出会いは突然に
「うぅ......ここは?」
目を覚まし、地面から体をムクリと起こす俺。
どうやら、無事にタイムスリップに成功したらしい。
にしても.....
「何で路地裏?」
そう思いながら、立ち上がる俺。
そして、路地裏から出てみると......そこは、古き良きヨーロッパの街並みが広がっていた。
「おぉ......ここが1907年のドイツなのか」
何というか、映画みたいな街並みだな。
でもって、街の人たちから物凄い視線を感じる。
まぁ、この時代で俺の格好は不自然だし、何より、日本人だから、浮いてて当然.....か。
でも、ビー玉.......じゃなかった、ラプラスがくれた特典のおかげで、ドイツ語が日本語のように聞こえるのは、ありがたいな。
「そこは感謝しないとな」
そう呟きながら、歩いていると......目の前に、大きな橋が見えた。
そして、その橋の上には、一人の青年がいた。
.......何か顔色が暗いな。
「あの.....大丈夫、か?」
俺がそう尋ねると、青年は。ゆっくりとこっちに顔を向いた。
......何というか、どっかで見たことがあるような顔だな。
気のせい.....なのか?
「......大丈夫、じゃないです」
だよな!!
「えっと.....その、何かあったんだ?」
俺がそう尋ねると、青年は、こう呟いた。
「......した」
「え?」
「大学に.....落ちました.......」
「お、oh.......」
確かに、それは落ち込むわな。
「せっかく、画家を目指してウィーンに来たのに.....課題提出不足で不合格....これじゃあ、僕は何のためにここに来たんですかね.......」
悲観的な様子で、そう言葉を漏らす青年。
......よっぽど、受かりたかったんだろうな。
「.....絵、好きなんですか?」
「あ、はい。でも.......」
「でも?」
「どちらかと言えば、建築家になった方がいいのではないか?と言われだから、どうしようと思っていて.....」
俺の言葉に対し、青年はそう言った後、自分のスケッチブックを見せた。
そのスケッチブックには、たくさんの建物の絵が描かれていた。
「うわっ!?凄っ!?」
「そう.....ですかね?」
その言葉を聞き、照れる青年。
そして、続け様にこう言った。
「僕、こういう建物は好きなんですけど、どうにも人物デッサンが苦手で.....」
なるほど、だから建築家になれって言われたのか。
「でも、絵は好きなんですよね?」
俺がそう聞くと、コクリと頷く青年。
「僕は、母の前で画家になるって宣言したんです。だから.....何としても、画家にならないと.......」
川の方を向きながら、そう呟く青年。
その目から、何となく光が消えているような感じがした。
「それって......誰かに認められたいから、目指しているんですか?」
「......え?」
俺の言葉に対し、そう言葉を漏らす青年。
どうやら、図星だったらしい。
「誰かに認められたくて絵を描くなんて、そんなの、面白くないじゃないですか。どうせだったら、楽しく書きましょう!!」
この人の才能は、本物だ。
だからこそ、その才能を埋めるわけにはいかないのだ。
例え、それが俺のエゴだとしても。
「絵は楽しく描かなきゃ、面白くない......か」
俺の言葉を聞き、青年はそう呟いた後
「僕は、最低な奴だ。学校を中退し、妹に手を上げ、挙げ句の果てには、もう死んでしまった父親を見返そうと、絵の道を極めようとした。そんな僕が......画家になれるわけがない。本当に、馬鹿な人間です」
と、ポロポロと涙を流しながら言った。
「ご迷惑をおかけして、すみません」
そう言った後、その場を立ち去ろうとする青年。
その姿を見た俺は、咄嗟に、この言葉を発した。
「何言ってんだ!!俺は、君の絵が好きだ!!だから.....一緒に漫画を描こう!!」
「......はぇ?」
俺の言葉を聞き、思わず言葉を漏らす青年。
「君の才能は、未来は、ここで終わらせたらダメな代物だ!!だから、一緒にやろう!!」
俺が放った言葉一つ一つは、紛れもない事実だ。
俺自身、趣味で漫画を描いていたから、絵やストーリーを書くことは出来る。
だからこそ......画家とは違う道で、その才能を活かしてほしい。
それが、俺の本音だ。
「こんな僕でも.......良いんですか?」
「もちろん!!」
「.......ありがとう、ございます」
そう言った後、涙目になりながらも、笑顔になる青年。
「そういえば、名前を聞いてなかったな。俺はイオリ、イオリ・マイヅルだ」
「イオリ.....素敵な名前ですね」
「そ、そうですか?」
青年の言葉に対し、少しだけ照れる俺。
「僕の名前は、アドルフ・ヒトラー。どうぞよろしくお願いします」
......え?
「えぇぇぇぇぇ!?」
アドルフ・ヒトラーは、父親との確執が少なからずあったらしい。
作者個人の解釈としては、父親に認められたいという思いの延長線で、美術アカデミーを受験したのではないか?と思っています。
解釈違いでしたらすみません!!