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9話 人間嫌なことがあった時、景色くらいよくしたくなるものなんです。

「おはよう麗華ちゃん!それと・・・恋、崎くん?なんか2人でいるの珍しいね」


 発端は若山さんの朝の挨拶だった。

 まるで昨日までの月宮さんの問題が、何も起きていなかったかのようで、そして僕と初めて話しをするかのようで。

 僕達は昨日のこともあり、何となくでも事情を知っている若山さんに相談をしよう。そんな話をしていたのだが、あまりに雰囲気の違う若山さんを前にその計画が頓挫したことを悟った。昨日から胸につっかえていた問題が、より大きく膨らむのを感じる。


「そんなに珍しいかな?僕達だってたまには話をするよ」


「そーなんだ?初めて見るから、私ビックリしちゃったよ」


 若山さんの言動からすると、僕が月宮さんと話していることが、"いつもの日常"からかけ離れた光景なのだろう。そこから想定される最悪のシナリオ。

 残酷な答えが待っているとしても、もう目を逸らしている場合ではない。


「月宮さんとは部活が一緒だから、ちょっと活動のことで・・・」


「恋崎くんも帰宅部なんだ!ちょっとイメージなかったから意外かも」


「そんなに意外だったかな?」


「だって恋崎くん、あまり人と話すイメージ無いし、そもそも部活入ってることが意外って言うか?」


「そうかな。僕は打ち解けたら、意外と話す方だよ」


 若山さんとだって、そうだったでしょ?口から溢れそうになる言葉を飲み込む。それは僕のエゴでしかない。今はそんなものにかまけてる場合ではないのだ。


「でも帰宅部ってあれでしょ?麗華ちゃんと、あと仲のいい先輩2人しかいないって」


 どうやら月宮さんが帰宅部にいる、という事実は変わらないらしい。僕と月宮さんが話していること、それ以外は変なことはないのかもしれない。

 だとしたら僕は、ここを離れたほうがいいのかもしれない。


「それじゃ月宮さん、また放課後に部室で」


 月宮さんは不安そうな視線を向けるが、小さく頷いてくれる。少し酷かもしれないが、今はそれしかない。

 少なくても、僕は覚えている。月宮さんと過ごした時間を、彼女の抱える不安を。

 白石先輩達と池田、小桜ちゃんは僕たちと過ごした時間を覚えているのだろうか?

 確かめてみるしかない。だけどもし、みんなが覚えていなかったら?


 月宮さんとクラスメイト達の会話を眺めてる内に、僕の心にはある違和感が浮かぶ。

 いくらなんでも、みんな月宮さんの気持ちに気づかなさすぎではないだろうか。明らかにいつもより、口数も少ないし、声音も緊張している。

 みんなはともかく、数日前に月宮さんのドヤ顔がわかったと、そうはしゃいでいた若山さんも、それに、気づかないはずがない。


 月宮さんもその違和感に気づいたのか、時間が経てば経つほど、顔色は悪く口数も減ってきていた。

 それなのに、みんなは笑顔で話し続けた。まるで月宮さんも"笑っている"かのような、そんな空気が、教室を支配していた。



@



 仮部室への道の途中、辺りに人が居なくなった頃を見計らって、僕は月宮さんに声をかけた。


「月宮さん、今日は帰った方がいいかも知れない」


「・・・なんで?」


「月宮さんも、みんなが変だって気づいているでしょ?もし白石先輩たちも、そうだったら・・・」


「・・・・・・」


 返事はなかったが、彼女は足を止めた。きっと白石先輩達が、みんなと同じような反応であれば、月宮さんの心はもたない。もう十分すぎるほどに限界なのだ。

 本当なら僕は残った方がいい。そうして先輩達と池田、小桜ちゃんの様子を探る。それが一番いいのだが、月宮さんを1人にするのは、一番よくない気がする。

 そして月宮さんの心の不安定さが、事態を悪化させるのであれば、今家に帰しても実質1人になってしまう。それなら僕にできることは、せめて少しでも、彼女の気持ちが落ち着くまで一緒にいることだ。


「今日の部活、サボってどこか行っちゃおうか」


「・・・そうだね」


「どこか行きたい場所、ある?」


「海が、見たいな」


 海。東京湾は海と言えるのかな。いいや、そんな事はどうでもいい。現実から距離を置くには、せめてもう少し距離が欲しい。


「それならモノレールに乗ろうか」



@



湘南モノレール。大船から江ノ島までを繋ぐ路線。池袋から江ノ島へ向かうには都合の良い移動ルートだ。そう、僕達はこのモノレールに乗り、江ノ島へ向かう。

 平日の夕方だから混んでいるのかと思ったが、不思議と車内は空いていた。


「モノレール、初めて」


「そっか実は僕も初めてなんだ」


 ちょっとドキドキしているのは内緒。


「恋崎くん、ドキドキ、してる?」


 どうしてバレた。


「まぁ少しは・・・」


「そっか」


 月宮さんはどこか機嫌良さそうに、短く応えると、近くのボックス席の窓側に腰をかける。そう、ボックス席。2人がけの椅子が、向かい合うように設置されているあれだ。

 こう言う時は、どこに座るのが正解なのだろか。斜め向かいが1番無難なんだけど、友達同士でその距離感はおかしい。なれば、隣か?いや、2人がけの席で女子の隣ってどうよ?なれば、なれば、向かいの席?うんそれがいい。そこなら景色が見たかったんですけどね?いや、マジで。みたいな心持ちで座れる。・・・誰に対する、なんの強がりなんだ。

 月宮さんの前に回ると、月宮さんは少し驚いているようだった。選択を間違えたかと後悔しながら座ろうとすると、互いの膝が触れた。


「ごめん」


 なんで謝ってんだ僕は・・・。


「んーん」


 椅子に深く座り直すも尚、膝の距離は近い。なるほど。これは完全にミスった。

 車窓から駅のホームに目をやり出発を待つ。視界の端で月宮さんの表情を伺うと、どこか機嫌が良さそうに、自分の足の上に重ねた手を、小さくパタパタと動かしていた。

 そんなに僕が初めてモノレールに乗ることが面白いのだろうか。いや、別にいうほどドキドキしてないからね?・・・いや、なんか結構ドキドキしてるみたいだ。だけど何故かそれが心地よくって──────ってなんだこれ?


「こうして、2人でいると、デート、してるみたい、だね?」


「別に2人でいるのって、初めてじゃないし・・・」


 だから、誰に対する、なんの強がりなんだ。いや、ともすれば強がっているのは、僕だけではないのかもしれない。

 放課後、男女2人、向かうは江ノ島。言われてみれば、そんな気もしてくる。だけどそれはあまりに不謹慎で、それでも月宮さんの気持ちが、少しでも晴れるのであれば、悪くないのかもしれない。

 発車時刻を迎え、モノレールはゆっくりと走り出す。そして次第に僕のドキドキは、若干身の危険を感じるドキドキへと変貌した。

 まず意外と速い。そして山を登って降って、途中で吸い込まれるトンネルは、壁面が近く、更にそこへ左右の揺れが加わり、大袈裟に言えば、ちょっとしたジェットコースターの様な体験だった。


「意外と、すごかった、ね」


「うん。意外と、ね・・・」


 終点の湘南江の島駅の改札を出た頃、ようやく僕達は口を開いた。別にジェットコースターは苦手ではないのだが、モノレールのイメージとの乖離。そしてジェットコースターなら心が大丈夫と安心しきっているのに対して、心構えをしていない急展開。

 時間にして15分にも満たない乗車時間であったが、心は疲労していた。そんな僕に反して、月宮さんは平気そうだ。


「でも、楽しかった、かも」


 表情にこそ出ないが、月宮さんの声音は先ほどよりも明るくなっていた。


「それなら良かったよ」


「恋崎くん、意外と、エンターテイナー」


「まぁ僕もモノレールがこんな感じだとは、知らなかったんだけどね」


 改札を出てすぐ、ルーフテラスが設けられており、月宮さんの無言の先導に従い外に出る。

 風が思いの外強く吹いているからか、テラスには誰もいない。傾き始めている太陽が山の稜線に向かっていた。


「ねぇ見て月宮さん、あれ富士山じゃない?」


「だね」


 想像よりも大きく見える富士山に、若干心が躍る。夕焼けに染まり始めた山々は、どこか哀愁を漂わせる。何だか見ていると、踊り始めた心がトーンダウンしていく。


「海、ここからじゃ、見えないんだね」


 月宮さんは江ノ島があるであろう方向を見て、ポツリとつぶやく。まるでもう見れなくなるのではないかと、そう錯覚するような雰囲気を纏い。


「橋のところまで行けば、すぐ見えるよ」


 いてもたってもいられなくなった僕は、どうしようもない、分かりきったことを口走っていた。それほどまでに、このざわめきは、もう誤魔化しが効かないくらい、僕の心に蔓延っていた。


「そう、だね」


 月宮さんは、小さく呟いた。


 1階までエスカレーターを降り、海に向かって商店街を歩き始めた。昔ながらの商店街は観光客がチラホラ見える程度で、歩くのに不自由はしなかった。

 言葉もなく並んで商店街の終わりまで歩くと、月宮さんは一軒の店を指差し立ち止まる。


「恋崎くん、スマートボール、勝負」


「勝負と言われたら、受けて立たなくちゃね」


 だって男の子だもん!男の子はみんな勝負事が大好きなんだ。


「ところでスマートボールで勝負って、なに?」


「さぁ、長く続けられた方が、勝ち?」


「随分と曖昧なんだね」


 だが、大体ルールはわかったぜ。と言うか、スマートボールで競うなら、それ以外やりようがないか。


「いらっしゃい!」


 威勢の良いおばちゃんの声とは裏腹に、店内には僕達以外の客はいなかった。

 お互いに200円を支払うと、おばちゃんがガラス面の上にボールをぶち撒ける。意外と大きな音がしてびっくりしたのは、ここだけの話。


「それじゃ、ここからは、真剣勝負」


「僕のスマートボールテクを甘く見ないでくれよ」


 僕らは同時に引き絞ったスティックを離した。すると2人とも大きく勢いがつきすぎて、左端の釘を、音を立てながらボールが落ちていった。

 お互いに顔を回せると、僕の顔には自然と笑みが溢れる。月宮さんは微妙な表情の変化だけだが、楽しんでいることは、ちゃんと伝わってくる。


「2人とももっと加減しないと」


 すると、おばちゃん特有のお節介が飛んでくる。だがしかし、これは真剣勝負なんだ。


「おっと奥さん。これは僕達の真剣勝負なんです。助言はまたの機会に」


「おや、そうかい?」


 すると隣から出玉が転がる音がする。音からして5個か。

 だが、僕ももうコツは掴んだ。少し引く力を弱めて・・・あれ、まだ強い?それならもっと弱く・・・あれ?

 程なくして、隣から再び音がする。ってまってそれ15個くらい出てないか?


「おばちゃん!ヘルプ!!」


「はいはい。ちょっと待ってねぇ」


 何もこれは不正ではない。元より向こうから声をかけてもらったんだ。強いて言うならお節介を何ターンか後にしただけ!

 おばちゃんの力を得て、僕は3回ほど5個の出玉を得るが、結果としては惨敗。僕の玉が尽きた頃、月宮さんはまだ10個以上の玉を残していた。


「恋崎くん、スマートボール、弱い?」


「スマートボールで弱いと言う表現を、僕は初めて聞いたよ」


「それじゃ、罰ゲーム」


「えぇそれ最初に言ってくれないと。罰ゲームがあるってわかってたら、すぐにおばちゃんに教えてもらったのに」


 すると遠くにいた、おばちゃんから声がかかる。何と言うか、すごい、地獄耳だ。


「あんた、それで勝って嬉しいのかい?」


「もちろんです!」


 だって男の子は勝負事が大好きで、勝つためには手段を選ばないんだから!(当社比)


「罰ゲーム、射的で、あれ、取って」


 月宮さんはスマートボールの後ろ射的の棚を指差す。その指の先にはゴム製だろうか?クラゲの小さなストラップがあった。


「まぁ任せてよ。射的には自信があるんだ」


 そうして僕は迷わず、6発ではなく11発分の500円をおばちゃんに差し出す。


「あんた、自信あるんだよね?」


「この人、こういうところ、あるので」


「何事にも備えるのは、男として当然のことですよ」


「まぁあたしはどっちでも良いんだけどね?それで、撃ち方のコツとかは言わない方が・・・」


「ぜひ!教えてください!」


 だってこれ勝負じゃないですし?躊躇う理由は何もない。


「なんだか潔いんだか、男らしくないんだか、わからなくなってきたね・・・」


「奥さん、その2つは必ずしも矛盾しないんですよ。まぁ僕はすぐにコツを掴んで、6発以内に取ってしまうんですけどね」


 その後、手取り足取り、教えてもらい修正をしながら、僕は11発目にして見事にクラゲを討ち取ったのだった。


 店を出る頃には商店街前の大通りは夕陽に照らされ、目で追うと、夕日は彼方の山々へ迫り、その稜線は赤く輝いていた。

 この大通りは信号がなく、江ノ島方面へ出るには、トンネルを潜って道路の下を抜ける作りになっている。


「江ノ島まで行くと、帰りだいぶ遅くなっちゃうね」


「今日は、砂浜まで。それで、十分」


 そう告げると月宮さんは、ゆっくりとトンネルへ歩き出した。僕は長く伸びるその影を、静かに追いかけた。



@



 江ノ島大橋へ向かわず、手前の東浜へ足を伸ばした僕達は、海と江ノ島、そして江ノ島大橋の影に沈み行く夕日を眺めていた。

 綺麗だ。今の状況には似つかわしくないかもしれない。だけど、直面した問題を気にしていられないほどに、それほどまでにこの景色は僕を、僕達を魅了していた。


 夕日が完全に橋の影に隠れる頃、金縛りから解けたかの様に、月宮さんは口を開く。


「多分、恋崎くんの、言う通り。紬先輩も、葵先輩も、私じゃない私を、笑顔の、理想的な女の子が、見えてた、と思う」


「仮にそうだとしても、僕にはちゃんと見えてる」


「そう、だね・・・」


 月宮さんは服が汚れることも気にせず、砂浜に膝を抱えるように腰を下ろした。


「ちょっと状況を整理しようか」


 僕もそれに倣い、月宮さんの横に座る。ズボン越しに感じる砂は、まだ少し暖かかった。


「みんなには多分、"笑顔の月宮さん"が見えていた。きっと月宮さんの気持ちと関係なく、笑顔に見えていた」


 月宮さんの膝の上で噛まれた手に力が入る。無理もない。自分がどんなに苦しんでいても、周りの人は平然と話しかけてくるのだ。

 自分は何も楽しくないのに、みんなは盛り上がる。苦しくて、悲しくて、それでもみんなは笑いかけてきて、誰も助けてくれなくて。その環境はどんなに怖かっただろうか。


──────あぁ、そうか。あの時、無理にでも話しかけるべきだったんだ。


 我ながら自分の不甲斐なさに腹が立つ。結局のところ、大事な時に、僕は何の力にもなってあげられなかったんだ。


「そうだとしても、 若山さんは、私と恋崎くん、話してることに、違和感、感じてた。その理由が、わからない・・・」


 僕にはその理由がよくわかる。仮に月宮さんが、普通に笑う女の子だったとしよう。

 クラスのカーストでも上位に位置するギャル。まず僕から話しかけることはない。そしてそんなギャルにもまた、僕に話しかける理由はない。

 きっと、そういう日常になっていたのだろう。そしてそれが、若山さんの、みんなが見ている日常。──────大袈裟に言えば、世界の在り方が、その様に変わってしまったのだ。


 このことを正直に伝えるべきなのだろうか。なんせ相手は世界なんだ。更に問題の解決が見えなくなる。それは、月宮さんに大きな負担を与えかねない。

 だけど、嘘をつくことで、誠実さを欠くのも、なんか嫌だった。

 そんなことを考えているうちに、月宮さんは口を開く。


「楽しい夏が、始まると思った、のに・・・」


 あまりにも切実で、消えてしまうかのような声だった。

 そうだ、月宮さんが今1番欲しいのは、答えなんかじゃない。僕はまた、間違えるところだった。


「月宮さんは、この夏何がしたい?」


「・・・紬先輩に、葵先輩、池田くんと、美乃ちゃん。みんなで、また来たい。モノレール乗って、ピンボールして、海を見て。それと、今度は、あの灯台、登ってみたいな」


「それは、きっと楽しい夏になるね」


 月宮さんは視線だけこちらへ向けると、うん。と小さく応えた。その手には先ほどのクラゲのストラップが、強く握られていた。

 そんな様子に僕は居ても立っても居られなくなり、次から次へと言葉を繋ぐ。


「白石先輩達はきっと、いつものゆるふわ語録でモノレールに歓声あげたりするんだよ。それで小桜ちゃんは地味にピンボールがうまくって、勝負は一人勝ちしちゃってさ。池田なんかは、写真撮りまくって、アニメの聖地だからってきっとあいつ泣きながら写真撮ってて。僕と月宮さんは、そんなみんなを少し後ろで見守っててさ・・・」


 眩しい程に輝く情景は、日の当たらない砂浜をより虚しく浮かび上がらせる様で。

 それが解っているのに喋ることをやめられない、きっと脳が理解してしまっているのだ。そんな未来は訪れない、と。


「・・・それで、それから、さ」


「もう、大丈夫、だよ」


 そんなの嘘だ。


「恋崎くん、いつも、頑張りすぎ」


 だとしたらまだ足りない。


「きっと、どうにも、できない、よ」


 だからって諦められる訳が無い。


「私は、いない方が、いい」


「そんな訳ないだろ!」


 叫ぶ僕の隣。そこにいるはずの彼女が、消えていた。


「月宮、さん・・・?」


 応える声はなく、つい先程まで近くにいた彼女は跡形もなく消え去っていた。

 名前を叫んでも見つかるはずもなく、辺りを見渡しても影すら見つからない。その事実が少しずつ合わさっていき、1つの過程を形作っていく。

 違う、そんなことあるはずがない。人が消えるなんて、絶対にありえない。

 否定すればするほどに、その疑念は強まる。

──────僕が見ていた月宮さんは、一緒に過ごしてきた日々は、現実だったのか。



@



 僕が家に着いた時、時計の針は9時を回っていた。お小言を言いにきたであろう母親も、僕の顔を見て開きかけた口を閉じた。


「さっさとお風呂入っちゃいなさい。ご飯温めておくから」


 返事ができていたか分からないが、こう言う時に根掘り葉掘り聞かれないところが、きっと母親なりの優しさなのだろう。

 それに、もし聞かれたとしても、僕はなんて言うのだろうか。

 クラスメイトの女の子が消えてしまったので探していた。とでも言うのか。・・・無いな。


 風呂に入る気力も湧かず、リビングのソファーに腰を浅く下ろし、沈み込むように身を預ける。


「うっわ、こっちまで気が滅入るから、もう少しまともな顔してよ」


 妹の愛花あいか、僕と違いキラキラ世界の住人で中学3年生。兄の出来が悪いと、妹の出来が良くなる。あると思います。(ド偏見)

 そう、愛花は僕と正反対の人間なのだ。中学生だからこそ、髪を染めていないが、校則に触れないギリギリを攻めるように、メイクもしっかりこなしている。個人的に変な影響受けそうだから、白石姉妹には合わせたくはない。


「なんか、久しぶりに話したね」


「これを"話した"にカウントするのは、兄貴くらいだよ」


「それほどまでに、兄と口を聞いていなかったってことだよ」


「そうだっけ?」


 僕達は別に仲が悪いわけではない。かといってよく話をするほど仲良くもない。普通、兄妹なんてそんなものなのだ。ラノベの様な仲睦まじさはないし、それを羨んだこともない。


「そうだよ。前に話したのは3日前の朝ごはんの時に、僕に醤油取って、って言ってきた時だよ。もう随分経つね・・・」


 愛花は少し、いやまぁまぁ、あるいはかなりドン引きしていた。


「あれを話したにカウントしないでよ」


 口や表情にこそ出さないが、愛花は照れているのだろう。きっと、どうやって兄と接していたのか、戸惑っているのだ・・・。


「兄貴ってまぁまぁ、いや大分キモいよね・・・」


「兄妹なんて、そんなものだよ。お互いにキモいだなんだ言いながら、それでも切れない絆が、って待ってよ愛花!もう少し構ってくれてもいいじゃん!」


 ホントに、照れ屋なんだから・・・。

 そう、彼女はまだわかっていないのだ、兄との接し方を。兄、か・・・。


 そうだよな。女々しく落ち込んでいても仕方が無い。もし、本当に今までの事が夢や妄想なのだとしても、それならそれで、僕にはやる事があるはずだ。


 妹の愛によって、落ち込んでいた気持ちが大分良くなった。まずは明日、学校で月宮さんを探してみよう。何も分からないなら、分からないなりに、だ。

 

 恐らく明日からは、1人孤独に世界とやらに抗うことになる。

 僕1人が抗ったところで、何も起きないのだろう。誰1人、気にする人はいないのだろう。

 それでも思い知らせてやるとしよう。僕はねちっこく、嫌みったらしく、そして絶対に諦めないって。

 我ながら性格が悪いな。ついでに格好も悪い。それでも、僕はそんな僕が、割と嫌いでは無い。

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