第六話 中条日菜子は調べたい
放課後、僕達はいつもの様にこれからどうするだのテストがやばいだのと話をしていた。それにしても今日はいつもより教室がざわついているような...。
「まったく、どこのクラスもあの話で持ちきりだな。」
そんな周りの様子を見て、荒垣くんが言った。
「あの話?」
何の事かさっぱりだったので素直に聞き返した。
「あぁ、幽霊事件だよな?やっぱガッキーのクラスでも噂になってんのか。」
回答したのは香取だった。なるほど、夏にピッタリの怪談話か。
「俺のクラスも、どころか学校中で大騒ぎだろ。一年も三年も、皆その話してたぜ。」
話を聞いてみると、どうやら学校内で不気味な声や音、そして黒い影を見たという話が多発しているようだ。それらが確認されるのはいつも決まった場所。校舎の改築、増築によって使われなくなった旧棟である。元々は音楽室や家庭科室等がある多目的棟だったのだが、老朽化に伴って放棄された。今でも職員や一部の部活が倉庫として使用しているが、決められた区画以外は危険なので立ち入り禁止となっている。いかにも、といった感じの場所だ。
「昔の俺なら絶対信じなかったけどな。中条の件があるから、もしかしたらって思っちまうよな。」
「だよなー。見たって人が沢山いるなら本当にいるのかもしんねーな。」
荒垣くんと香取がそう話していると、
「...ねぇ、気になるなら調べてみない?」
意外にも、そう提案したのは中条だった。
「いや、調べるったってな。そもそもどうやって旧棟に入るんだよ?あそこ鍵かかってんぞ。」
こちらも意外な事に、香取はあまり気乗りしていない様子だった。
「鍵なら、吹奏楽部の友達から借りればいいわ。彼女達は部活でよく出入りしてる筈だから怪しまれないはず。」
「それはそうだけど...どうしたんだよお前、何か変だぞ?」
確かに変だった。いつもの中条なら、そんなのくだらない勝手にやりなさい、とか言ってそうなのに。何故今回に限ってこんなに食いついてくるのだろう。
「それは...別に、なんでもないわよ。それより、今度みんな帰った後に、夜にでも忍び込んで...」
「ダメだよ、日菜子。」
中条の言葉を、鳴海さんが遮った。初めて聞く様な、厳しい口調だった。
「夜に学校に忍び込むなんて、守衛さんとかに見つかったらどうするの?それに倉庫として使ってるとはいえ、危険だから区画を制限してるんでしょう?」
「でも...」
「もしそれで日菜子に何かあったら…私は悲しいもの。だからお願い、日菜子。」
「.......。」
なんだか、気まずい雰囲気になってしまった…。
「...うん、ごめん天音。天音の言う通りだよね。」
「私こそごめん。ちょっとキツく言い過ぎたかな。」
何とかこの場は収まったようだ。喧嘩にならなくてよかった...。
「よ、よし、話もまとまったところで、皆帰ろうか。」
漂う微妙な空気に耐えられなくなったのか、荒垣くんが皆に帰りを促した。
「あ、ごめん。私、今日はちょっと用事が...。」
「わりぃ。俺も今日はやる事あるんだわ。」
と、鳴海さんと香取が早々に席を立って帰ってしまった。
「鳴海さんはともかく、香取まで...。あいつ最近用事が多いよな。ま、いいや。俺らも帰ろうぜ。」
僕と荒垣くんが席を立つと、
「ねぇ、私やっぱり…。」
中条が口を開いた。