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愛故



「これがスキルブックになります」



 このギルドのメンバーになりたいと受付係のセリナさんに告げた後、俺とイオは酒場の奥のカウンターまで案内された。


 どうやらこちらのこじんまりしたスペースの方が、ギルド関連の施設らしい。


 そこでメンバーになるにあたっての注意事項や(怪我や生死は自己責任など)、デリアルークについての大雑把な話を聞き、いざメンバーになるという段で、セリナさんは一冊の本を取り出してきた。



「シキさんはまだスキルの判別をしたことがないとのことなので、この本を使ってスキルの詳細を確認します」



「……はぁ」



 これが、スキルブック。

 このギルドに入る最大の目的――それがこのスキルブックだった。


 イオ曰く、この世界で自分のスキルを把握する方法は、大きく二つ。


 一つは、スキルを鑑定する能力を持つ者に見てもらう方法。しかし、鑑定スキルを持つ人物を探すのは容易ではないそうだ。


 もう一つの方法が、スキルブックを使うこと。

 これが最もポピュラーな手段だという。


 では、そのスキルブックなる本をどのように入手するかと言えば、実に簡単らしい。


 カザス国内のギルドに入る際はスキルブックの提出が求められるそうなのだが、まだ本を持っていない者はその場でスキルブックをもらえるというのだ。


 もちろん、デリアルークもそのギルドのうちの一つ。


 こうした経緯で、俺はここのメンバーになることにしたのだった。



「……」



 セリナさんから手渡された本を一通り見てみるが……背表紙と裏表紙はおろか、中まで完全に白紙だった。


 これじゃ、ただの紙の束だ。



「あの、これどうしたらいいんでしょうか。今のところ日記を書くか、白ヤギさんと黒ヤギさんに食べさせるしか使い道がないように思えるんですけど」



「その本の適当なページを開きながら、しばらく目をつむっていてください」



 華麗に無視された。

 異世界にはないのだろうか、やぎさんゆうびんの歌。



「……」



 俺は黙って本の真ん中あたりのページを開き、目をつむる。


 そのまま三分ほど過ぎた頃、とんとんと腰の辺りを突かれた。


 イオが目を開けるタイミングを教えてくれたのだろう……さてどんなことが書いてあるのかと、期待しながら目を開ける。


 イオのような便利な能力もいいし、もっと戦闘に直接役立つ能力だとなおいい。


 進級後初めて新しい教室に入る学生のような心持で(もちろん想像だが)、俺は本に書かれている内容に目を通す。



 ・スキル『(オンリーラブ)

 ・Fランク

 ・愛する者に危険が迫ると、それがわかる。



 以上。


 以上だった。



「……えっと」



 何、これ?


 これだけ?


 こんなの、ちょっと勘のいいくらいのただの人じゃん?


 一縷の望みをかけてぺらぺらと違うページをめくってみるも、その三行以外に文言はなかった。



「……お、おめでとうございますー。シキ様のスキルは、えっと、Fランクですね」



 動揺を隠せずにいる俺に対し、セリナさんは仕事を進めようとする。が、彼女もまた動揺しているようだ。



「……Fランクって、下から数えた方が早いですか?」



「えっとぉ……」



 気を遣っているのか、セリナさんは口ごもりながらイオの方をちらっと見る。

 それを受けて、イオは俺の背に手を当て、目を伏せながら言った。


「シキさん。スキルはSが最上、後はAからFランクしかありません」



 わかりますよね、とでも言いたげに、イオは優しく背中を叩いてくる。



「……最低ランクか」



 そりゃまあ、この内容だったらそうだろうよ。


 ……にしても、愛する者ったってなぁ。


 俺にとって他人とは、害をなすかなさないか。

 殺すか殺さないか。


 その程度の判断基準でしかない。


 自慢じゃないが生まれてこの方十八年、誰かに愛されたり誰かを愛したりした経験など皆無だ。


 むしろ、その対極にいた。


 愛を奪う側の人間。

 誰かの愛する者を、殺す側の人間。


 最大の皮肉だなと、せめて格好つけてシニカルに笑うしかない


 『愛』なんて。


 字面こそ知ってはいるが、内実が全く不明だ。知識に経験が伴っていないから、『愛』という言葉だけが宙ぶらりんになって空虚さを纏っている。


 これじゃ、スキルなんてあってないようなもんじゃないか。



「一応、冒険者として登録はさせて頂きますが……そうですね、シキ様は実績がない状態ですので、スキルと同じくF級冒険者になります」



「それももしかして……」



「……はい、一番下のランクです」



 最早驚きもしなかった。


 いや別に、Sランクになりたかったとかそんな不遜なことは言わないけど、でも一番下って。


 Fて。


 これでも、元いた世界では名うての殺し屋一族だったんだが……まあ自分から家を出ていったから、その肩書を使うのはダサすぎるけど。



「えーっと……では、次はイオ様のスキルブックですが……」



「それならここに」



 言いながら、イオは背負っているリュックから一冊の本を取り出す。

 あれが、彼女のスキルブックなのだろう。



「はい、確認させて頂きますね」



 セリナさんは本を受け取ると、ちらっと俺に目をやる。



「あ、シキさんも一緒に見て大丈夫です」



「はい、かしこまりました」



 俺がイオのスキルブックを見てもいいのかという意味の目配せだったらしい。


 まあ、この世界においてかなりのウェイトを占める個人情報であるから、そういった気遣いは当然なのかもしれないが……。


 俺の時は何も気にしてなかったよね?

 ランクが低すぎてそれどころじゃなかったのかな?


 少し拗ねつつ、俺もイオのスキルブックに目を通す。


 一緒に街へ向かう道程では、中身を見せてくれなかったからな……興味がないと言えば嘘になるのだ。


 えーっと、なになに?



 ・スキル『死の商人(リーサルボックス)

 ・Cランク

 ・武器を収納/召喚できる武器庫を生成できる。武器庫内の容量は、スキルの練度に比例して増加する。




「……」



「イオ様のスキルはCランクなんですね、素晴らしいです! 是非うちのギルドに入ってください!」



 セリナさんの反応を見るに、Cランクのスキルというのは中々珍しいのだろう。


 ふふんっと鼻を鳴らして俺を見上げるイオ。


 うん、殺しちゃおうかな?


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