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婚約破棄されたので、自由気ままに生きようと思います  作者: RISE
婚約破棄と新しい道の始まり
6/16

第6話 村の人々と森の力

畑を作った翌朝。

私は久しぶりに心地よい疲労を感じながら目を覚ました。

固い床にも慣れつつあり、昨夜は不思議と深い眠りに落ちたのだ。

「エリナ様、今日は村へ参りませんか?」

朝食の支度をしながらミアが言う。

「昨日のお礼も兼ねて、ご挨拶に」

「そうね。鍬を譲っていただいたままでは失礼だし」

私はうなずき、森を抜けて再び村を訪れた。

小道の先に広がる茅葺き屋根の家々は、朝日を浴びて柔らかく輝いている。

畑では男たちが鍬を振るい、女たちは洗濯物を干し、子どもたちが追いかけっこをしていた。

どこにでもある村の光景。

けれど私にとっては新鮮そのものだった。

「お嬢さん! 昨日の方だな」

声をかけてきたのは、鍬を譲ってくれた中年の男だった。

「鍬は役立ったか?」

「ええ。おかげで小さな畑が作れました。本当にありがとうございます」

私が深く頭を下げると、男は手を振って笑った。

「礼なんていらんさ。だが、本当に森の小屋に住むつもりとは……面白い娘さんだ」

「面白い、ですか?」

「怖がる者が多いのに、嬉しそうに耕すんだからな」

男の声に、近くで野菜を選んでいた村の女たちも振り向いた。

「森に住んでるって、本当?」

「女の子二人で大丈夫なの?」

「ええ。少しずつ整えていくつもりです」

私が答えると、女たちは顔を見合わせ、やがて籠から野菜を取り出して差し出した。

「なら、これを持っていきなさい。畑が実るまでは大変でしょう」

「そんな……いただけません」

「いいのよ。昨日の噂でもちきりだったのよ、森に住む令嬢様がいるって。面白いから応援するわ」

差し出されたのは人参や大根、卵まで入った籠だった。

思わず胸が熱くなる。

王都では笑われ、居場所を失った私に、見ず知らずの村人たちが手を差し伸べてくれる。

「……ありがとうございます」

私は籠を抱きしめるように受け取った。

その時、村の広場の端から子どもの泣き声が響いた。

振り向くと、小さな男の子が転んで膝を擦りむいている。

血がにじみ、泣き声はどんどん大きくなる。

「ちょっと失礼します」

私は急いで駆け寄った。

ハンカチで傷を押さえ、荷物から取り出した小瓶を取り出す。

庭仕事のときに自分で作っていた薬草の軟膏だ。

「少し染みるかもしれないけど、我慢してね」

そう声をかけながら塗り込むと、血がすぐに止まり、赤みが引いていく。

「……もう痛くない」

少年が涙を止め、目を丸くした。

その様子を見ていた村人たちから、驚きの声が上がる。

「お嬢さん、薬師なのか?」

「いえ、趣味で薬草を扱っていただけです。でも、効いたでしょう?」

少年がこくんと頷く。

その笑顔を見て、村人たちの視線が柔らかくなった。

「ただの令嬢かと思えば、頼もしいじゃないか」

「森に住むのも、本当に向いてるのかもしれないね」

私は頬を赤らめながら微笑んだ。

――王都では無駄だと笑われた知識が、ここでは役に立つ。

それが嬉しくて仕方がなかった。

籠いっぱいの野菜を抱え、小屋へ戻る道を歩く。

森に入った途端、風が木々を揺らし、葉がさらさらと囁くように鳴った。

その音に、胸が温かくなる。

「……森が喜んでるみたい」

「え?」

「さっき子どもを助けたこと。森は知っている気がするの」

ミアは一瞬驚いたように目を瞬き、やがて穏やかに笑った。

「……本当に、エリナ様は森に選ばれたのかもしれませんね」

夕暮れ、小屋に戻って野菜を煮込み、温かなスープを口にする。

昨日よりも、ずっと豊かな食卓。

野菜の甘さが広がり、胸まで温かくなる。

「幸せね」

思わずそう口にすると、ミアがこくりと頷いた。

「はい。ここでなら、きっと……本当に幸せに暮らせます」

窓の外では、畑の土がかすかに光を放っていた。

それは芽吹きの予兆か、森の精霊の祝福か。

いずれにせよ、確かに新しい生活が根を下ろし始めていた。

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