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汚れた世界で見つけた答え

人は、生まれる環境を選べません。

どんな家庭に生まれるかも、どんな名前を背負うかも、選ぶことはできません。


それでも――

未来だけは、自分の力で変えられる。


この物語は、そんな現実の中でも

「自分で生き方を選ぶ」ことを決めた主人公の成長を描いています。


もし少しでも、心に触れる部分があったなら、

どうか最後までお付き合いください。



俺が生まれ育ったのは、

誰が見ても「終わってる」と笑うような環境だった。


父は元暴力団員。

母は夜の仕事。


凌央(りお)」という名前に向けられる視線は、いつだって冷たかった。


誰かの物がなくなれば、真っ先に疑われるのは俺。


悪質ないたずらが起きれば――

「どうせあの子がやったんでしょ」


まだ何も言っていないのに、

もう犯人扱いだった。


……なんでだよ。


それが、俺にとっての日常だった。



「凌央とは友達になっちゃダメよ」


「父親がアレだから、

将来ろくでもないことするわよ」


そんな言葉が、廊下の向こうから聞こえてくる。


親の罪を、そのまま背負わされる幼い俺。

反撃すれば、決まってこう言われた。



「ほら、やっぱり暴力団の子は危ないわね」


「親と同じだわ」


だから俺は、どれだけ殴られても、押し倒されても、

ひたすら耐えることを選んだ。



反撃すれば、“親と同じ”になった気がしてしまうから。



俺が見てほしかったのは、

「暴力団員の息子」でも、「かわいそうな子」でもない。


ただの「俺」だった。


だけど、誰も俺を「俺」として見なかった。



みんなが見ていたのは、父の影だけだ。



守るどころか、母を夜の仕事に追い込み、

家の中を支配と暴力で塗りつぶしていった父。


あの男が、この世で一番嫌いだった。


小学6年の時、両親は不法な仕事で逮捕された。


俺の生活は、そこで大きく変わる。



母方の祖母の家に引き取られ、

俺ははじめて「怒鳴り声のない夜」を知った。


祖母は、いつも優しかった。


茶碗を並べる手つきも、背中をさする手も、驚くほどあたたかい。


――それでも、孤独は消えなかった。


「優しい人がそばにいるのに、

どうしてこんなに孤独なんだろう」


その問いが、いつも胸の奥に沈んでいた。


周囲の冷たい視線。

親の罪を背負わされているという感覚。


“自分がそこにいるだけで迷惑なのではないか”という罪悪感。


そういうものが、俺の心から「甘える」という選択肢を奪っていった。


祖母に本音をこぼすこともできない。

先生に相談するなんて、考えたこともなかった。


どうせまた

「両親のせいだ」

「君は悪くないよ」

と、表面だけなでる言葉で終わる。



そんなの、欲しかった答えじゃない。


祖母の家での生活は、自由だった。

父の支配も、暴力も、怒鳴り声もない。


けれど、その自由はどこか空洞だった。


心のどこかで、いつもこう思っていた。



――俺は、この世界にいていいのか?



中学へ上がっても、状況は変わらなかった。


むしろ、悪化したと言っていい。

いじめは、より陰湿になった。




ある日の昼休み。


俺はトイレの床に押し倒され、頭を靴底で踏みつけられていた。


濡れた床の冷たさ。

汚物の酸っぱい臭い。


鼻の奥に焼きついたその匂いは、今でもふとした瞬間に蘇る。



「なんで生きてんだよ、こんなクズが」


笑い声が、頭上から降ってくる。



「やり過ぎるなよ……」


その声は、明らかに“子どもの声”じゃなかった。


(……まさか……大人がいるはずないよな……)



ただ静かに、耐える。

ただ静かに、時間が過ぎるのを待つ。


反撃しない“いい子”でいることが、

唯一、自分を守る方法だと思っていたから。



――その時までは。


靴底が、頭蓋にめり込むような衝撃と共に、

俺の中で、何かがプツンと切れた。


「美しくあれ」が、俺のポリシーだ。


身なりも、言葉も、生き方も。

父のような、汚い大人には絶対になりたくなかった。


なのに。


こんな汚れた場所で、踏みにじられて。

笑われて。

人間扱いもされなくて。


耐えられるわけが、なかった。



「……おい」


気づいたら、口が勝手に動いていた。


「てめえら。やっていいことと、悪いことくらい、判別つけろよ」


床に手をつき、ぐっと身体を起こす。


誰かが扉から廊下に出ていった気がした。


視界に映るのは、数人の“加害者”たち。


彼らの顔を、俺は一人ずつ順番に見ていく。



「なんだよ、お前。急に強気になりやがって」


一人が笑いながら言った。

けれど、その笑いにはさっきまでの余裕はない。



「お前らの顔も、名前も――」


俺は、静かに告げる。


「お前らが忘れても――俺は忘れねぇ。」



それは、呪いでも、脅しでもない。


いじめた側は、やったことを忘れる。



「そんなこともあったよね」と、笑い話に変えてしまう。



けれど、いじめられた側は違う。



笑い声も。

汚物の匂いも。

足音も。

床の冷たさも。



全部、ぜんぶ、穴が空くほど、

心と身体に焼き付いて離れない。



――俺は、多分、一生忘れない。



だからこそ、決めた。


この理不尽な世界で、

俺は「自分の強さ」で立ち向かう。



そして、同じように苦しんでいるやつがいたら、

今度は黙って見ているだけの俺で終わらない。



汚れた世界で見つけた答え。


あの日、俺は“被害者でいること”をやめた。



それは――

自分自身の強さと、他者を守る勇気だった。



最後までお読みいただきありがとうございます!


今回の話では、凌央が自分の強さに目覚め、

理不尽な世界に立ち向かう決意を描きました。


彼の成長の始まりとも言えるエピソードです。


いじめや偏見に苦しむ中で、

「汚れた世界でも美しく生きる」というテーマを感じ取っていただけたなら幸いです。


次回は、転校生・紗奈が登場します。

清楚でおとなしい外見の紗奈ですが、

その裏には彼女の家庭環境や性格が色濃く影響しています。


白黒はっきりした彼女の性格が、学校の空気をどう変えるのか。

そして、彼女がいじめに立ち向かう姿に、凌央がどのように心を動かされるのか――。


紗奈との出会いが、凌央にとってどんな転機になるのか。

ぜひ次回もお楽しみに!

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