そうだ、タバコを吸おう。
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僕は今、『20年前の自分』からインタビューを受けている。
インタビュー?というと言い回しとしちゃ、少しヘンかもしれんが、とにかくそんな感じなんだ。
彼は時々僕の前にやってきて、当たり前のようにお茶を飲んでたりする。小学生のクセに緑茶が好きなところなんて、間違いなく幼き頃の僕だ。
幻覚かどうかなんて知らない。
ただ、こないだ、ツマミにでもしようと思って買っといたチートスが、まるまる袋ごと食われてしまってたところをみると、ヤツの仕業に違いない。
今日も彼はガチャリとドアを開けて、ギギーと部屋の中に入ってきて、突然こう言ったんだ。
「ねぇ、タバコのおいしさを具体的に説明してよ」
具体的?
…という言葉に僕は一瞬戸惑う。僕は「吸う人間」だ。
ただ自分で言うのもナンだが、大好きで吸ってる!という感じではなく、気がつけば口にくわえ、火をつけてないと、なんか落ち着かない、そんな惰性で、ふーふータバコを吸っているのだ。
「何がおいしいの?どうおいしいの?」
僕は非常に困る。
そういう時、人はたいてい「何か似たような別の快楽」に置き換えて説明しようと試みる。
ただ、ことタバコに関しては、似たような快楽を見つけだすのは、ナカナカ至難なような気がした。
というか、そこまでタバコって美味いものなのだろうか?
確かに、たまにストロングに美味い瞬間とかもある。ホッとひといきついた時とか。
ただ、日々、日常の中、惰性で吸い続く一本は、とりたてて強烈な快楽を与えるものではない。
そして今目の前にいるのは、小学生の僕だ。
だから『小学生』でもわかる快楽に置き換えて説明しないと、恐らく理解はしてくれない。
『深呼吸に近いかな…』
僕は心でそう思ったが、イヤ違う。深呼吸なんて中毒性や快楽なんて無いじゃないか?
『運動とかした後の、休憩中に飲む水とかに似てるかな…』
いや、それはもっと違う。タバコの快楽は、もっとダークな響きだ。
小学生にタバコの喜びを説明するのは、実に困難が伴う…
僕は半ば絶望的な気持ちになり始めていた。
それに対してセックスの快楽を小学生に説明するのは簡単かもしれない。
「がまんしたおしっこをまとめて出すような感覚だよ」
といえば、なんだか通じるような気がする。
あ、これはセックスの快楽じゃなくて、射精の快楽か。
ただ、こんな事言うと、僕は性行為と排泄を同じ次元で考えてると思われてしまうようでなんかイヤだ。
さて、タバコの話。
僕はひとつ、一番的確ではないかと思える、『たとえ』を出してみる事にした。なんとなく小学生でも分かるんじゃないかと思う『たとえ』だ。
「指しゃぶってると、なんか落ち着かなかった?あれと似たようなモンだよ。」
僕は答えた。
指しゃぶりが一番近いんじゃないかな?
そう言うと、彼は "ほーん" というぼんやりした顔を見せて、一様の納得を示した。
「じゃ大人になってもあんまり変わらないんだね。」
と彼は言う。
そしてて彼は、「ただ、指しゃぶってると絶対やめなさい!って怒られて、止められるよね。」と僕に言った。
「そうだね、タバコも似たよーなモンで、吸いまくってると絶対やめた方がいいよ!って忠告されるね。」と僕は答えた。
「じゃ大人になってもあんまり変わらないんだね。」
と彼は言った。
「そうだね、変わらないね。」
と僕は答えた。
確かに変わらないね。
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