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グランバザールの商品喪失トラブル

フリーマーケットでの活躍がギルドで話題となる中、ドラキチはのんびりとした日々を過ごしていた。しかし、ある日ギルドに顔を出すと、マクラが慌てた様子で彼を呼び止めた。

「ドラキチさん!大変です!新しい依頼が舞い込んできました!」

「また何かあったの?」

マクラが差し出した依頼書には、金箔で縁取られたグランバザールの豪華な紋章が刻まれていた。グランバザール――それは、空飛ぶ絨毯から呪われたスリッパ、伝説の聖剣からドラゴンの卵まで、金さえ積めば神の奇跡すら買えると豪語される巨大商業特区だ。商人たちの憧れの地である。

「最近、あそこでは『契約に失敗すると商品が消える』という、物理法則を無視した現象が頻発しているんです。買ったはずのポーションが家に着いたらただの水、どころか空気になっている。これこそ、消費者契約魔法のスペシャリストである貴方の出番ですよ!」

「契約トラブルか……それ、俺が行けば解決できるの?」

「わかりませんけど、お得に何とかするのがドラキチさんですよね?」

半ば押し付けられる形で、ドラキチはグランバザールへ向かうことになった。


●グランバザールに到着

グランバザールに到着したドラキチは、そのスケールに圧倒された。そこは、もはや一つの国家だった。広大な施設には何百もの店舗が並び、道を歩くと魔法の案内板が空中に浮かび、最新セール情報を流している。

「本日限定!呪いの解除率80%オフ!」

「買った直後に若返る美肌クリーム(効果には個人差があります)」

胡散臭い広告も含めて視界を埋め尽くす。


「すごいな……これは楽しそうだ」

しかし、雰囲気とは裏腹に、あちこちで怒鳴り声やトラブルの声が響いていた。

「俺の買った剣が消えたぞ!」

「おい!この『伝説のドワーフ製・折れない包丁』、カボチャを切った瞬間に霧になって消えたぞ!」

「この契約、内容が突然変わっていた!」

ドラキチは問題の原因を探ろうと歩き出した。


●消失の謎

「いいかい、旦那。確かにあったんだ。棚に鎮座していた『九割引の聖騎士用ドリンク』が、客が代金を支払おうとした瞬間に、霧のように消えちまった。残されたのは、支払いのために差し出された金貨と、店員の虚無感だけさ」

八百屋の店主は、腐ったカボチャのような顔で嘆いた。


ドラキチが聞き出した証言を整理すると、奇妙な共通点が浮かび上がった。消失の毒牙にかかるものは、決まって「特別セール」という輝かしいラベルを冠した商品ばかりであった。契約時に違和感を覚えるが、店員も原因がわからない。

「契約書にサインしようとすると、ペン先が重くなるんだ。まるでインクが良心を拒否しているみたいにね。だが、店員に詰め寄っても無駄さ。彼らもまた、マニュアルという名の呪文を唱えるだけの操り人形に過ぎないんだから」

さらに奇妙なことに、一部の契約書には本来あるはずのない「不可視の条項」がミミズのようにのたくっていた。

『※なお、本商品は運命の気まぐれにより、所有権が冥界へ移譲される場合があります』

それは、消費者金融の利息表示よりも小さく、狡猾な文字だった。


ドラキチは確信した。この事件の震源地は、市場のど真ん中にそびえ立つ、成金趣味の極致——「特典管理塔」にある。そこは、モール全体の契約、割引率、そしてポイント還元という名の「現代の魔術」を一手に引き受ける官僚機構の心臓部だ。


塔の重厚な扉を開けた瞬間、ドラキチの鼻を突いたのは、焦げたインクと「責任転嫁」の臭いだった。

「……魔力が不安定だ。まるで、泥酔した魔術師が無理やり計算帳を合わせているような不協和音じゃないか」

石造りの廊下には、本来整然と流れるはずの「契約の魔力」が、解けたスパゲッティのようにのたうち回っている。


ドラキチが塔の最深部、全ての商取引を司る巨大な制御装置「黄金の天秤」へと辿り着いた時、正体を目撃した。装置の歯車には、半透明でぶよぶよとした、見るからに質の悪そうな魔物がまとわりついていた。

「契約喰らいのゴースト(コントラクト・イーター)……これが原因か?」

それは、古びた役所の文書室の埃から生まれると言われる、卑屈で悪質な魔物であった。この魔物は、契約書の行間に潜み、そこに込められた「お得感」や「特典」という純粋なエネルギーを主食とする。

「なるほどな。客が『安い!』と歓喜した瞬間のエネルギーを、この寄生虫が横取りしてやがったわけだ。商品が消えたんじゃない。この強欲な幽霊が、我々の期待と一緒に胃袋へ放り込んだんだ」

ゴーストはドラキチに気づくと、クスクスと不快な笑い声を上げた。その体は、何千枚もの「解約不可」の条項で構成されている。


「どけ、この役立たずの寄生虫め。お前のおかげで、市場の経済学は、ドブネズミの計算式よりも支離滅裂だ」

ドラキチは剣を抜く代わりに懐から一通の「もっともらしい苦情申立書」を取り出した。契約の魔物には、契約の論理で挑むのが一番の毒薬になることを、彼はこれまでの人生という名の「損害」から学んでいた。しかし、契約喰らいのゴーストには馬耳東風であった。


苦情申立書が通用しなかったドラキチは、ゴーストの動きの観察に徹した。消費者が署名するたびにその筆先から「所有権」という概念を吸い取っていく。契約書に指が触れるたび、豪華な商品が蜃気楼のように揺らぎ、存在の輪郭を失っていく。それはまさに、契約の穴に潜む魔物の晩餐会であった。


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