運び屋③ 荷物の中身
帰りの道中は大きなトラブルもなく、私たちは無事館へ戻り門をくぐると、王様が階段に腰を下ろして待ち構えていた。
「思った通りの時間だよ。ご苦労さんだったな」
「アンタいい加減にしなさいよ!」
出迎えようと近付くイツカにノエルが食いついた。
――本当にあの人が王様なの?
「おっ?中身見たのか?…にしちゃあ、ちっと着くのがはえぇ気もするが?」
「見てないわよ!中身もそうだけど、聞いてないんだけど?何してくれてんの?とりあえずそこ!正座!説明!」
一気にまくしたてるノエルを一旦制止する私たち。
――王様にこんなことしていいの?
「順番だ順番。まずはピエール。よかったじゃねえか。奥さん、可愛いじゃねえか。すぐアリアに案内させるからよ。先休んでもらってていいか?」
「はい。ありがとうございます」
館から出てきたアリアに従い、場を後にするファニーを一旦見送った。
――そりゃあ色々疲れてるだろうしね。
「…正座。説明」
――あ、ノエルはまだ怒ってた…。
「悪いとは思ってたんだよ。ただ、こうするしかなかった。説明するからちょっと座ろうぜ」
そう言って、元いた階段を指差しながら腰かけるイツカ。
「本当はよ。中で話したいとこなんだが、“これ”の説明が終わるまで我慢してくれな」
少し頭を下げてから、彼は話し始めた。
「まず1コ確認していいか?中身知りてぇか?」
「アタシは気になるから見ようって言ったのよ」
「私は反対したわ。もう巻き込まれちゃったけど、アナタの思い通りになり過ぎるのもイヤだったしね」
「私は、正直どうすればいいのかわからなかったので、どっちでもいいって言いました」
「気にはなるが…見なくていいと」
彼の問いに私たち4人はそれぞれの意見を答える。
「そうなったか…いや、こっちの話だ。中身は大きく分けて2つだ。1つは、詳しくは知らねぇがそこそこ金目のものが入ってる」
「それ、2台あったわよ?」
「1台は全部金目のものだけだよ」
「じゃ、こっちにはそれとは別に、もう1つ何かが入ってんのね?」
「その通りだ」
「もったいぶらないで早く言いなさいよ!」
「言うが、全員、聞きたいか?イヤなら中入っとけよ?」
彼の念押しに、乗り掛かった舟と私たち全員が頷いた。
「――中身はな。ムタレン将軍だ」
「――!!」
「予想…外れたか?」
驚愕に目を剥く私たちにイツカが笑顔で尋ねる。
「予想外ね。説明はしてくれるのよね?」とセレナ。
「もちろんだ。その前にピエール。悪いが一緒に中見てくれるか?安心しろ。まだ眠ってるはずだ」
驚いたままのピエールを引き連れ、中身を確認するイツカ。続けて中を確認したピエールはさらに驚いた表情のままこちらへ戻った。
「確認は終わりだ。続きは中で話す」
そう言って私たちを館内へ促し、ファニーを案内した後に戻ってきたアリアに馬車を裏へ回すよう指示を出していた。
◇◇◇◇
私の知る限りのムタレン将軍はこう。
ついこの間、この国を攻めて来たオロディア軍の将軍で、ピエールの上官。
ピエールに聞いた話だと、この国にある洞窟の話をどこかから聞いた将軍は、本国には増えすぎた犯罪奴隷の処分も兼ねてと無理矢理兵を徴収して出兵したらしい。
本陣内の風紀は乱れに乱れて、ピエールの進言は全て無視された。
ピエールは本国からは戦目付として。という名目で実は将軍の意図を調べる為に上層部から送られたスパイだったらしい。
本来の彼はオロディア軍の近衛兵団の一員。多分私の想像なんかよりもっと凄い優秀な軍人さんなんだ。
出陣前夜に隠された意図に気付いたピエールは将軍に証拠を突き付けて問い質した。すると彼はピエールの奥さん、ファニーを人質にとっていると脅してきた。
そうなるとピエールは将軍に従うより他に手がなかった。
前線に割り当てられた犯罪奴隷たちの指揮官として。多分もう生きて帰れない事も覚悟していたと思う。そんな中でこの国から送られたコードと出会って、国を裏切って亡命して来た。
――本国に奥さんを残して国を出るしかなかった彼の気持ちは私には分からない。あんなに仲が良さそうな夫婦を引き裂いたのがムタレン将軍。
ピエールの件もだけど、私にはもっと許せない事がある。
戦争なんて、私は知らない。
小さい時から一緒に育ったデイルとマウロ。私たち3人は一緒になって憧れたハンターになった。初めての依頼、その次の依頼も上手くこなせたと思う。
その後、戦いに巻き込まれた。
それ自体は誰が悪いって訳じゃない。
砦で起きた戦いはたった1日で勝敗は決まった。私たちの圧勝だった。目立った活躍のなかったデイルとマウロは念の為の見張りとなって、多分不満を抱えた先輩たちと一緒に追撃に出た。ムタレン将軍の首を狙ったんだと思う。
そこで悲劇は起きた。
先に見つけたマウロは酷い怪我だったけど、無事に合流できた。
デイルは助からなかった。
背中から槍で貫かれた姿。最後の言葉。
目を閉じれば思い出したくなんかないのに嫌でも見えてくる光景。
火に包まれた本陣。国で捕らえたのは女性ばかり。彼女たちを痛めつけ、それを庇ったハンターたちはわざと止めを刺されていなかった。私たちに後を追って来させない為にそうしたって誰かが言っていた。
辺りからは息をするのも嫌になる匂い。
人が燃える匂い。
私たち3人を引き裂いたのもあいつだ。
グルグルと考えがまとまらないまま、気付いたら私は館の中の応接間に座っていた。
名前だけだと?
この扱いには我慢ならん!
それにこの私をどうするつもりだ?
なんの冗談だ?
眠ってなどおらん!聞こえておるわ!
見るだの見ないのだのぬかしおって!
見世物ではないわ!
貴様らに忠誠心があるのなら、何をグズグズしておる!今すぐ助けに来ぬか!
感想の数によっては脱出できるやも?
メッセージだと?
…よかろう。送るが良いぞ。
…フン、どうせ貴様ら、次が気になるのだろう?
ふははは――我が名はムタレン。




