到着
イオと出会ってから、歩き続けること丸二日。
無事にデリアの街までやってきた。
彼女の目算だと三日はかかるかもとのことだったけれど、両親にもらった健脚で道なき道を切り開き(親に感謝はしないが)、もっと言えばほぼ寝ずの行軍で、二日で辿り着いたのだった。
想像していたよりも立派な街並みで少々驚く……建造物や街道の感じから、中世ヨーロッパのような印象を受けた。
ちなみに道中、さんざん警戒しながら進んだが山賊に襲われることもなく(主な敵は得体の知れない虫だった。痒い)、俺たちの行軍は順調だったと言っていいだろう。
彼女と街を目指しながら、時間だけは有り余っていたので、俺はこの世界のことについていろいろと質問をした。
電気工学的な文明レベルは大分未発達であること(携帯やパソコンなんて存在しない)。
代わりに、『スキル』と呼ばれる能力やそれに付随する文化が発達していること。
スキル――イオが実際に見た方が早いと言って、披露してくれた技。
人外の所業だった。
俺が生きていた世界でも、妖術や忍術、呪術や殺法術といった形で現実離れした技を使う殺し屋はいたが、彼女のレベルまでいくともう乾いた笑いしか出ない。
何もない空間から武器を召喚する――『死の商人』。
あれを目の前で見せられては、スキルとかいう眉唾な能力の存在を信じないわけにはいかなかった。
そしてどうやら、その能力は俺にも備わっているらしい。
『この世界に生まれた人、転生した人も含めて、誰でも一つスキルを持っているんです』
『ってことは、俺も持ってるわけだ。あんたみたいなとんでもびっくり人間能力』
『とんでもって……まあ、そうです。シキさんも転生した際にスキルが発現しているはずです。この世界で生き抜くには自分のスキルの把握が不可欠ですから、デリアの街に着いたら冒険者ギルドに行きましょう』
『ギルド……ソシャゲでしか聞いたことないな』
『ソシャゲ……?』
『人の金と時間を奪う悪魔みたいなもんだ』
『そちらの世界には物騒なものがあるんですね……』
こんな会話の流れを経て(脚色したかもしれないが)、俺とイオはデリアの街の冒険者ギルド――【デリアルーク】の門を叩いていた。
イメージ通りと言うか何と言うか、建物の中に入ってみると、そこには木製の机と椅子が並び、さながら西部劇に出てくる酒場のようだった。
その酒場の奥、カウンターにいる女性が、俺たちの姿を見て駆け寄ってくる。
「いらしっゃいませー! ここら辺では見ない顔ですけど、もしかして旅行者の方ですか? ようこそデリアルークへ! 二名様ですか? おタバコはお吸いになられますか、って、どこの席でも吸えるんですけどね。当店一番人気はやっぱり朝採れたての卵を使ったオムライス! 絶品ですよ! さらに二番人気は……」
こっちの邪険な表情に気づかず、どんどん言葉を捲し立ててくるお姉さん。
「あ、いや……」
なんだ、ギルドじゃなかったのか、ここは。
ただの飲食店みたいだけど……。
お姉さんの迫力ある接客に気圧されながら、イオの方を見る。
目を逸らされた。
くそが!
「……当店八番人気と言えば、やはりデリア川で釣ってきたモチョンゲのムニエルですね。あの芳醇な香りがたまりません! 九番人気は……」
「あー、あのちょっとすみません」
このままでは全メニューを紹介されそうな勢いだったので、申し訳ないが静止させてもらう(モチョンゲって何?)。
「ここって、【デリアルーク】ってギルドじゃなかったですかね……もし違うようならそこの場所を教えて頂けると助かるんですが……」
「あ、ギルドの方に御用ですか。すみません、最近酒場の方が繁盛しているのでそちらのお客様かと」
ケロッとした口調でメニューの紹介をやめ、コホンと咳払いをするお姉さん。
「ようこそデリアルークへ! 私はギルド受付係のセリナと申します。以後お見知りおきを」
「私はイオ・ノーランと言います。こちらはシキ・ソウジさんです」
イオが急に喋り出した。
話の主導権は自分が握りたいらしい……さっきまで目を逸らして無視を決め込んでいたのに、現金な奴だ。
「はい、イオ様にシキ様。本日はどういった御用でしょうか? ご依頼でしたら任務のランクに応じて依頼料を頂く形になりますが」
「いえ、今日お邪魔させてもらったのは、依頼者としてではありません」
イオは、そのない胸を張りながら続ける(失礼)。
威厳を出そうとしているらしい。
可哀そうに、一切出ていないが。
彼女の中では威厳たっぷりになっているのだろう、普段より調子を落ち着けた声で言い放つ。
「私とシキさんを、こちらのギルドのメンバーにして頂きたいのです」
お酒は二十歳になってから。