2話 この高校にも、ちゃんと謎の部活があるんです。
漫画やラノベには通常考えられないような、謎の部活動がかなりの頻度で出てくる。そして我が校にも誉れ高いことに、漏れなく謎の部活が存在する。その名も帰宅部。
部活に所属せず授業終了と同時に帰る、その様な生徒達の比喩表現として使われる帰宅部。聞く話では我が校の帰宅部は学校公認で存在しており、活動内容は『仲良く、楽しく、お家へ帰ること』(校内掲示のポスターより抜粋)。なんとも間の抜けた内容ではあるが、要は下校時にまっすぐ帰らず寄り道をする部活ということだそうだ。
なぜそんな話になったかと言えば、隣の席で若山さんと月宮さんが話しているから。発端は若山さんの、麗華ちゃんって放課後何してるの?だ。もちろん僕も、月宮さんが帰宅部に入っていたことは初耳である。去年一年を通してそんなことも知らなかったのだ。これが相対的お友達あるある。
いや、別に盗み聞きしてるとか、聞き耳立てているとかじゃないですよ?昼食後に自席で眠ろうとしていたらたまたま聞こえただけで。だって隣の席ですし?
「なにそれ。そしたら部活じゃなくて普通に帰り遊びに行けばいいじゃん」
わかってないな若山さんは。部活動ならわざわざ個別に誘わなくても、合法的に友達ではない人とも遊べるのだ。つまり新たな友達を作るには絶好の場所、という訳さ。
「今年は新入部員がいないから、部員4人しかいない。いるのはイツメン、だから若山さんの言う通り、普通に遊ぶのと大差ない。新たな交友関係もない。わかった・・・恋崎君?」
「なんでナチュラルに僕の心を読んだ、的な話にしてるのさ」
「でも、どうせそう考えていた、でしょ?」
「・・・・・・」
ぐうの音も出ないとはこのこと。月宮さんにしろ、涼風さんにしろ、僕の心が読めすぎじゃないですか?
「というか、恋崎くん起きてたんだ」
え、待って。これまぁまぁやらかしたか?何この人、人の話に聞き耳立ててるの?きもーい。とか言われてみろ。明日から不登校まっしぐらだぞ。
「恋崎君にも話しかけてたつもりだったのに、全然反応がないから寝てるのかと思ったよ」
あれ、これって僕も話しかけられてたんだ?ちょっと感動しちゃったよ。僕は仲間外れなんかじゃなかったんだね。
「え、嘘マジ?相槌打ってたつもりだったんだけど聞こえなかった?」
「恋崎くん、ナチュラルに嘘をつくの、よくない」
「・・・・・・」
ぐうの音どこ行った?さっきから探してるんだぞ、出てきなさい。
「それで、その帰宅部がどうかしたの?」
「話を逸らしたねぇ」
「逸らした」
うるさいよ君たち。こっちとら出来たてほやほやの黒歴史を必死に記憶から消そうとしてるんだ。せめて目を逸らさせてくれよ。
「それで帰宅部、だけど」
結果話は変えてくれるんだ?むしろそれならなんで僕は詰められたんだ。
「今月中に、廃部、かも」
えぇ、何この急展開。我が校が誇る変な部活がなくなっちゃうって、それじゃ僕の夢見たラノベ的青春ライフが・・・元からなかったな。
「廃部って、やっぱり活動内容が曖昧、とかそういう?」
「と言うよりかは、部員数の問題なんじゃないかな。3年生が卒業すると、部員が4人を割ってしまうとか、そんなところなんでしょ」
この学校の規定では部活動を続けるにあたり、部員は最低でも4人必要なのだ。
「半分正解だけど、半分違う。恋崎くん恥ずかしい」
「えぇ、恥ずかしいの僕・・・。半分は当たってたんでしょ・・・」
「正確には、部員は今4人しかいない。その内2人が、3年生」
「いや、それ半分というか、ほとんど僕の答えで正解じゃん」
抗議する僕に月宮さんは人差し指を立てて見せる。
「まだ半分。3年生がいなくなるのは夏の終わり、2人の補充も、多分なんとかなる。それに3年生がいなくなっても、部員が足りてないだけなら、廃部が決まるのは、来年から」
「まぁ確かに・・・」
「だから恥ずかしい、恋崎くんは」
えぇなにこれ。本当に恥ずかしいじゃん。
月宮さんは更にもう片方の手で人差し指を立てる。
「問題は、もう半分の方。顧問の先生が、産休でいなくなっちゃう」
産休、と言われ浮かぶ教師が1人。
「みやっちゃんが帰宅部の顧問だったんだ!夏の終わり頃に赤ちゃんが産まれるっていってたもんねぇ」
みやっちゃんこと、三塚八重先生。我が校の古文担当教師だ。
「帰宅部最後の1人は、幽霊部員。みやっちゃん先生、誤魔化してくれてたけど、幽霊部員のこと、バレちゃった」
「幽霊とは言え部員であることに変わりはないんだから、週に1回顔出してもらうとかでなんとかできないの?」
そこで月宮さんは立てていた両方の指を僕に向ける。
人を指さしちゃいけませんよ。
「そう、それ。彼を説得することが解決策。だけど、私の話聞く前に逃げちゃう」
彼、と言うことは男子生徒か。なんてだらしない。男子高校生たるもの、女子に話しかけられたら浮かれて、ホイホイ言うことを聞いていいように使われる。そこまでがワンセットではないか。
「それなら2人の先輩に頼んでみたらいいんじゃないかな?」
「それも考えたけど、多分難しい」
おおよそ察しがつく。帰宅部の活動は『仲良く、楽しく、お家に帰ること』だ。3人の部活で、月宮さんがそこに参加していると言うことは、最低でも先輩の内どちらかは女子。そうなるともう1人が男子だとしてもパリピか、どちらかの彼氏。最低でも友達。
僕だったら、そんな部活にに入りたくはない。絶対に、だ。
「それならどうするの?言っておくけど、僕に見ず知らずの人を説得、なんてこと期待しないでよ」
「大丈夫。彼もオタクらしい。恋崎くん、適任」
「おぉそれなら安心だね!」
「ちょっと待って。なんか納得してる所悪いけど、なんで僕がオタクだって思うの?」
月宮さんはやれやれ、と言わんばかりに首を振った。
「むしろなんでバレてないと思ったの?」
待ってくれ。全く心当たりはない。いつも読んでるラノベだって、カバーは小難しそうな文学モノと入れ替えている。オタクっぽい話だって一回もしたことがないはずだ。
「だって恋崎くん。本は結構読んでるのに、カバーはいつも同じじゃん?前に聞いたことあるけど、オタクの人ってそうやって読んでる本隠すんでしょ?なんで隠すのかわからないけど」
「あぁあれね。僕は物申したいんだけど、最近のラノベは、かっこいいキャラがいるのに表紙に来るのは毎回女の子だったり、無駄に肌の露出が多い服を着ていたりしてさ。内容は硬派だったりストーリーが作り込まれているのに、周りの人からエッチな本読んでるんだって誤解されがちでさ。いやホント参るよ。確かに若干、ほんの少したまーーーーに、そう言った描写もあるけど、そこはメインじゃないし。でも読み飛ばすのは作品に失礼だし。絶対飛ばし読みなんてしたくないし。まぁ読むしかないよね。だって作品に失礼だし!仕方ないよね!だって作品に失礼だし!」
2人は唖然としていた。もちろん僕も唖然としていた。一度堰の切れた水の流れが止まらないように、僕の言葉は止まらなかった。
いーやまだだ!まだ考えろ!あの勢いで喋られたら大体の人は、ほとんど中身を覚えていないはずだ!脳が理解を拒み、右から左へ言葉が受け流されているはずだ!ここから立て直せ、僕!
「それもあるけど、普通、文庫本を読んでいる時に、人はあんなニヤけた顔をしない。」
僕は膝から崩れ落ちた。バレてしまった。いや、ずっとバレていた。辛い。
月宮さんの言葉は、鋭く的確に男子高校生の、いや僕の急所を抉った。
「とにかく、彼を説得する前に、先輩達とも一度話をしてほしい」
「え、嫌だよ。そもそも陽キャとノリ合わないし」
横で若山さんが立ち直りの早さにドン引きしていたが、まぁ僕に言わせればこのくらいなんてことない。いや、ホントに。マジで。
「私は今日バイトのシフト入っちゃってて、ごめんね」
「それなら、恋崎くんと2人だけで、話をしにいく」
「ねぇ待って。僕嫌だってハッキリ言ったよね?」
言葉にしなきゃ伝わらない。とはよく言うが、言葉にしても何も伝わってないじゃないか。
「あの部活はね。私にとっても、先輩達にとっても、大事な場所なの。先輩達のおかげで、今の私が、楽しい学校がある。だから、守りたいの」
夏の暑さにやられたせいか、少しのぼせていたのだろうか。今、月宮さんの大事な日常が脅かされている。一番不安なのは彼女の方なんだ。頭を冷やせ僕。
「だから、お願い」
それにこんな風にまっすぐに頼まれてしまったら、もう断る理由はない。
なんてチョロいんだ、と自分に呆れながら、僕はその願いを聞き入れることにした。
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場所は変わり社会科準備室。帰宅部が事実上の休部となっている様で部室が使えず、三塚先生に相談したところここを使ったいいとのことだった。急な決定につき、社会科担当にして、我らが2年2組の担任である高岡先生には無断だが、三塚先生から話をしておくとのことだった。
仮部室(社会科準備室)の中には資料が山積みになった長机が部屋の真ん中にあり、奥には高岡先生が使っているのであろう、やや整頓されかけた机と椅子が1セットある。全体の印象としては本やら資料やらで溢れ返っている。
中央の机の周りには椅子が4脚置かれており、僕の隣に月宮さん、そして帰宅部の先輩2人と向き合っていた。
「帰宅部3年、白石紬でぇ〜す」
「同じく3年で妹の白石葵、よろよろー!」
会合から1分も経っていない訳だが、幽霊部員の彼の気持ちは理解できた。白石紬先輩、タレ目で背中まで伸びる茶髪、一言で表すならダウナー系ギャル。その妹の白石葵先輩、姉とは対照的で金髪のゆるふわウェーブでピンクのインナーカラー、性格も姉とは違いはなまる満点の元気っ子、言うなればアッパー系ギャルとでも呼ぶのだろうか?
月宮さんの言う先輩とは、双子で更にギャルだったわけだが、つまりギャル3人の中に男子1人。
ともすれば羨ましい環境なのかもしれない。だけど、我々オタクにとって、ギャルに囲まれる生活は息が詰まるだけなのだ。(当社比)
しかも活動内容は『仲良く、楽しく、お家へ帰ること』。とてもじゃないが、一般的な男子高校生が耐えられるものではない!断じてない!!
「月宮さんのクラスメイトの恋崎好人です・・」
「なんか変わった名前してんねぇー。ウケるんですけどぉ〜」
なんかウケた。
「ねっねっ!字は?字はどう書くの?」
なんか興味持たれた。
「恋愛の恋と、山辺の方のみさきで恋崎、好き嫌いの好きと、人で好人です」
この手の人達に名前の字を説明するのは、正直あまり好ましくない。大抵の場合は文字の組み合わせに過剰に反応され、この僕との実態とのギャップを感じることだろう。端的に言えば恥ずかしい。
「まじ!?恋に好きって激エモ!」
エモいらしい。
「エモネームじゃ〜ん。私もいつか子供できたら、その名前つけよ〜」
僕のエモネームは継がれるらしい。
「紬先輩と葵先輩、話進まない」
そっすね、ハハハ。と死んだ目と乾いた笑いで受け流していたところ。月宮さんから助け舟が出される。もちろん、僕はこりゃ幸いとその船に乗り込む。
残る問題は、オタクの彼は絶対に部活動に参加しないことが判明してしまったことだ。いったい僕はどうすればいいのん?
「それでそれでヨシリン!どうやってイケっち勧誘すんの!?」
「イケっち、ウチらの話聞いてくんなくてぇ〜。まじウケる〜」
ちょっと待って欲しい。誰だよ、ヨシリン。誰だよ、イケっち。僕のミッチーはどこにいるんだよ。
そしてウケてる場合と違う。あなた達が思っている以上に、事態は困窮しているんだ。
「えっと、先ずはイケっちさん?に話を聞いてみましょう」
「えぇ〜でもイケっち、まじ話聞いてくんないよ〜?」
「そそ。すぐ逃げ出しちゃうし!地味に足速いの!」
「それなぁ〜まじウケる〜」
「ウチら足にはちょっと自信あったのにねぇ!まじ男子の強フィジカルな!ウケる!」
すっげぇウケてる。まじウケる。
イケっちさんが逃げ出す理由よくわかる。話を聞いていないのはイケっちではなく、白石姉妹なのではないだろうか。そして僕も今すぐ逃げ出したい。
「紬先輩、葵先輩。それ以上話脱線するなら、もう口きかない」
その一言で帰宅部の仮部室が静まり返った。心なしか外で鳴く蝉の声も遠い。
「恋崎くん、ごめんね。続きどうぞ」
青ざめた顔で背筋を伸ばす白石姉妹は、まるで背中にナイフを押し付けられているかのように、背筋がまっすぐ伸ばされていた。これは彼女達にとっては、命に関わるレベルのことなのかもしれない。
「正直に言いますと、このままでは、イケッちさんは絶対に部活は来てくれません。正直ギャル3人に囲まれて、帰宅部のような活動をするのは、一般的な感性を持つ男子高校生には無理です」
「それなら、池田くんは諦めて、新しい部員、探す?」
ありがとう月宮さん。イケっちの名前、ゲットだぜ。
「ぶっちゃけ池田さんについては、このままではお手上げです。だけど新しい部員を探すとしても、3人の関係値を見れば多くの人が入部を躊躇うことも見えてます」
「でもでも〜ウチら別に誰とでも仲良くなれるって言うか〜。誰でもウェルカムなんですけど〜?」
白石姉妹のダウナーこと、紬さんは先程までの緊張が嘘のように、机に突っ伏すように上半身を投げ出し、顔だけをこちらに向けていた。
「先輩達が良くても、入る側からは緊張するもんなんです。それにこの季節だと2年と3年で部活に入ってない生徒は、大体バイトをしてるか遊び回っていることが多いと考えられます」
「1年の子は急に先輩達の中に入るのはキンチョーしちゃうから、今からは入りにくいってこと?」
椅子の上で器用に体育座りをしている葵先輩は、前後に揺れながらも割と的確な答えを導き出した。
ギャルだから共感性が高いのか、普通に頭の回転が速いのか、非常に判断に困るところだ。
「つまり、一番手っ取り早くて、期待値が高いのが、絶対に来ない、池田くんの復帰?」
2人の先輩と相反して、月宮さんはずっと姿勢がいい。ギャルっとした見た目とのギャップがいい味出してると思います。この子、ギャップの宝庫ね。
「そう言うこと。それで先ずはなんとか話を聞いて、妥協点を探っていこうと思います」
「おけまる〜、したら今から行く?」
「いや、イケっちもう帰ってるっしょ!明日行こ明日!」
なんかすっごい盛り上がってるけど、2人とも忘れてませんか?あなた達がいると逃げられますよ?
「紬先輩、葵先輩。先ずは私達だけで、話を聞いてみる。でしょ?恋崎くん」
隣で小首を傾げる月宮さんは、どこかワクワクしているような、そんな期待感が滲み出ているようだった。
「先輩方にはもっと大事なことを頼みたいので、池田さんのことは僕と月宮さんに任せてください」
「おぉ〜大事なことぉ」
「まじウチら頼りになるから!なんでも任せてよ!」
え、すっごい乗り気じゃん。単純に来て欲しくないこと伝える勇気がなかっただけなんだけど。どうしよう、なにも考えてなかった。まじ発言迂闊すぎるんですけど。ウケる。いや、ウケない。
「みやっちゃん、お休みになるから、顧問の先生、探さないとダメ。2人に、お願いしても、いい?」
「おけまるぅ〜」
「まっっかせて!!」
なんだろう。この2人、月宮さんのお願いならなんでもやりそう。
とにかく、これで人払いも済む訳だ。白石姉妹と関わる時は、月宮さんが必須装備だな。
「それじゃ、恋崎くんと私は、明日池田くんに会いにいこうと思う。いい?」
「明日かぁー。そっか明日かぁー。明日はちょっとあれだなー」
「めっちゃ明日嫌じゃん!ウケる!」
「いやいやヨシリン。ここでそれはないって」
でもだって、2日連続なんて、そんなことしたら僕死んじゃうって。
「適度に頑張って、適度に休む。それが長続きの秘訣ですよ?」
「恋崎くん、ナチュラルに、人間関係めんどくさがるの、よくない」
はい。ごめんなさい。でも明日は気持ち嫌だなぁ。なんとか来週とかにできないかなぁ。
などと無駄に抗う術を考えていたところ、仮部室の扉が開く。開かれた扉の向こう、ものすっごく嫌な顔をした高岡先生が立っていた。
「いつからここは不良の溜まり場になったんだ・・・」
「待ってください。見た目は真面目、素顔も真面目の僕が不良のカテゴリーに入るのは納得がいきません」
「なんだその名探偵みたいな肩書きは。それにお前は素行が真面目ではないだろ」
「なんかさぁ〜。それだとウチらが不良みたいじゃね?」
「お前達3人は身だしなみの時点で校則違反だから、間違いなく不良のカテゴリーだ・・・」
「それな!でもたっかーもこっそり屋上でタバコ吸ってるし、類友じゃね!?」
「俺は一応許可もらってるんだよ。と言うかその、倫理観をどっかに置いてきた錬金術師みたいなあだ名はやめろ」
ギャル3人は、頭の上に?マークを浮かべている様だが、僕にはわかる。確かにそのあだ名はすごく嫌だ。
「それで、なんでここにお前達がたむろしてるんだ?」
「みやっちゃん先生が、ここ使っていいって言ってましたぁ〜」
「三塚の奴、何を勝手に・・・」
「そそ!たっかーなら文句言いながら、なんだかんだ助けてくれるって!」
「なんでそんな、嬉しくない期待値を持たれてるんだ・・・。あとたっかーやめろ」
高岡先生は目頭を押さえながらも、僕達を追い出すこともせず、奥の座席へ向かっていく。どうやら本当に、文句を言いながらも助けてくれる様だ。
「えぇー、たっかーが嫌なら、たかりん!」
「たかりんは可愛すぎじゃねぇ〜?」
「名前とビジュのギャップが逆に、的な?」
「あぁ〜、それなら逆にかも」
「なにが逆に、だ。たかりんはやめ・・・いや、もうそれでいい。話が進まん。それでなんでこんなとこでたむろしてるのか、教えてくれ月宮」
選ばれたのは月宮さんでした。名指しってことはあれですか、ここで1番まともなのは月宮さんだと?みんな、僕に対する認識おかしくないか?
「帰宅部、幽霊部員がバレて、部室追い出されちゃった。みやっちゃん先生、産休で助けてあげられないから、高岡先生を頼りなさいって」
「あぁー池田か・・・」
「高岡先生も知ってるんですか?」
あれ、もしかして池田さん知らないの僕だけ?
「まぁ有名、と言うかお前と同じで悪目立ちするからな。帰宅部って他の部員だと、白石姉妹と月宮の3人か・・・」
高岡先生はそれぞれの顔を見回すと、うんと頷いた。
「無理だ諦めろ」
ですよねーーーー。
「えぇーなんで無理とかすぐ言っちゃうのー?やってみないとわかんなくね?」
「そーそー、麗ちゃんとヨシリンがなんとかしてくれるってぇ〜」
なんだその期待値の高さは。
「多分、私は避けられる側。なんとかするの、恋崎くん」
よくわかってらっしゃる。わかってらっしゃるが、これは丸投げでは?
「と言うかお前達。池田をなんとかするより、恋崎を入れたら定員の問題は解決するじゃないか」
えぇ、何言ってるのこの人?僕は放課後はあれがアレであれだし。何より同じく幽霊部員まっしぐらだよ?
「あぁーいや、それはいいかなぁって」
「ウチらさぁ〜。帰宅部続けたいってのはもちろんだけどぉ。せっかく入ってくれたのに、このままイケっちいなくなるのはやだなぁ〜みたいな?」
「まじそれな!ウチらも居場所なくって、なんかもうどうでもいいやーってなってた時に、みやっちゃんが帰宅部作ってくれてさ」
「そのおかげでウチらがこうしてられるって言うかさぁ。なんかムズイけど、そんな感じなわけよぉ」
この2人は人生を楽しく生きている様に見えたが、それなりに思うところもあったのだろう。そんな時の拠り所が、心の支えが帰宅部だったんだ。もし池田さんが、同じ様な境遇なら、三塚先生がそうしてくれた様に、自分たちも手を差し伸べたいと、そう思っていたんだ。
「あれ?でもさっきは誰でもウェルカムって言ってませんでした?」
「別に他に人来てもいいけど、ちゃんと本人から話聞くまでは、イケっち諦めるつもりなかったし?」
なるほど。通りで池田さんに話をしにいくとなった時にグイグイ来たわけだ。
「なるほど、それで恋崎に白羽の矢が立ったわけだ」
「え、何がなるほど、なんですか?」
「だってお前、オタクだろ?」
そこから先は教室と同じ出来事が起きたことは、語る必要もないだろう。




