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家を探そう

宿屋のベッドは、柔らかく、清潔であった。羽毛の詰まった枕も、夜ごとに変わる香りのリネンも、決して不満のあるものではない。それでも、ドラキチは目覚める度に思うのであった。

「やっぱり、自分の家が欲しい」

冒険者ギルドでの依頼は順調であった。消費者契約魔法を駆使して、無理なく、無駄なく、着実に報酬を積み重ねてきた。財布の重みが増すにつれ、彼の心にも静かな欲が芽生える。

「自分だけの空間が欲しい」


ある晴れた午後、ドラキチは町の入口にある不動産屋を訪れた。看板には「信頼と実績」の文字が踊っている。 だが、店内に一歩足を踏み入れた瞬間、その言葉の軽さが空気に滲んでいた。

薄暗い照明。棚に並ぶ物件資料は、どれも年季が入りすぎて角が丸まっている。カウンターの奥には、脂ぎった笑みを浮かべた店主が座っていた。その笑顔は、客を歓迎するものではなく、獲物を値踏みする者のそれであった。

「お探しですか? ちょうど良い物件がありますよ。太陽の光が一日中当たる、最高の立地です!」

ドラキチは、無言で消費者契約魔法を発動した。指先が淡く光り、提示された物件の真の契約情報が空中に浮かび上がる。

「日当たりが良すぎるため、日中は熱気に満ちており、魔物が好む環境である」

彼は静かに言った。

「いえ、結構です」

店主の笑みが、わずかに引きつった。ドラキチは踵を返し、次の不動産屋へ向かった。だが、町の不動産業界は、どうやら幻想を売ることに長けているらしい。

「眺めの良い高台の家」と謳われた物件は、消費者契約魔法によれば「地割れが頻繁に起こる危険地帯」。

「広い庭付きの豪邸」は、「庭に毎日呪われたキノコが生える呪いの庭」。

彼は、契約魔法の光に浮かぶ文字列を見ながら、ふっと笑った。

「この世界、見た目だけじゃわからないことばっかりだな」

夕暮れが町を包み始める頃、ドラキチは石畳の通りを歩いていた。家はまだ見つからない。だが、彼の歩みは焦っていなかった。消費者契約魔法は、彼にとって灯だった。欺瞞の闇を照らし、真実の輪郭を浮かび上がらせる光。


やがてドラキチは、町外れの寂れた道に佇む、小さな不動産屋にたどり着いた。そこには人の良さそうな老夫婦が温かく迎えてくれた。ドラキチが事情を話すと、老夫婦は優しく頷き、古い地図を広げた。

「この辺りの物件は、新興の不動産屋には取り扱えないものが多いのじゃ。じゃが、この物件は我々が長年手入れをしてきた、古いけれど愛着のある家じゃ」

地図が示すのは、町の中心から少し離れた、森の入り口にある古い木造住宅だった。

「ふむ……なかなかの傾斜角度。これぞヴィンテージ・ハウス。味わい深い」

ドラキチは、床に置いたビー玉が転がっていく様を見て、満足げに頷いた。床板は「ギシリ」「ミシミシ」と、まるで家自体が会話しているかのような騒がしさだった。しかし、ドラキチの目には、この家が輝いて見えた。庭には、やたらと生命力の強い雑草……もとい魔除け草が力強く育っていた。


「さあて、ここからが本番だ。賢い消費者タイムの始まり、始まり」

ドラキチは消費者契約魔法を使って契約書を確認する。

『売主は経年劣化による雨漏りを修繕し、シロアリ対策を施すことを約束する』

『買主は売主に対し、今後も家を大切にすることを約束する』

そこには、互いを思いやる温かい契約が交わされていた。

「この家、購入します」

ドラキチの言葉に、老夫婦は心から嬉しそうな笑顔を見せた。


数日後、ドラキチは新居に荷物を運び込み、新しい生活をスタートさせた。新生活の始まりは、まず防御から。ドラキチは詠唱した。

「消費者契約魔法クーリングオフ!」

すると、家の周りに、ほのかに青白い光を放つ魔法のバリアが展開された。このバリアは、契約から一定期間内であればどんな不都合も無効にできる、最強の防御魔法である。怪しげな訪問販売の闇の商人や、悪質な契約を押し付けようとするまやかしの業者も、この光の壁の前では為す術もない。


そして、いよいよリフォームに取り掛かるべく、ドラキチは消費者契約魔法を発動させた。

「嘘偽りのない品質表示を!」

ドラキチの指先から放たれた光が、魔法のカタログを照らし出す。すると、そこには商品の真実の姿が映し出された。

・超高性能な耐震補強材「揺らぎなしの鋼鉄竜の骨」: これがあれば、マグニチュード十の地震が来ても、家はビクともしないだろう。

・自動水平調整機能付きの床板「浮遊する雲の絨毯」: どんなに傾いた土地でも、常に完璧な水平を保ち、足元を安定させてくれる。

・永遠に汚れを弾く外壁塗料「聖なるバリアの輝き」: 苔が生えることも、鳥の糞に汚されることもない。常に新築のような輝きを放ち続ける。

・ワンクリックで害虫駆除効果を発揮する電撃殺虫器「雷神の怒り」: ゴキブリやシロアリは、もはやドラキチの家の脅威ではない。

「ふむ、これなら安心だ!」

ドラキチは満足げにうなずいた。全ての資材は「嘘偽りのない品質表示」によって、その真の性能が保証されている。彼はこれから始まる、お得で快適な生活に思いを馳せ、胸を躍らせた。今日もまた消費者契約魔法が、人々の生活を守り、より良い未来を創造していくのである。

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