンジの厚み:イラスト比一二〇パーセント%(空気含有量過多)』

「不当表示の疑いが濃厚。消費者の期待を著しく裏切る過大表示だ!」

ドラキチが異議を申し立てようとしたその時、背後のテーブルから子どもたちの歓声が聞こえてきた。

「わあ、大きなケーキ! スポンジがふわふわで、雪みたいだね!」

ドラキチはハッとした。窓の外では、夜の帳が下り、本物の雪がしんしんと降り始めている。

「……ふん。この過剰な空気含有量は、むしろこの雪の夜の情緒を再現するための演出、つまり『無形の付加価値』と解釈できなくもない。それに……」

一口食べると、驚くほど軽いクリームが口の中で淡雪のように溶けた。

「……悪くない。契約の『要素の錯誤』を主張するほどではない。この『ふわふわ感』は、数字では計れないヒュッゲの本質だからな」

ドラキチは追認の証として、苺を大切に口に運んだ。窓の外では冬の冷たい風が吹いているが、温泉の魔法と消費者契約魔法によってドラキチの心は暖炉の火のように赤々と温まっていた。


食後は湯けむりが立ち込める露天風呂に浸かる。一日に何度も温泉に浸かれるところが温泉宿に宿泊する良いところである。腹は満たされ、体はポカポカ、心は消費者保護の精神で清らかだ。

「はぁ……最高だな。」

オニイが隣で言った。

「お前、本当に冒険者って感じじゃないけど、なんか憎めないんだよな。」

「それ、よく言われる。」

温泉の湯気から小さな妖精が現れる。彼女は温泉の精霊であり、この地を訪れる人々に癒しを与える存在だという。しかし、何か困っている様子でドラキチたちに話しかけてきた。

「最近、温泉の魔力が減少していて、泉源に原因があるみたいなの。でも私一人じゃどうにもできなくて……。」

妖精の話を聞いた冒険者たちは、泉源を調査することに決める。ドラキチも参加することになったが、心の中では「温泉に入るだけのつもりだったんだけどなぁ……」と少しだけぼやく。

泉源へと続く道は険しく、さらに強力なモンスターが巣を作っている可能性もある。しかし、ドラキチは「消費者契約魔法を使えば何とかなる」と、妙な自信を持ちながら皆と進むことを決意した。


部屋に戻ると、ふかふかの羽毛布団が彼を待っていた。枕元には「当館の布団は最高級グースダウン百パーセント」という表示。

「さて、明日の朝食バイキングで『自家製』の定義について厳密な監査を行うまでは……一時休戦だ」

ドラキチは幸せな溜息をつき、布団に潜り込んだ。ドラキチは誰よりも深く、健やかな眠りについた。


次回予告

「温泉の危機を救え!」

湯けむりの向こうに現れる謎の魔物、そして泉源に隠された秘密とは?ドラキチのお得でほのぼのな旅路は、新たな展開を迎える!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ