鳥籠の"鳥"
毎朝貴方は鳥籠の中のあたしに声をかける。
「おはよう、僕の〈小鳥〉」
「おはよう、貴方」
「今日もご機嫌だね」
「貴方も元気そうね」
そんなたわいもない会話。
それでもあたしたちにとっては大切な会話だった。
貴方にはあたしがいて、
あたしには貴方がいる。
それがすべてだった。
あたしたちは飽くことなくおしゃべりをする。
貴方はとても寂しがり屋で。
あたしはとってもおしゃべりで。
二人でいれば賑やかで、孤独でなくて。
伸ばされた指の先にちゅっとキスをする。
いつでも心は傍にいるわ。
貴方は安心して微笑むの。
いつでも真夏の空のように濃い空色のドレスを着て、身綺麗にしているのよ、貴方のために。
貴方がくれたアンクレットもほら、いつも身につけているわ。繊細な細工が美しいの。
「僕の〈小鳥〉、今日も美しいね。君が世界で一番美しい」
「嬉しいわ。ふふ、貴方に言われるのが一番嬉しいわ」
ここはあたしたち二人だけの楽園だった。
貴方にはあたしがいて、
あたしには貴方がいて、
それだけで完成されていた。
二人でいれば他に何もいらなかった。
でも、そう思っていたのはあたしだけだったのね。
貴方は女をこの部屋に連れてきた。
あたしたち二人の楽園に。
貴方は緊張していて、
女は物珍しそうに部屋の中を見回していた。
それでも徐々に打ち解けていくのが目に見えてわかった。
二人で楽しそうに微笑い合ったりして。
あたしはただそれを見ていた。
女はあたしに目もくれなかった。
そう。
あたしは眼中にないってわけね。
貴女はきっと幸せなのね。
だったら彼じゃなくてもいいじゃないの。
何で彼なのよ。
あたしの叫びは届かない。
その女にもアンクレットを贈るのかしら?
それは……嫌だわ。
せめて違うものにして。
あたしが貴方から贈られた唯一のものなんだもの。
少しずつ。
崩れていく音がする。
貴方には聞こえていないのね。
ああ、貴方は幸せなのね。
あの女に何を贈ろうか考えて、
嬉しそうに二人で出掛けていって、
笑って悩んで喜んで落ち込んで、
そしてーーあたしのことは見ない。
ーー愛しているよ。
ーー世界一大好きだ。
ーー二人でいれば寂しくないよ。
ーーずっと一緒だよ。
そう言ってくれたのに、忘れてしまったのね。
ーー愛しているわ。
ーー世界一大好きよ。
ーー二人でいれば寂しくないわ。
ーーずっとずっと一緒にいるわ。
あたしは覚えているわ。
その言葉は今でも嘘ではないわ。
嘘には、したくないわ。
でも、貴方はどんどんあたしへの関心を薄れさせていく。
あたしの存在が薄れていく。
もう「僕の〈小鳥〉」とも呼んでくれない。
そう。もうあたしはいらないのね。
わかっていたわ。
いつか貴方はあたしを必要としなくなるってことは。
さようなら。
あたしじゃない誰かと幸せになってね。
*
窓辺に置かれた鳥籠。
その中から溶けるように青い小鳥が消えた。
真夏の空のような濃い綺麗な空色の羽を持つ鳥だった。
籠の中には羽の一枚も残らない。
初めからそこには何もいなかったかのように。
こつん。
ただ一つ、繊細な細工の脚輪だけが、何もない籠の中に残された。
読んでいただき、ありがとうございました。




