精霊の力③
――戦いは終わっていなかった。
ノエルの背後で、黒い稲光が弾ける。
「次々行くでぇ!」
トラヴァスが牙を剥き、岩場へ飛び出した。
風を纏った影が疾駆し、地を這うロックリザードの巨体へ突っ込むと、硬い鱗に稲光が走り、爆ぜる音とともに巨体が吹き飛ばされた。
同時に頭上からは、不気味な声を響かせてストーンバットの群れが舞い降りる。
トラヴァスは尻尾を大きく振りかぶり、風と雷を混じえた衝撃波を放った。
光の奔流が空を裂き、数匹のストーンバットが翼ごと焼き落とされて、残った群れは鳴き声を上げながら散開し、岩陰へ逃げ込んだ。
――派手で容赦のない一撃。
ノエルに劣らぬ力を示した精霊の姿に、私は息を呑んで立ち尽くしていた。
「ま、こんなとこね。」
「どやぁ!」
派手好きの似たものキャラの人と精霊は互いに健闘を称えるように頬擦りしあい、笑顔を向ける。
――いつの間にトカゲやコウモリが…
それにも気付いてたっていうの?
今の一瞬で全部片付けちゃった…
息を呑んで立ち尽くす私の隣でピエールもまた、言葉を失っていた。
「……魔法と、精霊の力……ここまでか……」
彼の常識を覆す戦いぶりに、ただ唸るしかないみたい。
呆然とする私たちを尻目に
「アカン!バチあたるでぇ」
トラヴァスが次から次へと撃退した魔物に触れては核を吸収していく。
ノエルはやれやれといった表情を見せながらもトラヴァスの好きなようにさせている。
「アホらしぃわぁ」
シェルティはトラヴァスを一瞥し飽き飽きといった表情だ。
「じゃあ最後、ソファ。やって見せて。」
セレナがいつの間にかすっかり寛ぎながらそう告げた。
「えっ?セレナはやんないの?」
「あれだけやったら、もう必要ないでしょう?それより早く帰らないと、アリアがうるさいわよぉ?」
「ゲッ!忘れてた!
帰ろう帰ろうすぐ帰ろう!」
急に慌てだしたノエルは急ぎ帰り道に向き直り
「ソファ、ちょうどいいわ!魔物よりあれよ!あの岩どうにかしてみて!」
そう言って指し示したのは先日の砦と変わらない大きさの岩山だった。
「あ、あれを?
えっと、どうやって?」
「試しにヤクモにお願いしてみなよ。あの岩どうにかしてって」
「そんな感じでいいの?」
やり取りを静観していたセレナがやれやれと口を挟む
「大丈夫、方法は別にして何とかなると思うわよ?」
そう言われても納得できず、そんな訳ないよとヤクモを見つめてみる。
――瞬間、全ての時間が止まったような錯覚とともに声が聞こえた。
⦅ボクにお願いかい?
構わないから言ってごらんよ⦆
(えっ?この声ヤクモ?どうなって?)
⦅ボクとキミとの精神世界さ。
みんなには聞こえない。
言ってごらんよ。何が望みなの?⦆
(あの…あの岩山の向こう側へ帰らないといけないの。どうにかできたりする?)
状況に何とか対応しながらも、質問を投げかけてみた。
⦅どうってことないね。
…念じてごらんよ。
どうやって向こう側に行きたいの?⦆
(通るのに危なくないように。
吹き飛ばすのも危ないから
溶かしてみる…とかかな?)
⦅ははっ。いいね、いいね。
よし。それで行こう。⦆
(できるの?)
⦅目を開けて。命令して。また話そうね。⦆
フッと体が浮くような感覚とともに、時間の流れを感じた。
目の前にはノエルが指し示したままの岩山。
無意識のまま私は念じた。
≪あの岩山を――溶かせ≫
瞬間――
ヤクモの瞳が淡く光を放った。
周囲のざわめきが途絶え、鳥の声も虫の音も消え、空気が張り詰め、岩山の周囲だけが切り取られたように、影が濃く沈み込む。
やがて、目に見えぬ陽炎が立ち上り、岩肌がじわじわと赤く染まり始める。
耳を打つのは、空気が裂けるような乾いた音。
続けて、岩が焼ける低い唸り。
赤熱した表面はやがて溶け、滴るように流れ落ちる。
溶岩めいた光の筋が幾筋も走り、やがて道が姿を現した。
張り詰めていた空気がふっと解け世界が再び息を吹き返す。
ヤクモは何事もなかったように無邪気に前足を広げ
「じゅうっっ」と笑顔を見せる。
私はヤクモを見下ろし、ただ呆然と立ち尽くしていた。
――やり過ぎでしょ…
岩山が丸ごと溶けちゃった!
もっとこう…くり抜いちゃうぐらいで思ってたのに…
「かーっ!えげつない!」
トラヴァスが跳ね回り、稲光を散らすように興奮を示す。
ノエルは口を開けたまま声を失い、セレナは静かに呟く。
「…流石に常軌を逸しているわ。
シェル?あなたもできる?」
シェルティは長い尾を揺らし、冷ややかに吐息を漏らした。
「…あれには触れん方がええよぉ?
できるかやてぇ?無茶言いなさんな」
ピエールは岩山の残骸を凝視し、声を震わせる。
「……こんな力……
魔法とはここまでのものなのか……」
呆気にとられていたままのノエルは気を取り直し
「とりあえず…帰ろ。
アリアに報告!…でも今のは秘密ね。
ここに岩山なんてなかった!いい?」
――うん。岩山なんてなかった。
よっしゃ!出番増えたで!
…前半だけだけどね。
爪痕は残したやろ!?
ど~だかね?
ノエル!悔しくないんか?
感想とブックマークでしょ?簡単じゃん!
どうするんや!?
皆に応援して貰えばいいのよ!
…それが出来んからゆうてんねん…
…えっ?
それが出来へんから…
次回 帰るわよっ!
…逃げよった…。




