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鳥籠の"鳥"

作者: 燈華
掲載日:2024/08/31


毎朝貴方は鳥籠の中のあたしに声をかける。

「おはよう、僕の〈小鳥〉」

「おはよう、貴方」

「今日もご機嫌だね」

「貴方も元気そうね」

そんなたわいもない会話。

それでもあたしたちにとっては大切な会話だった。


貴方にはあたしがいて、

あたしには貴方がいる。


それがすべてだった。


あたしたちは飽くことなくおしゃべりをする。

貴方はとても寂しがり屋で。

あたしはとってもおしゃべりで。

二人でいれば賑やかで、孤独でなくて。


伸ばされた指の先にちゅっとキスをする。

いつでも心は傍にいるわ。

貴方は安心して微笑むの。


いつでも真夏の空のように濃い空色のドレスを着て、身綺麗にしているのよ、貴方のために。

貴方がくれたアンクレットもほら、いつも身につけているわ。繊細な細工が美しいの。

「僕の〈小鳥〉、今日も美しいね。君が世界で一番美しい」

「嬉しいわ。ふふ、貴方に言われるのが一番嬉しいわ」




ここはあたしたち二人だけの楽園だった。

貴方にはあたしがいて、

あたしには貴方がいて、

それだけで完成されていた。

二人でいれば他に何もいらなかった。








でも、そう思っていたのはあたしだけだったのね。








貴方は女をこの部屋に連れてきた。

あたしたち二人の楽園に。



貴方は緊張していて、

女は物珍しそうに部屋の中を見回していた。

それでも徐々に打ち解けていくのが目に見えてわかった。

二人で楽しそうに微笑(わら)い合ったりして。

あたしはただそれを見ていた。

女はあたしに目もくれなかった。

そう。

あたしは眼中にないってわけね。

貴女はきっと幸せなのね。

だったら彼じゃなくてもいいじゃないの。

何で彼なのよ。

あたしの叫びは届かない。


その女にもアンクレットを贈るのかしら?

それは……嫌だわ。

せめて違うものにして。

あたしが貴方から贈られた唯一のものなんだもの。




少しずつ。

崩れていく音がする。

貴方には聞こえていないのね。




ああ、貴方は幸せなのね。

あの女に何を贈ろうか考えて、

嬉しそうに二人で出掛けていって、

笑って悩んで喜んで落ち込んで、

そしてーーあたしのことは見ない。




ーー愛しているよ。

ーー世界一大好きだ。

ーー二人でいれば寂しくないよ。

ーーずっと一緒だよ。


そう言ってくれたのに、忘れてしまったのね。


ーー愛しているわ。

ーー世界一大好きよ。

ーー二人でいれば寂しくないわ。

ーーずっとずっと一緒にいるわ。


あたしは覚えているわ。

その言葉は今でも嘘ではないわ。

嘘には、したくないわ。






でも、貴方はどんどんあたしへの関心を薄れさせていく。

あたしの存在が薄れていく。




もう「僕の〈小鳥〉」とも呼んでくれない。




そう。もうあたしはいらないのね。

わかっていたわ。

いつか貴方はあたしを必要としなくなるってことは。




さようなら。

あたしじゃない誰かと幸せになってね。





*





窓辺に置かれた鳥籠。

その中から溶けるように青い小鳥が消えた。

真夏の空のような濃い綺麗な空色の羽を持つ鳥だった。

籠の中には羽の一枚も残らない。

初めからそこには何もいなかったかのように。


こつん。


ただ一つ、繊細な細工の脚輪(アンクレット)だけが、何もない籠の中に残された。


読んでいただき、ありがとうございました。

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