3話 山道 Ⅰ
2023年春
「先生、こんな山道なんて聞いてないですよ」
「山は大体そんなもんだろ」
「大体なんでこんな山の中に学校建てる必要があるんですか。もっといい場所あったでしょ」
こんな場所だと街に出るだけでも大変だ。例え山の中に建てないといけない理由があるとしても山の奥地に建てる必要はないはずだ。
「魔法を学ぶにはちょうどいい場所だと思うけどな」
「どこがですか!?」
険しい道を転ばないように一歩一歩踏みしめながら歩いていく。
「魔法を誤発動したときの一般人の被害がほぼ0になるだろうが」
あーそういうことか。
一般人に魔法についての情報が知られていないことから考えると魔法の詳細を隠すという意図もあるのかもしれない。
「あと反魔術師から攻められにくいってのもあるかもな」
「でもそれ逆効果じゃないですか?生徒が奇襲されやすいような気がするんですが…」
山の中は木々が多く、視界がさえぎられる。そのせいで奇襲をしようと思えばいつでもできるようにみえるのだ。
「それについては問題ない。ここら一帯は魔力で覆われているんだ。その魔力に生徒・先生以外のものが触れるとすぐに検知されるからな。」
「検知されたあとはどうなるんですか?」
「反魔術師だと魔力が判断した場合は教員に連絡が入る。連絡をうけた教員が対処するってわけだ。」
過去にそういうことがあったのだろうか。和澄先生の言い方だとそんなふうに感じる。
「ふーん、で、結局その魔力とか魔法ってなんなんですか?」
後々話すと言われた後、未だ話してもらってないのだ。
「あ?まだ話してなかったか?」
先生は忘れていたようだった。
「じゃあ、少し授業をしようか。」
先生は歩きながら話を続けた。
「まず大前提からだ。魔力には属性がある。」
「火とか水とかそんな感じですか?」
漫画とかでみるのと同じように現実世界の魔法にも属性があるらしい。
「そうだ。計4つの属性で形成されている。」
先生は立ち止まり振り返った。そして向かい合うような形になる。
「俺の場合は水。他には火、土、雷属性がある。」
そう言いながら手を前に出し、その上に水を生成した。
「だが、属性の中でもいくつかに種類が別れていてな、人間は基本、魔法属性をいくつかに分けた中の1つしか持つことができない。」
手の平を握り、水を消した。
そして再び前を向き、歩き始めた。
「火の場合は熱と火
水の場合は風と水と氷
土の場合は自然と土と金属
雷の場合は電気と光
この計10種類の中から1つを生まれながらに持っているんだ」
ふーん、と思いながら歩いていると急に周囲の木々が凍りついた。
「しかし、何事にも例外はある。俺がその代表例だな。」
「・・・・・・もしかして2種類の魔力を持っているんです
か?」
先生の話を聞く限りだと水という属性を持っていても風という種類なら水と氷は使うことができないということになる。だが、さきほど先生は手の平に水を生成してみせた。周囲の木々を凍らせる事もできていた。「水」という種類しか持っていないのなら「凍らせる」ということは不可能である。
「よくわかったな。その通り、俺は水と氷の2種類の魔力を持っている」
先生は急に立ち止まった。そのせいで先生の背中に顔をぶつけてしまった。
「イタタタタ…」
痛みで顔をおさえた。
「急に止まらないでくださいよ」
そう言いながら再び前を向く。
すると巨大な壁が見えた。
「木?」
よく見てみると巨大な木が倒れて道を塞いでいた。あまりにも大きく、一瞬壁かと思うぐらいだった。
「これ・・・通れなくなったんじゃ・・・」
ここを通れないのなら学校にたどりつく方法はもうない。他の場所は整備されていなくて、とても通ることはできるような状態じゃないのだ。
「うん。ちょうどいいな」
「え?」
何がちょうどいいのだろうか。自分には道を塞ぐ障害物のようにしか思えなかった。