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自動洗濯フェアリーだまし売り

別の日。色とりどりの布で飾られた露店が、陽光にきらめいている。その中央に、ひときわ目を引く看板が掲げられていた。「自動洗濯フェアリー! 一度使えば洗濯の悩み皆無!」と派手な文字が踊っている。

看板の下では、小柄な店主が、まるで舞台役者のように大仰な仕草で客を引きつけていた。彼女の手には、蝶の翅のような光沢を持つ小さな人形が握られ、宙をふわふわと漂っていた。フェアリーは、まるで生きているかのように、客の前でくるりと回転し、布の切れ端を器用に畳んでみせた。

「おや、そこのお兄さん! このフェアリー、見た目も可愛いし、仕事も完璧だよ! 洗濯物を洗って、干して、畳んでくれる! 冒険で疲れた体を癒すにはもってこいさ!」

店主の声は、市場の喧騒を突き抜けるほど明るく、自信に満ちていた。ドラキチは無言でフェアリーを眺めた。その動きは確かに滑らかで、まるで魔法の精霊が宿っているかのようであった。だが、彼の指先が静かに動く。空気が微かに震え、消費者契約魔法が発動した。光のスクリーンが空中に浮かび、フェアリーの詳細が冷たく映し出される。

「洗濯機能:初回30日間のみ保証」

「動作中に高温を発する場合あり」

「所有者の衣類に適応しない素材への損傷リスクあり」

さらに、小さな文字で「フェアリーの感情シミュレーション機能により、動作が不安定になる場合あり」と付け加えられていた。

ドラキチは眉を上げ、店主に視線を移した。

「感情シミュレーション? フェアリーが機嫌を損ねたら、洗濯物が燃えるってこと?」

店主の笑顔が一瞬凍りついたが、すぐに取り繕うように手を振った。

「いやいや、そんな大袈裟な! ほら、ちょっとした個性ってやつですよ! 愛嬌、愛嬌!」

「愛嬌で服が燃えたら、洒落にならないよ」

ドラキチの声は穏やかだが、その言葉には鋭い刃のような力が宿っていた。

「それに、30日しか保証がないなら、ただの使い捨てじゃないか。こんな大事な情報、看板には書いてないね」

周囲の客たちがざわめき始めた。通りすがりの商人や、買い物を楽しむ主婦たちが、ドラキチの言葉に耳を傾け、店主を訝しげに見つめる。店主は額に汗を浮かべ、しどろもどろになりながら弁解を始めた。

「そ、そんなつもりじゃ……ほら、細かいことは契約書に書いてあるし……」

「契約書を読めって言うなら、最初から隠さず看板に書けばいい。消費者契約魔法は、隠された真実を暴くためのものだよ」

ドラキチは静かにそう告げ、魔法の光を指先で消した。フェアリーはなおも宙を漂っていたが、その輝きはどこか色褪せて見えた。ドラキチが踵を返すと、市場のざわめきが彼を追いかけるように響いた。

「またあの男が、だまし売りを暴いたぞ」

「消費者契約魔法の使い手だ」

「ドラキチってやつ、ただ者じゃないな」


ドラキチは市場の端にある小さな広場に腰を下ろした。石造りのベンチは冷たく、背後では噴水がさらさらと水音を立てている。彼は革袋からリンゴを取り出し、かじりながら空を見上げた。雲一つない青空に、遠くの山脈が薄紫に霞んでいる。

ふと、彼の隣に影が差した。振り返ると、果物売りの少年が立っていた。少年は少し緊張した面持ちで、しかし目を輝かせながら言った。

「ドラキチさん、さっきのすごかったよ! あの店主、顔真っ赤にしていた!」

ドラキチは苦笑し、リンゴをもう一口かじった。

「別に大したことじゃないさ。消費者契約魔法で真実を見ただけだ」

「でもさ、みんなドラキチさんのこと話しているよ。『市場の目』って呼ばれてる! だまし売りを暴くヒーローだって!」

「ヒーロー?」

ドラキチは鼻で笑った。

「俺はただ、だまされたくないだけだ。消費者として賢く生きようってだけさ」

少年は首を振った。

「でも、ドラキチさんがいるから、市場が少しずつ変わっているよ。昨日なんて、薬草屋の店主が、ちゃんと効能を説明してたもん!」

その言葉に、ドラキチの胸に小さな温もりが広がった。彼は英雄でも冒険者でもない。ただ、消費者契約魔法を手に、日常を守る者だ。だが、その小さな行動が、市場の空気を変えつつあるのかもしれない。

少年が去った後、ドラキチは再びリンゴをかじり、噴水の水音に耳を傾けた。市場の喧騒は、遠くでまだ響いている。次の露店では、どんな魔法の品が待っているのか。どんな真実が隠されているのか。ドラキチの指先が、そっと動く。消費者契約魔法は、今日も彼の「剣」であり「目」であった。


ドラキチの物語は、こうして市場の片隅で続いていく。戦場ではなく、露店の光と影の中で。ある時は、催眠商法で高額な壺を売りつける魔女集団を「困惑」の魔法で撃退し、またある時は、クーリングオフを認めない不動産屋(物件は洞窟)に「契約解除」の魔法を炸裂させた。

ある日、ドラキチは大規模な魔法道具のマルチ商法組織に立ち向かうことになる。その組織は、人々を洗脳し、莫大な借金を背負わせていた。

「これは『連鎖販売取引』における『威迫』と『困惑』!全ては違法です!」

ドラキチの力強い声が響き渡る。彼の消費者契約魔法が発動すると、複雑に絡み合った契約の鎖が次々と弾け飛び、解放された人々は希望の光を取り戻した。


悪徳商人たちを裁き、市場に公平な取引を取り戻していく。ドラキチの戦いは、異世界の人々に「信頼」と「権利」の大切さを教え、世界をより良い場所へと変えていった。

消費者契約魔法が暴く真実は、時に小さな波紋を、時に大きなうねりを生むだろう。次の品物、次の店主、そして次の真実――ドラキチの歩みは、静かに、しかし確実に、この町の未来を照らし始めていた。噴水の水音が、まるでその物語の前奏曲のように、穏やかに響き合っていた。

今日もどこかで、ドラキチは叫ぶ。

「悪徳商人め!貴様の営業方法は、消費者契約法に違反している!出直してこい!」



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