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覆る真実、教師の裏の顔

担任教師がいじめの共犯者であることを示す決定的な証拠を手にした紗奈と凌央。だが、それをどう扱うかが問題だった。証拠を闇雲に公表すれば、証拠隠滅される可能性もある。慎重に動かなければならない。


龍城弁護士に相談するため、二人は直接事務所を訪れる。しかし、その道中、何者かに尾行されていることに気づく。さらに、凌央の家に圧力がかかり、父親が学校からの「忠告」を受けることになる。教師の影響力が、じわじわと彼らを追い詰め始めていた。


その一方で、ある生徒が密かに二人に接触してくる。彼が持っていたのは、過去の被害者が残した"ある記録"だった。


新たな証拠を手にした彼らは、ついに学校のシステムそのものを揺るがす一手を打つ決意をする――。


夜の空は重たく、冷たい風が肌を刺すようだった。街灯の光がかすかに揺れ、紗奈と凌央は並んで公園のベンチに腰を下ろしていた。


 二人の視線は、凌央のスマホ画面に注がれていた。画面には、汚れたトイレの床に押しつけられた少年の姿。うめく声。嘲笑(あざわら)う影。そして――その奥に立つ、ひとりの男。


 「やりすぎはダメだぞ」


 低く、落ち着いた声が響く。その声の主は、彼らの担任教師だった。


 微笑んでいるのに、冷たい。まるで、何かのゲームの監督者であるかのように、無感情な目で見下ろしていた。


 「……これが……教師のすることなのか……?」


 凌央の声は、震えていた。手をぎゅっと握りしめ、歯を食いしばる。まるで、今すぐにでもこの男を殴りに行きたい、そんな衝動が体を支配しているようだった。


 「……やっぱり、わかってたんだよ」


 紗奈は、深く息を吸い込んだ。

 ずっと疑問だった。

 ずっと、おかしいと思っていた。


担任は確実に、いじめの存在を知っていた。知っていて、それでも何もしなかった。

それどころか、この映像が示すように――見て見ぬふりどころか、むしろ加害者側にいた。


 「教師が味方でいてくれないなら、誰が生徒を守るの?」


 紗奈の声には、怒りがにじんでいた。教師とは、生徒を導く存在のはずだ。困ったとき、助けを求めるとき、手を差し伸べてくれるはずの存在だった。それなのに――この教師は、平然と笑いながら、いじめの現場を見ていた。


 「これ、どうする?」


 凌央の手はまだ震えていた。その目は怒りで燃えていたが、同時に迷いもあった。この証拠さえあれば、教師を追い詰められるかもしれない。でも、どうやって?


 「……拡散すれば、一発で終わる」


 凌央は低く言った。SNSに載せれば、あっという間に炎上し、学校も無視できなくなる。だが、それは最悪の場合、証拠を隠滅されるリスクもある。学校がすぐに動けば、証拠を削除させ、もみ消すことだってできる。


 「慎重に動かないと、逆に潰されるかもしれない」


 紗奈の言葉に、凌央は深いため息をついた。教師は、生徒を守る立場にある。だからこそ、学校は教師を簡単には処分しない。もみ消す側に回る可能性もある。もしもそうなれば、集めた証拠は無駄になる。


 「龍城(たつき)弁護士に相談しよう」


 そう結論を出したのは、紗奈だった。凌央も納得した。

「証拠を集めろ」と言ったのは龍城弁護士だ。ならば、これをどう扱うべきか、彼なら正しい判断をしてくれるはずだ。


 「明日の放課後、直接事務所に行こう」


 凌央の声には、静かな決意が込められていた。


 この証拠は、単なる映像ではない。これは、この学校の闇を暴く“鍵”になる。


 だが、鍵は使い方を誤れば、簡単に折れてしまう。


 「絶対に、この証拠を無駄にはしない」


 紗奈は、小さな声で言った。


 その夜、二人は帰り道を歩きながら、冷たい空気の中で同じことを考えていた。


 ――これは、もう教師との戦いだ。

 ――学校そのものとの戦いになるかもしれない。


 けれど、それでも――


 「誰も助けてくれないなら、私たちがやるしかない」


 紗奈の瞳に、決意の光が宿っていた。


次の日の朝、凌央は家を出る前から違和感を覚えていた。リビングには祖母が優しい声で話しかけてきた。


 「凌央、何か学校であったの?」


 凌央の心臓がドクンと跳ねた。


 「……なんの話?」


 祖母は少し心配そうな表情で話だした。


 「さっき担任の先生から電話があったのよ。『最近、凌央さんが迷惑行為をしていて困っています。余計なことをして、悪い方向に行かないよう、ご家庭で注意してください』と言っていたの」


 その瞬間、凌央の背筋に冷たいものが走った。まるで無言の脅しだった。学校は、何かを察している。


その場にいた紗奈は笑顔で凌央の祖母に話しかけた。


 「何も心配しなくて大丈夫だよ。凌央のことは任せて。」


 紗奈の言葉に、凌央は救われたような気がした。


 担任の電話は、余計なことをするなと言わんばかりの忠告だった。凌央は奥歯を噛みしめた。

担任教師はすでに動いている。今まで見て見ぬふりをしていたくせに、証拠を集め始めた途端、こうしてけん制を入れてくる。


 「……本当に最低だな」


 二人が学校に着くと、担任の先生が下駄箱の前に立っていた。まるで待ち伏せしていたかのように、腕を組み、じっとこちらを見ている。その視線には、どこか冷たいものがあった。


 「凌央、お前……家で何か言われたか?」


 静かすぎる声。問いかけというより、探るような口調だった。


 凌央は足を止めた。心臓の鼓動が一瞬だけ速くなる。隣にいる紗奈も、無言のまま担任を見つめていた。


 だが――答えるわけにはいかない。


 「……」


 何も言わず、視線を外す。凌央は紗奈と目を合わせ、そのまま歩き出した。


 背後からの視線が突き刺さる。まるで、こちらの出方を試すかのように。


 足音が重く響く廊下を進みながら、凌央は拳を握りしめた。


 (バレてるのか……? それとも、ただのけん制か……?)


 答えを出すには、まだ早い。だが、一つだけ確かなことがあった。


 ――担任は、もう「監視する側」に回った。

 二人は視線を交わす。担任は何をするつもりなのか。証拠を握られたことに気づいているのか、それとも単に「余計なことをするな」とけん制しているだけなのか。


 どちらにせよ、時間はない。今日の放課後、必ず龍城弁護士に相談しなければならない。


 そして、放課後――


 二人は学校を出ると、なるべく人通りの多い道を選んで歩き始めた。だが、すぐに気づく。


 「……つけられてる」


 紗奈が小声でささやいた。


 背後を確認するまでもなく、二人は感じていた。微妙な距離を保ちつつ、一定の間隔でついてくる影。明らかに意図を持っている。


 「どうする?」


 凌央はさりげなくスマホを取り出し、画面に反射させて背後を確認する。スーツ姿の男がひとり。知らない顔だが、明らかに普通の通行人ではない。


 「()くしかないな」


 信号が変わる瞬間を狙い、二人は一気に駆け出した。曲がり角を利用しながら、繁華街へと向かう。だが――


 「待て」


 低い声が背後から響いた。


 振り返ると、男がすぐ後ろまで迫っていた。息ひとつ乱していない。その目は冷たく、まるで獲物を逃がさないと言わんばかりの圧力があった。


 「君たち、最近よく動いてるみたいだな」


 男は静かに言った。その言葉に、二人の心臓が跳ねる。


 「……誰?」


 紗奈が(にら)みつけるが、男は口元にうっすらと笑みを浮かべるだけだった。


 「ただの忠告だ。君たちは、学校のことに関わりすぎている」


 「学校のこと?」


 凌央が言うと、男は不気味な笑いを浮かべた。


 「大人しくしていたほうがいい。面倒なことになりたくないだろう?」


 その瞬間、凌央の怒りが爆発しそうになった。


 「俺たちが何をしようと、あんたには関係ないだろ」


 「関係ないかどうかは、君たちが決めることじゃない」


 男は淡々と言うと、そのまま(かかと)を返した。去っていく背中を見送りながら、二人は顔を見合わせた。


 「……今の、絶対教師の差し金だよね」


 「間違いないな。つまり、俺たちの動きはもう監視されてるってことだ」


 危険は、確実に迫っている。担任は本気で二人を潰そうとしている。


 「……急ごう」


 紗奈の声は震えていたが、その目には迷いはなかった。


 「龍城先生のところに行って、この証拠をどうすべきか相談しないと」


 二人は決意を固め、再び歩き出した。冷たい風が吹き抜ける中、背中に走る悪寒を振り払うように。


 もう、後戻りはできない。


事務所の扉を開けると、コーヒーの香りが鼻をくすぐった。落ち着いた木の机、本棚に並ぶ無数の書類。窓の外はもう夕暮れで、オレンジ色の光が差し込んでいる。


 「いらっしゃい」


 落ち着いた声が迎えた。デスクに肘をつきながら、龍城一真がこちらを見ていた。弁護士としての鋭い眼差しと、どこか余裕を感じさせる雰囲気。その姿に、凌央と紗奈は少しだけ肩の力を抜いた。


 椅子を勧められ、二人は向かいに座る。


 「で、進展は?」


 そう聞かれ、凌央はスマホを取り出した。震える指で画面を操作し、例の動画を再生する。


 「これを見てください」


 画面の中では、担任教師がいじめの現場を前にしながら、ただ微笑んでいた。


 「やりすぎはダメだぞ」


 穏やかな声。しかし、その目は冷たい。まるで、“見せしめ”の瞬間を楽しんでいるかのようだった。


 再生が終わると、事務所の中は静寂に包まれた。


 「……なるほどな」


 龍城は腕を組み、眉をひそめた。


 「これは、決定的な証拠だ。これまでの“見て見ぬふり”の域を超えている。担任が加害者をかばい、むしろ指示していたと証明できる可能性が高い」


 龍城はスマホを指で軽く叩きながら、考え込むように言った。


 「このトイレの映像のとき、他に何かあったか?」


 凌央は、一瞬言葉に詰まった。そして、思い出した。


 「あの時……俺が暴力を振るったって言われて、学校に警察が来たんだ。それで、俺は連れて行かれた」


 龍城の目が鋭く光る。


 「それで、警察の対応はどうだった?」


 「……なんか妙だった。普通なら、俺の話を聞くはずなのに、ほとんど聞かずに世間話してた」


 「担当の警察官の名前は?」


 「神崎刑事さんだけど……」


 その瞬間、龍城の口元がわずかに笑みを浮かべた。


 「そりゃ、話は早いわ」


 「え?」


 紗奈と凌央は驚いて龍城を見た。


 「少しだけ、待っててくれ」


 そう言うと、龍城はスマホを手に取り、素早く番号を押した。指でデスクを軽く叩きながら、電話のコール音を待つ。


 「――ああ、俺だ。少し頼みがある」


 会話は短かった。龍城はすぐに電話を切ると、再び二人の方を見た。


 「なるほどな……どこかで見たことあると思ったよ」


 そう言いながら、意味深に凌央の顔を見つめる。


 「ど、どういうことですか?」


 「まあ、すぐにわかるさ」


 龍城が時計を見る。


 そして、しばらくして、事務所の扉がゆっくりと開いた。


 中に入ってきたのは、一人の男。


 鋭い目つき、無精髭が生えた顔つき、がっしりとした体格。黒いコートを羽織り、その(たたず)まいは警察官というより、どこか荒事をこなしてきた男のような雰囲気を漂わせていた。


 「久しぶりだな、凌央」


 低く、よく通る声。


 凌央は、その顔を見て息をのんだ。


 「……神崎刑事?」


 神崎刑事の視線が、まっすぐ凌央を見つめていた。その目には、厳しさと優しさ――わずかながら、何かを確かめるような光が宿っていた。


 「話は聞いた。お前、また面倒なことに首を突っ込んでるらしいな」


 その言葉の裏には、ただの警察の事情聴取とは違う何かがあった。


 担任の動き、学校の圧力、そして警察の対応――このすべてが、ひとつの線でつながり始める。


 凌央は、無意識に手を握りしめた。


 「……やっぱり、簡単な話じゃないってことか」


 神崎刑事は短く息を吐くと、ニヤリと笑った。


 「さあな。でも、お前のために動く気はない。ただし――“俺の気が向いたら”手を貸してやるかもしれん」


 何かを試すような言葉だった。


 だが、それはつまり――


 神崎刑事も、この件に“興味を持った”ということだった。


 「それで、お前らはどうする?」


 刑事の問いに、凌央と紗奈は顔を見合わせる。


 もう、迷う必要はない。


 「やりますよ。この証拠、絶対に無駄にはしません」


 その言葉に、神崎刑事は口の端をわずかに上げた。


 「……面白くなってきたな」


 物語は、ここから加速する。


世の中ってのは、思っている以上に理不尽なもんだ。


 「弁護士ってさ、法の上の平等なんて思っている奴、少ないぜ。すべては金だよ金っていう奴も多い。」


 実際、そういう考えのやつはいる。金を払える側が勝ち、払えない側は泣き寝入り。法廷は公平な舞台じゃなくて、持つ者と持たざる者のゲームみたいなもんだ。


 でも、俺はそれだけだとは思わない。確かに、理不尽なことは多い。正しいことをしているはずなのに、社会のシステムが邪魔をすることだってある。だが、それでも戦える。戦う意志があれば、道を切り開くことはできる。


 凌央と紗奈は、まだその戦いの入り口に立ったばかりだ。これから彼らは、もっと厳しい現実に直面する。学校という閉ざされた社会で、どこまで真実を暴けるのか。誰が敵で、誰が味方なのか。すべてを見極めながら、彼らは進んでいく。


 俺の役目は、その戦いに必要な「武器」を与えることだ。法律は絶対じゃないが、使い方次第では強力な力になる。理不尽な世界だからこそ、知識と戦略が必要なんだ。


 次回、彼らはさらに大きな壁にぶつかることになる。学校が本格的に圧力をかけてくる中で、果たして二人はどう動くのか。


 続きが気になるやつは、しっかり追ってくれよ。読んでくれてるのはわかってるからな。ブックマークやコメントなんかで、感想をくれたらありがたい。


 さて、そろそろ俺の出番も増えそうだな。次も楽しみにしておけ。

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