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天空のバザール 天空の守護者

天空のバザールを散策していたドラキチは、目移りするほどの品揃えに心を躍らせていた。市場には、星屑を練り込んだ飴細工から空飛ぶランタンや瞬間移動ポーション、無限エネルギー宝石など、地上では見られない希少品が揃っている。

「これが異世界のデパートってやつか……全部お得にしたいけど、予算が限られているんだよな。どれを契約するか……全部お得にしないとな」


ドラキチは「未来視の水晶」に注目する。

「この裏に書かれた極小の古代文字はなんだ?『※映し出される未来はあくまで個人の感想であり、効能を保証するものではありません』だと?けしからん、実にけしからん」

ドラキチは、言葉の裏に潜む悪意を断罪し、契約の平穏を守る孤高の消費者契約魔法使いとして見過ごせなかった。

「おや、そこのお客様。未来視の水晶にご興味ですか?」

煌びやかな羽衣をまとった店主が、にこやかに話しかけてきた。その手には、見るものの心を惑わすかのような、虹色の輝きを放つブレスレットが。

「このブレスレットを身につければ、どんな未来も自由自在。しかも今なら、天空の秘宝『夢幻の砂時計』とのセットで、お値段据え置き!」

ドラキチは、店主の言葉に惑わされることなく、冷静に状況を分析した。

「ふむ、ブレスレットと砂時計のセット販売ですか。これは『抱き合わせ販売』に該当する恐れが……」

ドラキチの口から飛び出す「抱き合わせ販売」との言葉に、店主の顔から笑顔が消える。

「お客様、いったい何のお話でございますか?わたくしはただ、この素晴らしい品々をご紹介しているだけで……」

「口調を改めるが良い。私は、悪質な商法から、無垢なる消費者を守るべく現れた、消費者契約魔法の使い手、ドラキチだ」

ドラキチは高らかに宣言した。

「店主よ。この『未来視の水晶』、価格は彗星の欠片三つという高値でありながら、その実態は不確実な幻影を垂れ流すだけの、いわば『期待権の侵害』にあたる粗悪品ではないか。そして、そのブレスレットと夢幻の砂時計のセット販売。個別の商品価値を正確に伝えず、あたかも双方にメリットがあるかのように錯覚させる」

商人は蛇のような舌を出し、嘲笑した。

「ヒッヒッヒ、よそ者よ。これは神々の遊戯。運命に絶対などないことは、三歳の子龍でも知っておるわ。注釈アノテーションがある以上、我に瑕疵かしはなし!」

「フッ、笑止。その注釈は、通常人の視力では視認不能な『魔力量1デシベル以下』の超微細文字。これは不利益事実の不告知に等しい」

ドラキチの瞳が鋭く光る。彼はマントを翻し、天空の空気を震わせる朗々たる声で呪文を紡いだ。

「出でよ、絶対不可侵の理!『契約取消Contract Rescission』!」

放たれた魔力は、水晶に刻まれた卑劣な免責条項を焼き切り、店主の欺瞞を白日の下に晒した。水晶は本来の鈍い光を失い、ただのガラス玉へと姿を変える。周囲の客たちがどよめき、商人は顔を青くした。

「格調高き取引とは、誠実という名の土壌にのみ咲く花だ。さあ、店主よ。貴殿の商法は、多くの消費者の信頼を裏切るものだ。この不当性を認めるか。今すぐ、その不当な表示を改め、消費者の利益を考慮した商売をするが良い!さもなくば、私が直々に『集団的消費者被害回復訴訟』の地獄を見せてやろう」

消費者契約魔法によって商品には新たな表示が付された。そこには「未来は貴方の手に!ただし、個人の解釈により結果は異なります」と書かれていた。店主は新たな表示を見つめ、ドラキチは満足げに頷いた。

「よし、その表記であれば、まだ許容範囲内だろう。だが、肝心なのは、消費者に誤解を与えない説明を丁寧に行うこと。そして、消費者にはいつでも契約を解除できる権利があることを明確に伝えるのだ」

ドラキチは、あわてて平伏する商人には目もくれず、再びバザールの喧騒へと歩み出した。その背中には、正義と皮肉が混じり合った、何とも形容しがたい高潔な風が吹いていた。

「さて……次はあそこの『飲めば誰でも勇者になれる薬』か。成分表示が『勇気(適量)』とは、これまた誇大広告の香りがするな。実にけしからん」


●天空の守護者からの不穏な依頼

不意に背後から声がした。

「君が消費者契約魔法を使うという噂の冒険者か?」

背後から響いたのは、冷えた白銀の鈴を転がすような、凛とした声だった。

振り返れば、そこには月光を織り上げたような銀髪をなびかせ、星図の刺繍が施された重厚なローブを纏う人物が立っていた。その眼差しは、真贋を見極める鑑定士のごとく鋭く、放たれるオーラは高貴にして神秘的。

「我が名はボール。この天空のバザールを司る『天空の守護者』である」

「守護者ともあろう御方が、この慎ましい消費者に何の御用で?」

ドラキチが警戒して財布の紐を締め直すと、ボールは愁いを帯びた表情でバザールの喧騒を見渡した。

「この光り輝く市場の影に、淀んだ魔力の気配が混じっているのだ。それは『闇の契約Dark Contract』。一見すれば、民草に無尽蔵の富と利便性を約束する黄金の契約に見える。しかし、その羊皮紙の裏側、不可視のインクで綴られた条項には、魂の永劫なる担保や、解約不可能な呪いの自動更新が隠されているのだ」

ボールの声は、静かな怒りに震えていた。

「我が守護者の法典では、これら巧妙に隠蔽された瑕疵を裁くことができぬ。だが、貴殿の持つ『消費者契約魔法』……あの、理不尽なキャンセル料を無効化し、誇大広告の幻惑を打ち破るという特異なことわりならば、この欺瞞のヴェールを剥ぎ取れるはずだ」

ドラキチは少し考えた後、頷いた。

「いいだろう。契約の不備を突くのは、ドラゴンを討つより私の性に合っている。お得で安全な取引こそが世界の平穏を守る。消費者の涙で磨かれた宝飾品など、私のコレクションには相応しくないからね」


●闇の契約の調査

ボールに案内され、ドラキチは市場の最果て、倫理と法が霧散する「闇市」を訪れた。そこは、吐き気がするほど濃密な魔力が渦巻き、出品される商品はいずれも「触れれば魂まで持っていかれる」とでも言いたげな、禍々しい輝きを放っていた。

・心の声を聞けるイヤリング:あらゆる生命の秘めたる思念を暴くが、代償として己の精神も千々に引き裂かれる。

・命を薪とする超速の剣:一閃、光よりも早く敵を屠る代わりに、抜剣するごとに持ち主の寿命を豪快に薪として燃やし尽くす。

・永久の富を約束するコイン:所有するだけで金貨の雨を降らせるが、その輝きは持ち主の生命の灯火を燃料とする。


「……ふむ。どれもこれも、道徳心の欠片もない設計思想だな」

ドラキチは消費者契約魔法を詠唱した。虚空に魔力の数式が展開され、商品の背後に隠された、契約魔法の微細な「特約条項」が黄金の文字で浮かび上がる。特に目を引いた「永久の富を約束するコイン」の項目を読み進めるにつれ、ドラキチの眉間には深い溝が刻まれた。

特典:所有者に対し、毎朝日の出と共に無限の金貨を鋳造・贈与する

付随的義務:金貨一枚の生成につき、所有者の心臓は鼓動を一つスキップし、累積した負債として寿命は一日単位で容赦なく減算される。なお、クーリングオフは冥界の門を叩くまで受け付けないものとする。

「これはもはや取引ですらない。ただの、エレガントに装飾された『緩やかな死刑宣告』だ」

ボールが鋭い表情で言った。

「その通り。こういった闇の契約は、欲に駆られた者たちを食い物にする存在だ。問題は、これらの商品がどうやって、ここに流れ込んでいるかだ」

二人の視線の先には、闇市を闊歩する、救いようのない夢を見る者たちの影が長く伸びていた。


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