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時空のバザール

竜の市場での妥当な対価と厳格な品質保証に基づいた大満足の買い物を終え、ドラキチはギルドへと帰還した。ギルド内の大気は、いつものように喧騒という名の不協和音に満ちていた。壁に掲げられた不当表示まがいの依頼書を吟味する者、報酬の源泉徴収に頭を悩ませる者、明日の装備という名の減価償却資産に余念のない者。


その混沌の中で、ドラキチは静かに情報の波動を精査していた。彼にとって冒険とは、血生臭い剣戟けんげきの応酬ではない。それは生活の崇高なる延長であり、生活とは即ち、契約と選択という名の織り成すタペストリーであった。


その時、背後から運命の風を孕んだ声が飛来した。

「おいドラキチ、聞いたか?『時空のバザール』っていう伝説の市場が開くらしいぞ!」


振り返れば、そこには冒険者仲間のオニイが、興奮という名の過大広告を身に纏って立っていた。目は輝き、声は弾んでいる。彼の供する情報は、往々にして誇大表現の嫌いがあるが、稀に真実という名の純金を含んでいることを、ドラキチは知っていた。


「時空のバザールか。随分と景気の良いネーミングライツだな」

ドラキチは微笑を浮かべた。だが、その語感は彼の知的好奇心を、優しく刺激した。


「然り。過去、現在、未来――あらゆる時間の特産品が集う至高の商圏。そこでは普通のバザールのを越した、神話級のアイテムが等価交換されるという。場所は『時空の裂け目』。立ち入るには、厳格なる適格要件を満たさねばならない」

オニイは、まるで未公開株の勧誘を行う者のごとく、身を乗り出して語った。

「その『適格要件』とは?」

「時空の鍵を集めること。それがなきゃ裂け目に入れないらしい」

その瞬間、ドラキチの思考が静かに、しかし力強く稼働を始めた。「鍵」。それは権限の委譲であり、アクセス権の付与であり、契約の象徴に他ならない。過去、現在、未来を象徴する三つの秘宝。それらを法的に正当な手続きで保持した時、時空の裂け目は「善意の第三者」たる彼に開かれるのだ。


「これはまた、大いにやりがいがありそうな案件だな……」

ドラキチは自らの内に眠る消費者契約魔法Consumer Contract Magicを想起した。不実告知を霧散させ、不利益事実の不告知という暗雲を払い、消費者の権利という名の聖剣で不当条項を断ち切ってきた力。今、その魔力は時空を超える旅を目指そうとした。

ギルドの窓から差し込む、黄昏時たそがれどきの琥珀色の光が、ドラキチの服を黄金に染め上げる。彼は静かに椅子を立ち、一歩を踏み出した。

三つの鍵を正当に取得するための旅が始まる。ドラキチは、最初の目的地である「忘却の谷」――そこは、かつて結ばれたはずの契約の記憶が風化し、多くの消費者が泣き寝入りしたとされる地へと、格調高く歩み出した。


谷への道すがら、ドラキチは「割賦販売の丘」を通過した。そこには、見るからに怪しげな行商人ゴブリンが待ち構えていた。

「お客さん、月々たったの100ゴールドでこの『自動で敵を倒す剣』はいかがっスか?」ドラキチは涼しい顔で問い詰める。

「契約書面の交付は?」

ゴブリンは「ひっ!」と悲鳴を上げ、そそくさと剣を引っ込めた。危うい契約から人々を救うことも、ドラキチの務めであった。

さらに進むと、「過払い金の川」が流れていた。かつて無計画な借金で苦しんだ魂たちが、川辺でぼんやりとたたずんでいる。

「時効の援用をすれば、借金は消滅するんですよ」

ドラキチは彼らを見つめ、優しく声をかけた。しかし、彼らの多くはもはや現実世界との契約を結ぶ気力すら失っていた。その光景は、ドラキチの心を切なくさせた。


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