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月まで届け

 地球が滅亡した。

 否、滅亡というと流石に言い過ぎか。

 正確に言えば、大災害が世界的に起こり、滅亡一歩手前という状態になったと言ったほうが良いのだろう。

 幸か不幸か、人類の一部は月への脱出に成功しており、人類滅亡には至っていない。生き残りがいれば、いつか地球復興も夢ではないだろう。

 問題は、地球側の生き残りだ。

 ライフラインはもちろん壊滅。

 物流もなにもない。

 文明なんてものは全て破壊されてしまった。

 大半の人類は、災害に巻き込まれて死んでしまっている。

 そんな過酷な状況で、どういうわけか俺は一人生き残ってしまったのだ。

 こんなところで運を使いたくなんてなかった。どうせなら、こんなことになる前に宝くじのひとつでも当たっていれば良かったのに。そうすれば、俺だって月に逃げられていたはずだ。

 そう、月に行けた人間とは、権力者や優秀な人材、そして金持ち連中である。俺なんていう一般人風情は、月行きのチケットを手に取ることさえ許されなかった。

 むろん、滅亡前にこの件については暴動が起きた。

 人類を選別するなとか、故郷を捨てるのかとか、人の心はないのかとか。ここでは言えないような罵詈雑言も数多く飛び交っていた。

 だが彼らは、そんな人々の声を「これも人類存続の為だ」と言って、月へ旅立っていったのである。

 その後、地球全土は大災害に見舞われ、ありとあらゆる生物がそれによって殺され。

 どういうわけか、俺だけが生き残ってしまった。

「はあ……」

 死にたくないと思うことは、大切な感情だ。しかしこうなってしまえば、あのとき死ねていればどれだけ良かったことか、と思うことも少なくない。

 自殺は怖くてできない。

 だけど、早く死にたい。

 そんなことを考えながら生き続ける毎日だ。

来果(らいか)……」

 堪らず、恋人の名前を呟いた。

 返事はない。

 ここには俺一人しかいないのだから。

 けれど、呼ばずにはいられない。

 だって彼女は、死んではいないのだ。

 来果は今、月に居る。

 所謂権力者の血縁者枠で、彼女は月へ行った。

 直前まで俺と一緒に地球に残ると言ってくれていたけれど、巨大な権力を前に、俺なんかでは為す術もなく。呆気なく恋人は連れていかれてしまった。

 月と地球。

 会いたいと思って会える距離ではない。

 向こうから会いに来てくれるのなら話は早いが、現状、それは望み薄だろう。

 あの災害からそれなりに時間が経過したが、未だ彼らは地球に戻ってきてはいないのだから。もしかしたら、あの大災害で終わりではなく、第二波第三波が待ち構えていて、だから戻ってこないのかもしれない。そんなことばかりを考える。

「……いや、駄目だ」

 あまり暗いことばかりを考えるのは良くない。

 そう考え直して、俺は首を横に振った。

 前向きにいこう。

 どれだけ現状が絶望的でも、希望の火を絶やしてはいけない。それは死に直結する。

 俺は、いつの日か来果に再会できることを願って、生き続けるほかないのだ。

 一度大きく深呼吸をしてから立ち上がり、夜空を見上げた。

 文明が死滅した現在、夜空は息を呑むほどに美しい。

 遠距離恋愛の常套句に、同じ空を見上げているから、なんてものがあるが、俺たちの場合、それもできない。きっと地球と月とでは、見えている夜空にも違いがあるだろうから。

 だから俺は、月に向かって、言う。

「来果ー! 大好きだーっ! 愛してるー!!」

 現実的でないのはわかっている。

 けれど、どうかこの声が月まで届けと、願いながら。

 声の続く限り、叫び続けた。





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