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竜の市場 ドラゴンの試練

灼熱の風が吹き荒れる火炎峰――その峻険なる頂にて、ドラキチは、深紅の鱗を鎧のごとく纏った古龍ヘッドと対峙していた。ヘッドは「竜の市場」へと至る不可視の門を護る不倒の番人であり、その眼光は、不届きな侵入者の魂を焼き尽くす審判の炎を宿している。

「人間よ。貴公は、万物の理を凌駕せし『竜の市場』に、その足で踏み越えんとするのか?」

ヘッドの声は地響きとなり、火口のマグマを波立たせた。対するドラキチは、頬を掠める熱風をものともせず、極めて世俗的な笑みを浮かべて答えた。

「その通り。できれば、こう……『初回限定・特別優待プラン』のような、お得な感じで通してもらえると、こちらとしても非常に助かるんだが」

「……片腹痛い」

ヘッドは、鼻孔から火花を散らして冷笑した。その威厳は、銀河の果てまで届かんばかりである。

「戯言を。我が市場の敷居を跨ぐには、古来より伝わりし血と涙の儀式――すなわち、死を超克する『黄金の試練』を乗り越えねばならぬ。それが我ら誇り高き竜一族の、絶対にして不可侵なる法理である」

ドラキチは「またその手のノルマか……」と重たい溜息を吐いた。しかし、彼はただの魔導士ではない。

「ならば、こちらも『法』を以て応えよう。顕現せよ――【消費者契約魔法:不当条項無効化アンフェア・キャンセル】!」

ドラキチが指先で空中に複雑な契約回路を描くと、虚空に黄金の文字が浮かび上がった。それは、強大な力を持つ者と、か弱き消費者の間に介在する「契約の可能性」を視覚化した、現代魔法学の極致である。


【解析結果:竜の番人ヘッドとの暫定合意事項】

特約事項:顧客満足度向上のため、試練の難易度を任意に調整可能。


「……というわけだ。ヘッド、消費者契約魔法によれば、君の『試練』という役務提供は、受託者の能力に応じて適切に調整される。さあ、『簡単モード(イージー・プラン)』を適用してくれないか?」


一瞬、火炎峰の時間が凍りついた。

伝説の守護竜は、目を皿のように丸くし、眼前のドラキチと空中に踊る黄金の条文を交互に見つめた。やがて、その巨大な喉が震え、噴火のごとき豪快な哄笑が天を突いた。

「ハッハッハ! 面白い! 悠久の時を生きてきたが、我ら竜の誇りを『契約の不透明性』で論破しようとする人間は初めてだ!」

ヘッドは機嫌よく尾を叩きつけ、岩肌を砕いた。

「よかろう、人間よ。貴公の無礼なまでの機転に免じ、試練を『イージー・プラン』にダウングレードしてやろう。だが、忘れるな。簡単モードと言えど、我が手加減は――あくまで『竜基準』であるということをな!」

こうして、ドラキチは史上最も「お得」な難易度調整を施された試練へと、一歩を踏み出すことになった。


●第一の試練 灼熱の迷路

ヘッドが出した試練は三つ。

「炎の迷路を突破せよ」

ヘッドの威厳ある声が響き渡った。最初は火炎峰に広がる灼熱の迷路を通り抜ける試練である。地面からは常に炎が吹き出し、空気は陽炎で揺らめいている。普通の人間であれば、一歩足を踏み入れただけで灰燼に帰すであろう。

「ふっ、古典的だね」

ドラキチは、背負っていたリュックサックから一組のブーツを取り出した。それは市場で購入した「耐熱ブーツ」である。

「消費者契約魔法で『通常は耐熱機能のみですが、今なら契約特典で冷却効果をお付けします』とのことだったな」

ドラキチがブーツを履くと、足元から微かな冷気が立ち上り、周囲の灼熱が嘘のように消え去った。彼は涼しい顔で迷路へと足を踏み入れる。周囲が地獄絵図のような熱さであるにもかかわらず、まるで春の陽気の中を散歩するかのように、快適に進んでいく。

「これぞ、賢い消費者の権利行使!」

ドラキチは鼻歌交じりに、難なく迷路を突破した。


●第二の試練 知恵比べ

「人間よ、我の謎かけに答えよ」

「ドラゴンの知恵を試せ」という第二の試練。深淵なる知恵を持つとされる竜族との知恵比べは、本来なら人間が勝てる見込みのないものであった。

「来るがいい、ヘッド殿」

ドラキチはリュックサックから一冊の古びた書物を取り出した。それは「知恵の書」。これもまた市場で購入した品である。

「この『知恵の書』には、消費者契約魔法特典で『出題される謎かけの答えヒントを付けましょう』と提案されたのさ」

ヘッドが難解な古代竜族の言葉で謎かけを放つ。その瞬間、『知恵の書』のページが自動的にパラパラと捲れ、答えに直結するヒントが浮かび上がる。ドラキチはそれを読み上げ、淀みなく正解を答えていく。

三問、四問と、ヘッドの出す高度な謎かけが、次々と打ち破られていく。ヘッドは驚きに目を見開いたが、試練は滞りなく進行した。


●第三の試練 ドラゴンの力を証明せよ

「最後は我が力、この炎を防ぎ切るのだ」

いよいよ最後の試練、「ドラゴンの力を証明せよ」。ヘッドは大きく息を吸い込み、その喉奥から業火を噴き出さんとした。火炎峰の炎すら比較にならない、圧倒的な竜のブレスである。

「待ちかねたぞ!」

ドラキチは、満面の笑みを浮かべながら、折りたたまれた一本の傘を広げた。それは「魔法防御傘」。

「『通常は初級魔法を防ぐだけですが、今なら消費者契約魔法特典で強化版に致します』。購入して良かった」

ヘッドの放った灼熱の炎が、ドラキチの傘に直撃する。凄まじい轟音と熱風が吹き荒れるが、ドラキチはびくともしない。どころか、「魔法防御傘」は、浴びせられた炎のエネルギーを吸収し、そのすべてを跳ね返してしまったのだ。跳ね返された炎は、ヘッド自身の足元に降り注ぎ、流石のヘッドも「アチチ!」と小さく叫んだ。



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