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第四話 君と仲良くなりたくて

「そっか、そんな理由だったんだね。」


 一通りの状況を彼女に説明し終わり、一瞬の沈黙が訪れた。


「ごめんね、力になれなくて。」

「ううん、こちらこそごめんなさい。噂を鵜呑みにして初対面の人にこんな事を頼もうとしてたなんて...。冷静に考えるとどうかしてるわ。」


 中条の言う事も最もかもしれない。会ったばかりの人に、心霊現象で困ってます助けてくださいなんて頼むのはちょっと普通じゃなかった。


「それだけ悩んでたって事だもの。それなのに幽霊は信じないなんて言ってしまって...。」

「私も自分が体験するまでは信じてなかったし、気にしないで。むしろ、話聞いてもらってちょっとすっきりしたし。」


 そう言った中条の表情は、確かに幾分明るくなったように見えた。


 その後は他愛もない雑談に花を咲かせ、親睦を深めた。鳴海さんは優しくて気が利く、まさに世の男性が思い描く理想の女性像と言った感じだった。我が鳳鷹(ほうよう)高校に新たなアイドルが誕生した。


「ね、せっかくだから鳴海さんも一緒に帰らない?家はどっちの方角かしら。」

「私は、水神町...だったかしら?ごめんなさい、まだ住所とかあやふやで。」

「お、水神町なら皆同じ方向だな。せっかくだしどっか寄ってこうぜ。鳴海さんのプチ歓迎会だ。」


 なるほど。それは良いアイデアだ。


「いいね、僕も行くよ。」

「私達は良いけど、鳴海さんは大丈夫?引越しの片付けとかあるんじゃないかしら。」


 む、確かに。そこまで配慮が及ばなかった。


「ありがとう。片付けは大体終わってるから大丈夫よ。せっかくだからちょっとだけお邪魔しようかな。」


 鳴海さんがそう言うので、プチ歓迎会開催の運びとなった。


「よっし、決まりだな。じゃラック行こうぜ。無性にメガラックが食いたいんだ。」

「荒垣くんが食べたいだけじゃない...。まあ、他に行く所も無いしいいか。あんたも行くでしょ?」

「はい。行かせて頂きます。」


 今日発覚した事実。香取はこのレベルの美人を前にすると逆に静かになる。緊張が頂点に達したらしい。その分後からうるさいんだろうなぁ...。


 結局あの後もたっぷり話し込んで、外はすっかり遅くなってしまった。夏を前にして日が長くなってきているので、つい時間を忘れてしまう。鳴海さんが家の都合で引っ越してきて、現在一人暮らしをしている事。荒垣くんの家のラーメン屋にやって来たおかしな客の話。中条が今行きたいカフェの話。香取のどうでもいい話。時間はあっという間に過ぎ去った。

 そういえば、こうして皆で寄り道をするのも久しぶりだったっけ。

 退屈なんかじゃない、素直に楽しいと思える時間だった。


「鳴海さんのおかげ、か。」


 鳴海さんをきっかけに僕は、いや僕達は楽しい時間を思い出せた。

 中条の問題は解決しなかったけど、鳴海さんには感謝しなければ。ラクドナルドからの帰り道、そんな事を考えながら歩いていた。


「じゃ、俺らはここで。また明日な。」


 荒垣くんと香取と交差点で別れる。彼らは家が近所らしい。


「荒垣くんも香取くんも今日はありがとう。また明日ね。」

「な、名前を呼んで頂けるなんて...感激です!また明日!!」


 と言って大きく手を振っている香取。

 すっかり調子を取り戻していた。


「荒垣くん、そのバカの事お願いね。じゃあ、また明日。」


 手を振る中条。僕も二人に手を振った。




「私ね、こんなに楽しい帰り道って久しぶりなんだ。」


 歩きながら、中条が言った。


「最近は、こうやって寄り道することも無かったからさ。まあ、田舎だからそもそも寄る所が無いんだけど。」

「そう?私はこの街好きだよ。皆優しくて、いい所だと思う。歓迎会してくれたの、すごく嬉しかったよ。」

「あはは、荒垣くんナイス提案だったよね。」

「確かに、僕も久しぶりに楽しい帰り道だった。」

「きっかけはあんなだったけど...鳴海さんと知り合えて良かったわ。」


 と、はにかむ中条。中条のこんな顔は初めて見たかもしれない。


「うん、ありがとう。私も皆と友達になれて良かった。」


 そう言って鳴海さんも優しく微笑み返した。


「友達か。うん、そうだね。...ねぇ、鳴海さん、鳴海さんの事、名前で呼んでもいいかな?」


 と、尋ねる中条。


「もちろんだよ!私も中条さんの事、日菜子って呼んでもいい?」

「ふふ、もちろん。よろしくね、天音。」

「よろしく、日菜子。」


 そう言って笑い合っている二人。

 きっとこの二人はいい友達になれるだろう。


「じゃあ、私はここで。」


 そう言って、鳴海さんが別れる。


「うん、また明日ね、天音。」


 バイバイ、と手を振る中条。


「じゃあ、また」


 そう言って僕も手を振った。

 鳴海さんも僕を見て、そして中条を見て、


「気をつけて帰ってね。」


 そう言って一人歩いていった。


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