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邂逅



 殺した。


 だってうるさかったんだもん(てへぺろ)。


 終始要領を得ない受け答えだったが、さきほど話を聞いた男が言うには、北に進んだ先に街があるらしい。


 ので、とりあえずそこを目指すことにした。



「しっかし、ほんとにどこなんだよ、ここは……」



 あの世紀末三人組を見る限り、天国じゃないだろうし。

 かと言って地獄のイメージとはかけ離れた、自然豊かな景色だし。

 兎にも角にも、北にあるという街に向かうしかないようだ。


 ビバ、文明。



「……腹、減ったな」



 道というにはお粗末すぎる山道を行きながら、己の生理現象に逆らえずにお腹を鳴らしてしまう。

 服も返り血で随分汚れちまった……この状態で街に入ったら職務質問どころじゃ済まなさそうだ。



「……うん。多分、あっちかな」



 地形の移りと匂いを頼りに、恐らく存在するであろう川に寄り道することにした。


 ……こんなことなら、サバイバル訓練、もっと真面目に受けるんだったな。

 でも虫嫌いだし。



「……」



 強盗(盗賊?)三人組の持ち物は粗方奪ったので、中身を確認してみるが、どうにもわけのわからない品が多い。


 見たことのない瓶に入った液体(薬?)や、恐らく通貨であろう金貨、拳大の紫色の球。


 まあ、通貨らしきものが手に入ったのはいいことだ。町に着いたら存分に使わせて頂こう。



「お、川発見」



 杜撰なサバイバル知識で不安しかなかったが、あにはからんや、俺は無事に清流を見つけることに成功した。


 幸い、目に見える範囲に魚も泳いでいる。


 ……何だか見たことない姿形な気もするが。


 まあきっと、魚ってこんなもんなんだろう。加工前の生きている時点の食材のことなんて、気にしなければ目に入ってこないものだ。


 世の中には、サケの切り身が海を泳いでいると思っている子どももいるというし。


 一次産業に従事する方々に敬意を表しつつ、持ってきた矢で魚を捕えようと構える。



「……っし」



 ヒット。

 意外と漁師の才能があるのかもしれない。



「あとは、火か……それに、服も洗わねえと」



 さすがに、得体のしれない形の魚を生のまま食す勇気はない。

 俺は返り血で汚れた服を脱いで流水にさらしつつ(パンツ一丁)、火おこしの方法を考える。



「木を擦ればいいんだけっか……んな都合よくいくもんかねぇ」



 誰でも一度は何かの媒体で目にしたことがある一般的な火のおこし方を想起しつつ、俺は溜息をついた。


 もちろん、これから慣れない火おこしをしなければいけない憂鬱さもそうだが。


 しかし、もう一つ片づけなければならない大きな問題の方に、ため息をついたのだ。


 俺の後方八十メートル辺り。最初は気のせいかと思っていたが、確かに何者かがこちらを見ている。

 殺意や敵意を向けられているわけではなさそうなので、無視していたが。


 さっき魚を捕えた時から、一転して強い害意を感じる。



「……ったく。次から次に何なんだよ」



 俺はある程度血を濯いだ衣類を畳んで川岸に置き、魚を突いていた矢を持つ(大活躍だ)。


 そして一呼吸おいてから、一気に後方へ駆けだした。


 謎の人物がいる位置まで、大体二、三秒。茂みの中を駆けるという地形不利を加味しても、五秒で到達する。


 奇襲を仕掛けるには少し時間がかかりすぎるが、しかし余りにも低レベルな追跡術を見るに、追手の実力はそれほどでもないという判断だ。



「……!」



 相手は俺が走り出したのを受けて身を隠そうとしたのだろうが、急速な間合いの詰めに驚いたからだろう、ガサガサと大きな音を立てて移動している。


 そんなんじゃ位置が丸わかりだ――やはりそこまで腕の立つ人物ではないようだ。


 というか、まるで素人。


 俺はガサガサと慌てて逃げる後ろ姿を目で捉え、頭上の木の枝を軸に跳躍し、そいつの前方へ回り込んだ。



「……きゃっ!」



 急に上から降ってきた俺に驚き、逃げていた人物は尻もちをつく。


 ……というか。


 後ろ姿を見た時から気づいてはいたが、女だった。


 それも、精々十二、三歳の少女だった。



「……いったぁい」



 転んで打ち付けた臀部を気にする少女は、はっと目をあげて俺の方を見る。


 目が合い、俺は呼吸を止めてしまう。


 驚愕、してしまった。



「……」



 その瞳は。


 その少女の瞳の色には、確かに見覚えがあった。


 息を飲むほど澄んだ碧。


 この世の何に例えても、それが億万の価値のある宝石や未踏の絶景であっても、失礼に当たるような。

 

 そんな荘厳さも併せ持った、碧。



 俺は一度、この碧い瞳を見たことがある。



 しかし、初めて見たその目は。



 もう二度と開くことはないのだけれど。


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