無限連鎖のバベル塔
市場の広場は、異様な熱気に包まれていた。演台に立つのは、黄金のローブを纏った怪しげな賢者。
「この『賢者の石(実はただの光る軽石)』を三人に紹介すれば、あなたの魔力は無限増殖し、不労所得でドラゴンも飼えます!」
集まった冒険者たちは目を血走らせ、「夢! 自由! 権利収入!」と唱和している。彼らの首には、見えない魔力の鎖「連鎖販売契約」が巻き付いていた。
そこへドラキチが進む。
「待ちなさい! その勧誘は消費者の権利を侵害している!」
賢者がせせら笑う。
「何を言う。これは聖なる『縁』の連鎖だ。嫌なら断れば良かろう?」
ドラキチは反論する。
「帰りたいと言っている若者を個室に8時間閉じ込め、耳元で『契約するまで一生負け犬だ』と呪文を唱え続ける……。これは『連鎖販売取引』における『威迫』と『困惑』! 全ては公序良俗に反し、違法です!」
ドラキチが掲げた手から、青白い光が溢れ出す。
「消費者契約解除魔法――発動!!」
「ぐわぁぁ! 私のピラミッド組織が!」
賢者が叫ぶが、ドラキチの追撃は止まらない。
「さらに、将来の利益を確約する断定的判断の提供! 誇大広告!消費者契約魔法奥義『不当勧誘による取消権』!!」
ドラキチが地面に杖を突き立てると、複雑に絡み合った金色の「契約の鎖」が、パリンパリンと小気味よい音を立てて砕け散った。
「俺……なんでただの軽石を100万ゴールドのローン(240回払い)で買おうとしてたんだ?」
洗脳が解けた冒険者たちは、我に返って首を振る。
「光を取り戻せ、善良なる消費者よ」
ドラキチは爽やかな笑顔で告げた。崩壊するマルチ組織の祭壇を背に、ドラキチは風にたなびくマントを翻した。その背中には、彼を慕う人々によって刻まれた称号が輝いている。
「歩く返品受付センター」
「歩く返品受付センター」ことドラキチの前に、新たなる刺客が立ちはだかる。マルチ商法の総本山「ピラミッド・パレス」の最上階。そこに待ち構えていたのは、組織の最高幹部、ダマシウリ公爵であった。
「ククク……ドラキチよ。クーリングオフなどという初歩的な呪文で、我が『だまし売り』の牙城が崩れると思ったか?」
ダマシウリ公爵が指を鳴らすと、周囲の壁が怪しく歪み、重厚な契約書の束が巨大な龍の姿を成して襲いかかってきた。その龍の鱗一枚一枚には、極小の文字で「特約:いかなる理由があっても返金には応じない」と刻まれている。
「これは……強力な「不利益事実の不告知」の結界!」
ドラキチは消費者契約魔法で作り出した盾で防ぐが、その衝撃に膝をつく。
ダマシウリ公爵は高笑いした。
「この物件……いや、この魔法道具の真の性能は隠蔽済みだ。客が気づいた時には、すでに契約書は魔法的に固定され、解除は不可能! これぞ究極の『だまし売り』の秘術!」
しかし、ドラキチの瞳は死んでいなかった。ドラキチは懐から一通の書状を取り出す。それは、かつてドラキチが消費者契約法を根拠に戦い、勝ち取った伝説の勝訴判決文であった。
「ダマシウリ……お前のやり方は古い! 最新の消費者契約魔法『コンシューマー・バリア』を甘く見るな!」
ドラキチの全身から、黄金のオーラが噴き出す。
「真実開示魔法!!」
その光が龍に触れた瞬間、偽りの契約書が剥がれ落ち、隠されていた真実が露わになった。
「な、何だと!? 我が組織の最高級魔導具が、ただの『錆びたスプーン』だとバレてしまう!」
「トドメだ!」
ドラキチは手を挙げた。
「契約の成立過程における信義則違反!不当な利益の返還を命ずる!消費者契約魔法『勝訴判決』!!」
巨大な「勝訴」の文字が書かれた旗が虚空から現れ、ダマシウリ公爵とマルチの宮殿を真っ二つに叩き割った。
弾け飛ぶ契約の鎖。莫大な借金という名の呪いから解放された人々が、空から降ってくる「過払い金返還通知」を手に歓喜の声を上げる。
崩れゆく宮殿の中で、ダマシウリ公爵は膝をつき、呻いた。
「バカな……。情報の非対称性を利用した完璧なビジネスモデルだったはずなのに……」
ドラキチは静かに言い放った。
「ビジネスとは信頼の積み重ね。だまし売りの上に築いた城など、消費者契約魔法の一筆で崩れる砂の城に過ぎない」
夕陽に向かって歩き出すドラキチ。その手には、新たな相談者からの「不動産を購入すると節税になると怪しい訪問販売が来ました」という手紙が握られていた。
ドラキチの戦いは終わらない。悪徳業者が微笑む限り、その消費者契約魔法は響き続けるのだ。明日もまたどこかで、ドラキチの「異議あり!」という咆哮が、市場の闇を切り裂くだろう。




