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だまし売りを見破れ

市場の喧騒は、午後の陽射しに溶けていた。果物の香り、焼き菓子の甘い匂い、そして魔法道具のきらめきが、通りを歩く者の五感をくすぐる。しかし、その裏側では狡猾な商人たちによる「だまし売り」が横行していた。品質偽装のポーション、効果のない魔除けの護符、法外なレンタル料を請求される魔法道具。だまされた人々は涙を流し、絶望に打ちひしがれていた。

ドラキチは、いつものように肩の力を抜いた歩調で露店を眺めていた。彼の目的は、冒険でも戦利品でもない。ただ、日常を少しだけ快適にする何かを探していた。その時、ひときわ派手な看板が目に留まった。

「王国認定!万能ポーション生成器!今なら半額!」

店主は、脂ぎった笑みを浮かべながらドラキチに声をかけた。

「お客さん、これさえあれば、ポーション代なんてもう不要ですよ。冒険者にも大人気!」

ドラキチは、生成器と呼ばれる機械をじっと見つめた。見た目は立派だが、どこか違和感がある。彼は静かに指先を動かした。空気が震え、消費者契約魔法が発動する。ドラキチの左手の甲には、天秤のマークが浮かび上がった。これは契約の公平さを象徴する印であった。

魔法の光が商品に触れた瞬間、空中に文字が浮かび上がる。

「初回のみ生成可能」「メンテナンス不可」「副作用の可能性あり(詳細不明)」

その文字列は、まるで商品の裏側を暴くように、冷たく並んでいた。ドラキチは眉をひそめた。

「これ、王国認定って言っているけど、そんな記載ないね」

店主の笑みが、わずかに引きつった。

「そ、そんなはずは……」

「副作用の可能性も詳細不明って出ている。つまり、何が起こるか誰も知らないってことだよね。怖くて使えないよ」

周囲の客たちがざわめき始める。ドラキチは、契約魔法の光を指で弾くように消しながら、静かに言った。

「便利そうに見えても、不利益事実も説明しなければ、だまし売りだよ」

店主は言葉を失い、ドラキチは踵を返した。その背中には、戦わずして真実を見抜く者の静かな誇りが宿っていた。


露天商が怪しげな「不老不死の秘薬」を高額で売りつけていた。だまされている女性は、病気の子供を治したい一心で貯金をはたこうとしていた。

「待ってください!」

ドラキチは声を上げた。

「その商品の効果、証明できますか? 不実告知に該当しますよ!」

ドラキチはふっと笑い、また指先を動かす。秘薬の成分が空中に文字として表示された。

「主成分:ただの水、少量のハチミツ」

その事実に驚愕した周囲の群衆が騒然となる。

「これは『誇大広告』かつ『優良誤認』です!契約は無効、返金を求めます!」

ドラキチが魔法を放つと、秘薬が透明な水のボトルに戻り、女性は無事お金を取り戻した。消費者契約魔法は、ドラキチにとって剣ではなく、眼だった。この世界で生きるための、賢さの象徴だった。


市場のざわめきが、ドラキチの背中を追いかけていた。

「だまし売りを消費者契約魔法で見破った人物」

そんな噂が、果物売りの少年から薬草屋の老婆へ、そして通りの警備兵にまで広がっていく。彼はただ、静かに歩いているだけであった。こうして、ドラキチの生活は、静かに次の章へと進んでいった。それは、戦わずして世界を少しずつ変えていく物語。消費者契約魔法の力を、暮らしの知恵に変える者の歩みだった。


次は「伝説の剣」を謳い文句にガラクタを売る武器屋である。店の前には「限定品」「今だけ特別価格」と書かれた看板が並ぶ。典型的な悪徳商法であった。

ドラキチは武器屋の店主、ゴブリン似の男に向かって叫んだ。

「貴様の販売方法は、不実告知に該当する!その剣は伝説の剣ではない、ただの錆びた鉄くずだ!」

店主は驚きで目を丸くした。

「な、何を言っているんだ」

ドラキチは懐から魔導書を取り出し、詠唱を始める。

「『不実告知』!この剣の真の価値(無価値)を告げていない!よって、『契約の取消し』を要求する!」

詠唱と共に、魔導書から光が放たれ、店主は契約書を破り捨て、売買代金を返却せざるを得ない状況に陥った。


「ほう、このミスリルの鎧が『伝説の聖騎士が愛用した逸品』ですか……。しかし、消費者契約魔法によれば昨日の昼休みにドワーフの徒弟が量産した試作品ですね」

「な、何を言う! 聖なる力が宿っているからこそ、金貨500枚もするのだ!」

店主の嘘を耳にした瞬間、ドラキチの指先が青白く発光する。

「消費者契約魔法『不実告知』による契約の取消しを発動」

ドラキチが放った光線が鎧を直撃すると、鎧に施されていた「偽の光り輝く幻惑魔法」が剥がれ落ち、中から錆びた鉄屑が姿を現した。

「ぎええっ! 魔法を無効化しやがった!」

「驚くのはまだ早いですよ。店主。あなたは『この鎧を着ればドラゴンのブレスも無効化できる』と言いましたね? 実際には火の粉すら防げない。これは重要事項についての虚偽の説明にあたります。さらに、私が店を出ようとした際に『今買わないと、呪いで一生独身だ』と脅しました」

「用心棒来い」

店主の叫びに反応し、屈強な用心棒たちが踏み込んでくる。しかし、ドラキチは冷静に魔法の詠唱を続けた。

「無駄ですよ。私には消費者契約魔法があります。集団的消費者被害回復魔法クラスアクション・ストライク!」

ドラキチが地面を突くと、魔法陣が広がり、これまで店主にだまされて粗悪品を買わされた人々の怨念が実体化し、店主を包囲した。

「さあ、だまし売りの代償を払ってもらいましょうか。返品、返金、そして精神的苦痛に対する慰謝料。お支払いは現金ですか? それとも現物支給の強制労働ですか?」

周囲の冒険者たちは呆然と立ち尽くしていた。

「すげぇ……魔法使いか?」

ドラキチは「消費者契約魔法使い」として、異世界で名を馳せることになった。



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