Prologue
春チャレンジ2025に寄せて。
学校と言いますが現時点では学校要素は薄いです。
作者自身まだ学生ですので、至らぬ点も多々あるかと思いますが、何卒よろしくお願いします。
リクエスト等感想で受け付けております。
「私、天使なんだよね」
日の落ちかけた帰り道、同級生で幼馴染の天乃優羽が放った一言に、俺はピシリと固まった。
先ほど優羽に「これ持ってよね」と押し付けられた通学カバンが、音を立ててアスファルトに落ちる。
「何落としてんのよ」
そんな俺を優羽が胡乱げな顔で見やる。
あろうことかその原因の張本人である彼女が、手元のアイス棒を眺めながら「あ、アタリだ」などとのたまったので、俺はさすがに異議を申し立てようと口を開いた。
「天使ってなんなんだよ」
「別に、文字通りの意味だけど」
優羽は爪をいじりながら答えて、数拍おいてから今思いついたとでもいうように言う。
「え、もしかして知らないの?天使の意味。て、ん、し。え、風見旭くんは!?高校にもなって、天使という単語を!?知らないんですか!?」
これみよがしに高くされた声。
ズレた解釈だということは向こうも承知の上だろうに。
「違うけど。優羽が天使ってのがわかんないんだよ」
「あぁ、そっちね」とがっかりしたように言う優羽。
そっちも何もないだろ、どうせ最初からわかっていたくせに。
彼女は近頃俺を弄ぶのが楽しいようで、何かにつけてからかってくる。
今回もその一環なのだろうか。
いや、そうだとしても急に素っ頓狂なことを言い出すような奴じゃない。
中学2年生をまだ引きずっているのかもしれない、という考えに行き着いたのは、暇を持て余した優羽が小石をつま先でつつき出した頃だ。
次は「我の封印されし漆黒の右手が疼く…」とでも言い出すのだろうか。
すると、優羽がポツリとつぶやいた。
「別に、厨二病じゃないから。AAIの途中」
まるで俺の考えを読んだかのようなそれ。
というかAAIってなんなんだよ。
「あんたの考えってわかりやすいよね、あさひは単純だから」
なにげに失礼なことを言う。
ムスッとした俺の腕から鞄を奪い取った優羽は、軽く手を振った。
「じゃ、私アイス棒交換してくるから。またあしたね」
すでに遠ざかりつつある声がこちらに「鞄ありがと〜」という言葉を投げかけた。
駄菓子屋へ向けてマイペースに歩いていく背中を見ながら、俺はまだ「天使」「AAI」の意味について考えていた。
閲覧ありがとうございました。